6周年を迎えた〈映画館で観るミュージカル〉松竹ブロードウェイシネマが、記念すべき第1回作品を再び上映!

 オペラから喜劇的要素の強いオペラ・ブッファが派生し、やがてロンドンやパリ、ウィーンなどでオペレッタ(コミック・オペラ)として独自の発展を遂げ、20世紀初頭には大西洋を渡ってアメリカでも花開く。それと、ミンストレルやヴォードヴィル、バーレスクといった様々なかたちのショウから生まれたレヴューとが次第に融合し、ブロードウェイの地で誕生したのがミュージカルである。1930~50年代にはJ.カーン、I.バーリン、C.ポーター、G.ガーシュウィン、R.ロジャースのいわゆる〈5大作曲家〉によって最初の黄金期が形成されるわけだが、その一人であるアーヴィング・バーリン(1888-1989)はロシアからの移民だ。実は正式な音楽教育を受けていない彼は、酒場のボーイ兼歌手としてキャリアをスタートし、独学でピアノ奏法を身につけたという苦労人。だが作詞と作曲の両方をこなせる持ち前の才能で、ティンパンアレイと呼ばれていたNYマンハッタンの楽譜出版社が軒を連ねる一画でソングライターとして頭角を現し、1911年23歳の時に“アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド”を書いて一躍ヒットメイカーの仲間入りを果たす。その後、舞台作品も多く手掛けるがやはりI.バーリンと言えば、世界初のトーキー作品「ジャズ・シンガー」(1927年)や「トップ・ハット」(1935年)など映画の音楽を担当したことで名高い。〈クルーナ〉唱法の確立者でトップ・シンガーのビング・クロスビーと不世出のダンサーでもあるフレッド・アステアの2大スターが共演した、1942年公開の「スイング・ホテル(原題 Holiday Inn)」はその代表作のひとつ。音楽家で舞台俳優のジム(クロスビー)が引退してコネチカットで農場を始めるが上手くいかず、家をホテルに改造して祝日だけ営業するゴージャスなキャバレーを開くが、かつての相棒テッド(アステア)がやって来たことで、店の看板女優であるリンダをめぐって恋のバトルが巻き起こるというお話。I.バーリンが復活祭や独立記念日などそれぞれの祝日に結びつけて書いた曲はどれも楽しく(美しく)て、特にクロスビーが歌った“ホワイト・クリスマス”はチャートの首位を何週間も独占する大ヒット曲となり、映画音楽の枠を超えた永遠の名クリスマス・ソングとして今なお世界中で愛され続けているのはご存じの通り。

 2016年にブロードウェイ初演を果たした「ホリデイ・イン」はこの映画をミュージカル舞台化したもの。「紳士のための愛と殺人の手引き」オリジナル・キャストのブライス・ピンガムをジム役に、そしてテッド役にテレビ・ドラマ「ハイスクール・ミュージカル」のコービン・ブルー、リンダ役に実力派のローラ・リ-・ゲイヤーを配し、1940年代の雰囲気はそのままに脚本をわかりやすくリニューアル。リンダが子どもの頃から農場で働いている元気いっぱいな女性ルイーズが新キャラとして追加され、大活躍を見せるのも面白い。オリジナルでも魅せ場だったテッドによるファイヤークラッカー(爆竹)を使ったダンスが見事に再現され、ジムの舞台仲間を総動員しての大勢でのダンス・シーンがよりゴージャスに生まれ変わっているのも必見だ(※振付のデニス・ジョーンズは本作でトニー賞にノミネートされた)。もちろん全編を彩るのは“アメリカのシューベルト”とも呼ばれるI.バーリンが書いた、親しみやすく人々の心を捉えてはなさない名曲の数々。しかも“ホワイト・クリスマス”を筆頭に“ハッピー・ホリディ”や“ビー・ケアフル,イッツ・マイ・ハート”など元々映画のために用意された楽曲に加えて、今やジャズのスタンダード・ナンバーとしてもお馴染みの“ブルー・スカイ”(…前述の「ジャズ・シンガー」劇中でアル・ジョルソンが歌ってヒットさせた、明るい歌詞と寂しげな旋律が絶妙にマッチした素敵なナンバー)や“チーク・トゥ・チーク”(…前述の「トップ・ハット」劇中でアステアが恋する男の天にも昇る高揚感を歌った陽気なラヴ・ソング)など、珠玉のバーリン・ソングがこれでもかと散りばめられているのも圧巻。ぜひ映画館で本場のブロードウェイ体験を!

 


MOVIE INFORMATION

松竹ブロードウェイシネマ「ホリデイ・イン」
■出演
ジム役:ブライス・ピンカム
テッド役:コービン・ブルー
リンダ役:ローラ・リー·ゲイヤー
ルイーズ役:ミーガン・ローレンス
ライラ・ディクソン役:ミーガン・シコラ
ダニー役:ダニー・ルティリアーノ
チャーリー・ウィンスロー役:モーガン・ガオ
■制作
音楽&歌詞:アーヴィング・バーリン
脚本:ゴードン・グリーンバーグ&チャド・ホッジ
演出(舞台版):ゴードン・グリーンバーグ
振付:デニス・ジョーンズ
監督(シネマ版):デイヴィッド・ホーン
プロデューサー(舞台版):ラウンドアバウト・シアター・カンパニー
プロデューサー(シネマ版):BroadwayHD
美術デザイン:アナ・ルイゾス
衣装デザイン:アレーホ・ヴィエッティ
照明デザイン:ジェフ・クロイター
サウンドデザイン:キース・カッジャーノ
音楽スーパーバイザー/音楽監督/指揮:アンディ・アインホーン
配給:松竹
©BroadwayHD/松竹
〈米国/2017/16:9/122分/5.1ch〉日本語字幕スーパー版
2023年10月6日(金)より全国順次限定公開!
https://broadwaycinema.jp/