天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今回は年末の特別企画として、〈PSN〉が選んだ2020年のベスト・ソング25曲を発表します!」

田中亮太「2020年、本当にいろいろなことがありましたよね。まず、新型コロナウイルス感染症の感染拡大、という世界的な危機がありました。それに伴うライブの中止、リリースの延期など、音楽シーンは大変な打撃を受けた一年だったと思います」

天野「コロナ禍を受けたアクション、それを表現に反映させた作品など、今年は新型コロナの影響抜きには語れないですよね。もうひとつ大きな出来事は、アメリカでのブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動の再燃です。5月、ジョージ・フロイドさんが白人警察官によって殺害された事件をきっかけに、反人種差別の声が世界へと広がりました」

田中「当然、この動きは音楽の世界全体に波及しました。これを受けて、〈PSN〉は〈Black Lives Matterムーヴメントを受けて発表された13の新曲〉という緊急特集をやりましたね。BLMは、2020年の音楽シーンを語るうえで無視できないファクターです」

天野「その一方で、K-PopのスターであるBTSが大活躍して……と、2020年の音楽シーンについて振り返っているときりがないので、これくらいにしましょう。それでは、25位から順に発表します!」

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25. Jayda G “Both Of Us”


田中「最高のピアノ・ハウスで2020年のランキングをスタートさせましょう。ジェイダ・Gの“Both Of Us”を25位に選びました。彼女は、カナダ出身で現在は英ロンドンを拠点に活動しているDJ/プロデューサーです」

天野「ジェイダ・Gはソウルフルなダンス・ミュージックを得意としていて、昨年リリースしたアルバム『Significant Changes』はかっこいいダンス・レコードでした。12インチ・シングルで聴きたくなる埃っぽい質感と、まろやかな低音がすごく魅力的ですよね」

田中「この“Both Of Us”は、パンピンなピアノと疾走感にあふれたビートのコンビネーションがたまりません。そして、ブレイクがまた最高なんです。徐々にBPMを落としていきながら、次第にピアノと歌とハンド・クラップだけになっていき、一瞬無音になったあとヴォーカルとキックがドン!と入るという。フロアのダンサーたちが狂喜乱舞するさまを想像できます。上のミュージック・ビデオでは、実際のパーティーの映像とそこで録った音をとても効果的に使っていて、このブレイクの素晴らしさを映し出しています。必見!」

 

24. Pa Salieu “Block Boy”

田中「24位はパ・サリュの“Block Boy”。彼はイングランド・コヴェントリーを拠点に活動するガンビア系の22歳。アフロスウィング(Afroswing)を中心に、グライムやドリルなどを取り入れたビートを乗りこなし、硬軟を巧みに使い分けるラップが魅力的な新鋭MCです」

天野「この曲のビートはアフロスウィングが基調で、パ・サリュのフロウはアフロスウィングのルーツであるレゲエ/ダンスホール風。さらにUKベース・ミュージックならではのダークなムードが、ぴんと張りつめた緊張感をもたらしています。めちゃくちゃかっこいいですよね」

田中「パ・サリュは、デビュー・ミックステープ『Send Them To Coventry』を11月にリリースしたばかり。僕と天野くんは絶賛ヘビロテ中です。いまのUKラップならではの独特なミクスチャ―感覚を味わえる傑作なので、ぜひ聴いてみてください!」

 

23. Fireboy DML feat. D Smoke “Champion”


天野「〈アフロビーツ(Afrobeats)を知るための10曲〉という記事で紹介したとおり、ファイアボーイ・DMLはナイジェリアを中心としたアフロビーツ・シーンの新星です。彼は自身の音楽を〈Afro-life〉と呼んでいて、アフロビーツとアメリカのR&Bなどを溶け合わせたスムーズなサウンドが特徴ですね」

田中「23位の“Champion”は、そんな彼のセカンド・アルバム『APOLLO』のオープナー。ファイアボーイの甘い歌声が艶やかですね。客演しているD・スモークは、Netflixのオーディション番組『リズム+フロー』で注目を集めた遅咲きの才能。2月にリリースしたファースト・アルバム『Black Habits』も話題になりました」

天野「2人のソウルフルな声が、素晴らしいマリアージュを聴かせていると思います。2021年もファイアボーイとアフロビーツ・シーンには注目してほしいですね!」

 

22. DaBaby feat. Roddy Ricch “Rockstar”


天野「今年もっとも話題になった一曲の“Rockstar”が21位に登場。2019年に大活躍したダベイビーと、2020年の顔になったロディ・リッチの共演曲で、ダベイビーのサード・アルバム『BLAME IT ON BABY』からシングル・カットされました」

田中「この曲はBillboard Hot 100で7回も1位になった、正真正銘のヒット・ソング。2020年を語るうえで外せないキーワードである、TikTok経由でも大ヒットしました」

天野「リリックは〈本物のロックスターに会ったことがあるか?/これはギターじゃないぜ、グロック(拳銃)だ〉というもの。一方で警察官に中指を立てた内容でもあり、ダベイビーは6月にこの曲の〈BLM Remix〉を発表しています。そういった文脈でも、2020年を象徴する曲ですね」

 

21. Roddy Ricch “The Box”


天野「こちらもロディ・リッチの楽曲です。21位は“The Box”。2019年末に発表されたデビュー・アルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』の収録曲です」

田中「これぞTikTokヒットですよね。全編で聴ける〈イ・ウ〉というアドリブに合わせて鏡を拭くユーモラスな動画が流行って、一気にヴァラルで広がりました。なんと全米チャート1位を11週間独占するという記録を達成しています。よく聴くとロディのストイックなラップがクールな曲なのですが、いまの時代なにがどういう形で流行るのかまったく予想できませんね」

天野「アルバムを聴いたときはあまり気に留めなかったので、ここまでヒットするとは思いもよりませんでした(笑)。ちなみに、この曲のビートの作者である30・ロック(30 Roc)とダット・ボーイ(Dat Boi)は、『ロディが〈イ・ウ〉っていきなり乗せてきたんだ。〈なにこれ?〉って思ったよ(笑)。でもパーフェクトにブレンドされたね』なんて、Geniusのインタビューに語っています」