天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今回は年末の特別企画として、〈PSN〉が選んだ2020年のベスト・ソング25曲を発表します!」
田中亮太「2020年、本当にいろいろなことがありましたよね。まず、新型コロナウイルス感染症の感染拡大、という世界的な危機がありました。それに伴うライブの中止、リリースの延期など、音楽シーンは大変な打撃を受けた一年だったと思います」
天野「コロナ禍を受けたアクション、それを表現に反映させた作品など、今年は新型コロナの影響抜きには語れないですよね。もうひとつ大きな出来事は、アメリカでのブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動の再燃です。5月、ジョージ・フロイドさんが白人警察官によって殺害された事件をきっかけに、反人種差別の声が世界へと広がりました」
田中「当然、この動きは音楽の世界全体に波及しました。これを受けて、〈PSN〉は〈Black Lives Matterムーヴメントを受けて発表された13の新曲〉という緊急特集をやりましたね。BLMは、2020年の音楽シーンを語るうえで無視できないファクターです」
天野「その一方で、K-PopのスターであるBTSが大活躍して……と、2020年の音楽シーンについて振り返っているときりがないので、これくらいにしましょう。それでは、25位から順に発表します!」
25. Jayda G “Both Of Us”
田中「最高のピアノ・ハウスで2020年のランキングをスタートさせましょう。ジェイダ・Gの“Both Of Us”を25位に選びました。彼女は、カナダ出身で現在は英ロンドンを拠点に活動しているDJ/プロデューサーです」
天野「ジェイダ・Gはソウルフルなダンス・ミュージックを得意としていて、昨年リリースしたアルバム『Significant Changes』はかっこいいダンス・レコードでした。12インチ・シングルで聴きたくなる埃っぽい質感と、まろやかな低音がすごく魅力的ですよね」
田中「この“Both Of Us”は、パンピンなピアノと疾走感にあふれたビートのコンビネーションがたまりません。そして、ブレイクがまた最高なんです。徐々にBPMを落としていきながら、次第にピアノと歌とハンド・クラップだけになっていき、一瞬無音になったあとヴォーカルとキックがドン!と入るという。フロアのダンサーたちが狂喜乱舞するさまを想像できます。上のミュージック・ビデオでは、実際のパーティーの映像とそこで録った音をとても効果的に使っていて、このブレイクの素晴らしさを映し出しています。必見!」
24. Pa Salieu “Block Boy”
田中「24位はパ・サリュの“Block Boy”。彼はイングランド・コヴェントリーを拠点に活動するガンビア系の22歳。アフロスウィング(Afroswing)を中心に、グライムやドリルなどを取り入れたビートを乗りこなし、硬軟を巧みに使い分けるラップが魅力的な新鋭MCです」
天野「この曲のビートはアフロスウィングが基調で、パ・サリュのフロウはアフロスウィングのルーツであるレゲエ/ダンスホール風。さらにUKベース・ミュージックならではのダークなムードが、ぴんと張りつめた緊張感をもたらしています。めちゃくちゃかっこいいですよね」
田中「パ・サリュは、デビュー・ミックステープ『Send Them To Coventry』を11月にリリースしたばかり。僕と天野くんは絶賛ヘビロテ中です。いまのUKラップならではの独特なミクスチャ―感覚を味わえる傑作なので、ぜひ聴いてみてください!」
23. Fireboy DML feat. D Smoke “Champion”
天野「〈アフロビーツ(Afrobeats)を知るための10曲〉という記事で紹介したとおり、ファイアボーイ・DMLはナイジェリアを中心としたアフロビーツ・シーンの新星です。彼は自身の音楽を〈Afro-life〉と呼んでいて、アフロビーツとアメリカのR&Bなどを溶け合わせたスムーズなサウンドが特徴ですね」
田中「23位の“Champion”は、そんな彼のセカンド・アルバム『APOLLO』のオープナー。ファイアボーイの甘い歌声が艶やかですね。客演しているD・スモークは、Netflixのオーディション番組『リズム+フロー』で注目を集めた遅咲きの才能。2月にリリースしたファースト・アルバム『Black Habits』も話題になりました」
天野「2人のソウルフルな声が、素晴らしいマリアージュを聴かせていると思います。2021年もファイアボーイとアフロビーツ・シーンには注目してほしいですね!」
22. DaBaby feat. Roddy Ricch “Rockstar”
天野「今年もっとも話題になった一曲の“Rockstar”が21位に登場。2019年に大活躍したダベイビーと、2020年の顔になったロディ・リッチの共演曲で、ダベイビーのサード・アルバム『BLAME IT ON BABY』からシングル・カットされました」
田中「この曲はBillboard Hot 100で7回も1位になった、正真正銘のヒット・ソング。2020年を語るうえで外せないキーワードである、TikTok経由でも大ヒットしました」
天野「リリックは〈本物のロックスターに会ったことがあるか?/これはギターじゃないぜ、グロック(拳銃)だ〉というもの。一方で警察官に中指を立てた内容でもあり、ダベイビーは6月にこの曲の〈BLM Remix〉を発表しています。そういった文脈でも、2020年を象徴する曲ですね」
21. Roddy Ricch “The Box”
天野「こちらもロディ・リッチの楽曲です。21位は“The Box”。2019年末に発表されたデビュー・アルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』の収録曲です」
田中「これぞTikTokヒットですよね。全編で聴ける〈イ・ウ〉というアドリブに合わせて鏡を拭くユーモラスな動画が流行って、一気にヴァラルで広がりました。なんと全米チャート1位を11週間独占するという記録を達成しています。よく聴くとロディのストイックなラップがクールな曲なのですが、いまの時代なにがどういう形で流行るのかまったく予想できませんね」
天野「アルバムを聴いたときはあまり気に留めなかったので、ここまでヒットするとは思いもよりませんでした(笑)。ちなみに、この曲のビートの作者である30・ロック(30 Roc)とダット・ボーイ(Dat Boi)は、『ロディが〈イ・ウ〉っていきなり乗せてきたんだ。〈なにこれ?〉って思ったよ(笑)。でもパーフェクトにブレンドされたね』なんて、Geniusのインタビューに語っています」
20. Waxahatchee “Fire”
天野「20位はケイティ・クラッチフィールド(Katie Crutchfield)のソロ・プロジェクト、ワクサハッチーによる“Fire”。3月にリリースされた『Saint Cloud』からのシングルです。アルバムはめちゃくちゃ素晴らしくかったですよね。ボン・イヴェール周辺やホイットニーなどを手掛けるブラッド・クック(Brad Cook)をプロデューサーに迎えた心地よいインディー・フォーク/アメリカーナ・サウンドで、リリックの深みなどからすでに多くのメディアが年間ベスト・アルバムの上位に選んでいます」
田中「これまでの作品はラウドなギターが特徴のオルタナティヴ・ロック・サウンドでしたが、今回はすごくフォーキーで落ち着いたムードでしたよね。なかでもこの“Fire”は、ウォーミーなシンセサイザーの音色と、ゆったりとしたビートが効いている楽曲。さりげないソウルっぽさもいいですよね。そして、歌詞がまたいい。アルバム全体は〈アルコール依存症との闘いと克服〉がテーマになっていて、“Fire”では不完全な自分を認めてあげることを歌っています。〈私は木のなかの鳥/完全に見えなくたっていい〉というフレーズが泣けるんです……」
19. Beabadoobee “Care”
天野「19位は2020年を代表するニューカマー、ビーバドゥービーの“Care”! この胸キュンなメロディーと甘酸っぱいギター・サウンドを聴くだけで最高の気分になります。清々しい一曲です」
田中「ビーバドゥービーはフィリピンのイロイロ生まれ、英ロンドンで活動するベアトリス・クリスティ・ラウス(Beatrice Kristi Laus)のステージ・ネームです。彼女は、パウフー(Powfu)のヒット曲“death bed (coffee for your head)”でサンプリングされた“Coffee”(2018年)も注目を集めましたね」
天野「“Coffee”はローファイなフォークですが、ビーはそこから一歩踏み出して、グランジ的なギター・ロック、90年代風のノスタルジックなロック・サウンドに振り切れました。ダーティ・ヒット(Dirty Hit)からのデビュー・アルバム『Fake It Flowers』は必聴作です!」
18. Doja Cat “Say So”
天野「18位はドージャ・キャットの“Say So”! 上半期のベスト・ソングでは迷った末選外にしてしまったのですが、一年を通してこの曲は存在感を放っていたので、年間ベストに選びました。いろいろな場所で耳にすることが多かった曲ですね」
田中「もともとは2019年にリリースされたセカンド・アルバム『Hot Pink』の収録曲で、2020年に入ってからTikTok発でヒットした楽曲。ディスコ調のビートと太いベースが生むグルーヴ、そしてドージャの甘い歌声が癖になりますね」
天野「中毒性がめちゃくちゃ高いです。ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたリミックスは、全米1位を獲りました。忘れちゃいけないのが、インドネシアのレイニッチ(Rainych)が歌った日本語のカヴァー。これがバズったことはすごく印象的で、僕は彼女のカヴァーで“Say So”にハマりました(笑)」
17. Taylor Swift “cardigan”
天野「テイラー・スウィフトのサプライズ作『folklore』は、2020年を象徴する作品でしたよね。これまでのポップ路線をかなぐり捨てた、とても内省的なインディー・フォーク・アルバムである『folklore』は、静かだけれどとてもセンセーショナルな作品でした。17位の“cardigan”は、同作からのシングルです」
田中「コロナ禍によってロックダウンされた状況で、リモートで制作されたのが『folklore』でしたね。プロデューサーは、テイラー本人とナショナルのアーロン・デスナー(Aaron Dessner)、そして売れっ子のジャック・アントノフ(Jack Antonoff)。この“cardigan”はデスナーがプロデュースだけでなく作曲にも参加していて、繊細な電子音響とアコースティックな音が溶け合った音像は、なんとも彼らしいもの。〈私は古いカーディガンのようだと感じていた〉と過去の恋を歌った切ない歌詞も、胸に迫ります」
16. Lady Gaga feat. Ariana Grande “Rain On Me”
田中「レディ・ガガとアリアナ・グランデ、という超強力なタッグが実現した“Rain On Me”が16位。ガガ様のアルバム『Chromatica』に収録された、今年を代表するヒット・ソングですよね! ここ日本では、渡辺直美とゆりやんレトリィバァによるMVのオフィシャル・パロディーも話題になりました」
天野「アッパーなダンス・ポップ・サウンドと、〈雨に打たれながらもたくましく生きていくんだ〉というパワフルなリリックが見事にマッチしていますね。シスターフッドを称揚した、フェミニズム的な観点でも重要な一曲ですし、コロナ禍に見舞われた世界中のリスナーを鼓舞した曲ではないでしょうか。実は今年、〈PSN〉はガガ様の楽曲を3曲も紹介しているんですよ。そもそも僕と亮太さんが彼女のことを大好きだというのはありますが……。でも、レディ・ガガはまぎれもなく2020年の音楽シーンの〈顔〉でしたよね!」
15. Bob Dylan “Murder Most Foul”
天野「ボブ・ディランの “Murder Most Foul”を15位に選びました。この曲を収録したアルバム『Rough And Rowdy Ways』は大絶賛されましたよね。重層的な詩の世界と、旨味と滋味がぎゅっと封じ込められたアメリカ音楽そのもののようなサウンドは、他にくらべられるものありません。Mikiki編集長のダイサク・ジョビンは、〈ただのポップ・ミュージックのいちアルバム、にして、人生観を大きく変えられてしまうかもしれない危険な芸術作品〉とまで書いていました」
田中「ダイサク・ジョビン、アツいですね……。この“Murder Most Foul”は17分近くにもわたる大曲で、長いランニング・タイムのなかでディランは、60年代を中心にアメリカ現代史を彩った出来事や人々を描いていきます。ジョン・F・ケネディの暗殺に始まり、ビートルズの上陸、ザ・フーの『Tommy』、〈ウッドストック・フェスティヴァル〉といったロックにまつわるトピックから、マリリン・モンローやバスター・キートンなどのカルチャー・アイコン、さらに陰謀論や人種差別を含むポリティカルな事象まで。79歳のディランが描いたアメリカの肖像画とでも言えそうな一曲です」
天野「現在のツアー・バンドのメンバーによる演奏も素晴らしいのですが、フィオナ・アップルがとてもリリカルなピアノで貢献していることにも注目!」
14. The Chicks “March March”
天野「14位はチックスの“March March”。アルバム『Gaslighter』からの楽曲です。長年ディクシー・チックスとして活動していた彼女たちは、この曲を発表するとともに〈The Chicks〉へと改名。大きな話題になりましたね」
田中「バンドは改名の理由を〈時勢に沿いたい〉としか明かしていませんが、〈ディクシー(dixie)〉は奴隷制を温存していた頃のアメリカ南部を想起させる言葉だということが関係していると思います。そもそもリベラルな姿勢で活動してきたバンドですが、この改名はBLMの時代を象徴する出来事ではないでしょうか」
天野「チックスとしての初めての楽曲である“March March”が、ストレートに反人種差別を歌ったものであることも意義深いですね。構成は、マーチング・ドラムと歌のみの緊迫感あふれるイントロに始まり、徐々にフィドルやバンジョーといったカントリーの楽器が加わっていくもの。〈黒人たちが上げた声に白人たちも賛同していこう〉というメッセージが伝わってきます。数々のデモや市民運動、レインボー・フラッグなどのイメージ、アメリカの正義を映した歴史的瞬間をパッチワークしたMVも圧巻です」
13. Run The Jewels “walking in the snow”
天野「13位はラン・ザ・ジュエルズの“walking in the snow”。これも、今年のBLMを語るうえでは外せない一曲ですね。絶賛を受けたアルバム『RTJ4』の収録曲です」
田中「詳しくは池城美菜子さんによる解説に譲りますが、黒人たちが差別される不正義、不公正な社会の構造を切り取ったキラー・マイクのヴァースが強烈でした」
天野「マイクが引用した〈息ができない(I can’t breathe)〉は、エリック・ガーナーさんが白人警察官に暴行死させられたときに言った言葉で、BLMの標語になっているものです。でも、ジョージ・フロイドさんも同じ言葉を苦しみのなかで繰り返しました。それによって、“walking in the snow”のマイクのヴァースは特別な意味を持ってしまったのです。この曲を聴くたびに、フロイドさんのことを思わずにいられません……」
12. Christine And The Queens “People I’ve been sad”
天野「12位は、フランスのクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズの“People I’ve been sad”。クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズことエロイーズ・レティシエール(Héloïse Letissier)が歌ったこのアンニュイな曲ほど、今年のムードを切り取ったものはないでしょう」
田中「リリースされたのは2月なので、世界がコロナ禍に直面する前なんですけどね。〈人々よ、私は悲しんでいる/このフィーリング、わかるはず〉とシンプルな悲哀を吐露するクリスと、それに寄り添うエレクトロニックなビートやストリングス。何度聴いても、胸に迫るものがあります。孤独に向き合わざるをえなかった、そしてその孤独感を共有するしかなかった2020年の空気感が詰まっているように思いますね」
天野「この曲を収録したEP『La vita nuova』のタイトルは、〈新しい生活〉という意味です。そのことも、なんだか示唆的に思えてなりません」
11. Bad Bunny “Yo Perreo Sola”
天野「プエルトリコのバッド・バニーは、2020年にもっとも活躍したミュージシャンの一人でしょう! Spotifyが発表したランキングでは、グローバルでもっとも聴かれたアーティストがバッド・バニーで、アメリカ以外のアーティストが1位になるのは史上初だそうです」
田中「彼の大ヒット作『YHLQMDLG』から、“Yo Perreo Sola”を11位に選びました。太いレゲトン・ビートとネシ(Nesi)による艶めかしい歌、そしてコーラスで繰り返されるフレーズが中毒性抜群。突き抜けてポップな一曲です」
天野「また、ラテン音楽の世界のマチズモにノーを突き付けた歌詞にも意義があります。今年『YHLQMDLG』『LAS QUE NO IBAN A SALIR』『EL ÚLTIMO TOUR DEL MUNDO』と3作ものアルバムを発表したバッド・バニーは、引退すると言っていますが、本当なのでしょうか……? レゲトン/ラテン・トラップがもはやメインストリームになっている状況で、彼にはまだまだ最前線に立っていてもらいたい!」
10. Rina Sawayama “XS”
天野「ついにトップ10になりました! まずはリナ・サワヤマの“XS”が登場です。彼女はロンドンを拠点に活動している日本人アーティストで、ダーティ・ヒットからのファースト・アルバム『SAWAYAMA』が高く評価されています。正直、こんなにビッグ・アーティストになるとは思っていませんでした。『SAWAYAMA』は、90s R&Bやニュー・メタルなどを縦横無尽に掛け合わせたポップ・サウンドがフレッシュでしたね」
田中「なかでもこの“XS”は、ループするギターや跳ねたビートが特徴的で、初期のネプチューンズ・サウンドをほうふつとさせますよね。随所で飛び出すラウドなギターもN.E.R.D.っぽいですし」
天野「ハイパー資本主義、ハイパー消費社会を風刺した歌詞も痛快。ここで彼女は一人の消費者を演じていて、欲望がどこまでも肥大化していくさまを描いています。〈ショッピングモールで郵便番号を買った〉というラインには、思わず笑っちゃいました」
9. Burna Boy “20 10 20”
天野「ここ数年、アフロビーツはナイジェリアから世界へと進出していきました。そんななかでスターになったのが、このバーナ・ボーイ。今年は『Twice As Tall』という素晴らしいアルバムを発表していますね」
田中「9位の“20 10 20”は、『Twice As Tall』のリリース後に発表したシングルです。警察の暴力に対するBLMのプロテストはナイジェリアにも広がっていて、大規模な抗議活動が行われていました。そんななかで、10月20日に軍と警察によるデモ隊への発砲事件が起こってしまった……。“20 10 20”は、その悲劇を捉えています」
天野「ナイジェリア軍、警察、そして政府へのプロテスト・ソングとして、忘れられない一曲です。深い悲しみと静かな怒りに満ちた“20 10 20”に、僕はアフロビートの父であるフェラ・クティの魂を見ました」
8. Dua Lipa “Physical”
田中「8位はデュア・リパの“Physical”! 80年代のポップ・サウンドと映画『フラッシュダンス』をインスピレーション源としたダンサブルなナンバーです。こぶしをきかせたヴォーカルと焦燥感を煽っていくかのようなビートがクセになりますね。正直、最初に聴いたときは〈やりすぎかな〉と思ったくらいです(笑)」
天野「この曲がリリースされたのは1月後半で、新型コロナが話題になってはいましたが、まだ世界的に深刻化する前でしたよね。その後パンデミックが起こり、クラブやヴェニューに行くことはもちろん、外出して他人に会うこと自体が容易じゃなくなっていった……。そういった状況で〈肉体的になりましょう〉とパワフルに歌った“Physical”は多くのリスナーの潜在的な欲求を反映した歌になった、とも言えそうです」
田中「この曲を収録したアルバム『Future Nostalgia』はもちろん傑作でしたが、そのあとにリリースされた『Club Future Nostalgia』も素晴らしかったので、お聴き逃しなく。アルバムをまるごとリミックスして、さらにDJのブレスド・マドンナ(The Blessed Madonna)がミックスした一作です」
天野「25位で紹介したジェイダ・Gからイエジ、マドンナ、グウェン・ステファニー、さらに日本の星野源まで、ダンス・ミュージックとポップ・シーンの実力者が参加していました。ロックダウンされた世界にヴァーチャルなクラブを現出させた、最高のアルバムだと思います!」
田中「参加者の国際色が豊かで、メインストリームからアンダーグラウンドまで、それぞれが寄って立つシーンもバラバラ。それって、ダンスフロアにおいてはすべての者が共存できる、という彼女のメッセージの表れだと思うんです。ジャック・ル・コントとムーディマンがひとつのアルバムで仲良く隣に並んでいるなんて、普通ならありえないことですからね」
7. Phoebe Bridgers “Kyoto”
天野「7位はフィービー・ブリジャーズの“Kyoto”です。フィービーは2020年のロック・シーンにおける顔でしたね。今年のグラミー賞で4部門にノミネートされましたし、この“Kyoto”は〈最優秀ロック・パフォーマンス賞〉と〈最優秀ロック楽曲賞〉の2つに選ばれています。6月にリリースして高い評価を受けたアルバム『Punisher』は、個人的にも今年の気分に寄り添ってくれたとても大切なアルバムです」
田中「もともと親密なフォーク・ソングで内面の世界を表現していたフィービーが、このシングルで開放的なロックを奏でたことは鮮やかでしたね。そういった観点から〈PSN〉は上半期のベスト・ソング第1位に選びましたし、前作『Stranger In The Alps』の“Motion Sickness”に優るとも劣らない名曲だと思います。来日したときのエピソードを盛り込んだ歌詞や、手作り感満載のビデオにも注目!」
6. Cardi B feat. Megan Thee Stallion “WAP”
天野「カーディ・Bとメーガン・ザ・スタリオンの共演曲“WAP”が6位です。Pitchforkが今年のベスト・ソングのトップに選ぶなど、とにかく話題づくしの曲で、Billboard Hot 100では初登場で1位を獲りました。名実ともに、2020年の最重要曲でしょう!」
田中「カーディは今年、この他に“Press”しかソロ・シングルを発表していないのですが、やっぱり“WAP”のインパクトは大きかったですね。めちゃくちゃダーティーで過激、性的にあけすけなこの曲のリリックは衝撃的で、〈バッド・ビッチ〉の面目躍如でした」
天野「〈WAP〉は〈Wet Ass Pussy〉の略ですからね! リリックを訳すのは、ここでは控えておきます。そして、なによりも重要なのは2020年の超重要アイコンであるメグが参加しているということ。これに尽きるでしょう。メグはもともとセックスについてのあけっぴろげなリリックで知られていましたし、2人のブラック・ウーマンによる過激で開放的な“WAP”は、まちがいなくブラック・フェミニズムの文脈でも語れる一曲です」
5. The Weeknd “Blinding Lights”
田中「ついにトップ5! 〈PSN〉はウィークエンドの“Blinding Lights”を5位に選びました。発表されたのは2019年の11月末なのですが、2020年最大のヒット・ソングといえばこの曲ではないでしょうか。なんと、34か国でNo. 1に輝いています。この曲で彼は〈ポップのキング〉に上り詰めた印象です」
天野「なので、先日発表された第63回グラミー賞のノミネーションで彼が完全に無視されたことは不可解ですし、ウィークエンドが不憫になりました。ただ、ロザリア(ROSALÍA)をゲストに迎えたリミックスも発表されましたし、“Blinding Lights”旋風はまだまだ続きそう。ドラム・マシーンの粗いビートとちょっとチープで煌びやかなシンセのフレーズは、中毒性がものすごいですもんね」
田中「どキャッチ―なメロディーも含めて、ダサくなりすぎない絶妙なバランスの80年代感がたまらなく魅力。なんか、〈ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト〉で大賞を獲りそうなタイプの楽曲ですよね(笑)。それにはスウェーデン人のプロデューサー、マックス・マーティン(Max Martin)の貢献も大きいと思います。ウィークエンド自身はリファレンスにスージー&ザ・バンシーズやコクトー・ツインズを挙げていて、彼のニューウェイヴ志向とマーティンの類まれなポップセンスが奇跡的に融合した一曲なんでしょうね!」
4. H.E.R. “I Can’t Breathe”
天野「4位はH.E.R.の“I Can’t Breathe”。曲名の〈息ができない〉という言葉については、13位のラン・ザ・ジュエルズ“walking in the snow”のところで語ったとおりです。この楽曲にH.E.R.の、黒人女性としてのさまざまな思いが込められていることは、一聴すればわかると思います」
田中「アコースティック・ギターを中心にしたライブ・バンドの演奏によるサウンドが、さらに楽曲の悲痛さを増していますよね。ストリングスやオルガンのさりげない、けれどもソウルフルな演奏が印象的です」
天野「アメリカにおける黒人たちの苦闘の歴史をパーソナルな思いとともに吐き出した後半のラップは圧巻で、〈We can’t breathe(私たちは息ができない)〉という最後の一言には苦悶が滲んでいます。BLM運動が激しさを増していった6月に発表されたことも忘れがたくて、2020年の社会を映し出した曲だと言えるでしょう。H.E.R.は今年アルバムやEPこそ発表していませんが、重要なシングルをいくつもリリースしていたことで存在感がありました」
3. Megan Thee Stallion feat. Beyoncé “Savage Remix”
天野「いよいよトップ3です。先ほども言ったように、メーガン・ザ・スタリオンは2020年のMVPの一人だと思っています。彼女の“Savage”は3月にEP『Suga』の収録曲としてリリースされると、TikTokのダンス・チャレンジで火が点いてヴァイラル・ヒット。それを受けて4月に発表されたのが、ビヨンセとのこのリミックスです。メグにとって初の全米No. 1ソングで、のちに発表された待望のデビュー・アルバム『Good News』に収録されました」
田中「2人ともヒューストン出身で、同郷のスターが共演したことも話題になりました。COVID-19の拡大でダメージを受けた地元に貢献するため、貧困層に食料品を提供する慈善団体にすべての売上を寄付したことも重要な動きでしたね」
天野「とにかく、太い歌声を聴かせるイントロからクイーン・B=ビヨンセの存在感がハンパじゃなくて、震えます。ビヨンセの独特のコーラスやアドリブが全編に配されていて、聴いていると、まるでビヨンセ様に取り囲まれているかのように感じます(笑)。この2人に〈I’m a savage(私は獰猛だ)〉なんて言われたら、縮こまってしまいますね……。最強の女性2人による、強烈なコラボレーション・ソングでした」
2. BTS “Dynamite”
田中「2020年、もっともドラスティックに音楽カルチャーを変えたアーティストといえば、彼ら以外には考えられませんよね。韓国のアイドルから世界が熱狂するスターへと躍進した7人組、BTSです! 彼らにとって……いや、韓国の歌手として初めてBillboard Hot 100のNo. 1に輝いたシングル“Dynamite”を2位に選びました。正直、この曲が1位でもよかったと思うんですけど」
天野「そこは迷いましたね。今年の彼らの活躍は鮮烈でしたし。“Dynamite”は超重要ですが、僕としては、そのあとのシングル“Life Goes On”で再び1位を獲得したことこそが意味のあることだと感じています。“Dynamite”はあきらかに英語圏の市場をねらった英語詞の曲でしたが、“Life Goes On”はほぼ韓国語詞。全米チャートで韓国語の楽曲が1位になったことは史上初めてのことでした。いよいよK-Popはワールド・スタンダードになったことを実感しましたし、BTSはもはや〈K-Pop〉という枠には収まりきらない存在。もちろん、彼らの活躍は、アーミーたちのサポートがあってこそだと思います」
田中「“Life Goes On”を収録したアルバム『BE』も、アルバム・チャートで1位になりましたしね。話を“Dynamite”に戻すと、ディスコ・タッチのサウンドが超ゴキゲンで、ポップソングとして申し分ない曲です。でも、ディスコ・リヴァイヴァル的な音って正直、もうみんな飽きていたと思うんですよ。なのに、“Dynamite”は驚異的にフレッシュに響いた。その理由を考えると、〈ダイナマイトのように世界を輝かせるよ〉というメッセージが、いまの時代を生きていくなかで暗くなりがちな人々の気持ちを照らしたからなんだと思います。BTSは、リスナーにそんなロマンティックな言葉を信じさせてくれるスター性を纏っている。すごい7人です」
1. Romy “Lifetime”
Song Of The Year
天野「そんなBTSの“Dynamite”とどちらを1位にするかをギリギリまで悩みましたが、この曲を選びました! ロミーの“Lifetime”が〈Song Of The Year〉です!!」
田中「ロミーは本名、ロミー・マドリー・クロフト(Romy Madley Croft)。イギリスのエレクトロニック・ポップ・バンド、The xxのヴォーカリスト/ギタリストとして知られています。この曲は〈Romy〉名義でのデビュー・シングルですね。〈もしあなたが孤独で/道を見つけられなかったとしても/いまの世界が終わったときに/私はあなたと一緒にいたい〉という歌詞が本当に素晴らしいです。コロナ禍の世に響く、強い肯定感を打ち出したダンス・ナンバーでしょう」
天野「今年は誰もがやりたいことを我慢したり、ライフスタイルを変えたりせざるをえなかったはず。そんななかで、“Lifetime”や“Dynamite”のようなポジティヴな音楽を、多くの人が求めていたのではないでしょうか。この曲は曇りのない肯定性に満ちていて、何度聴いても涙腺を刺激されますね」
田中「〈そのうち前と同じような日々が戻ってくるから〉とも解釈できる言葉を歌い切っているのがいいですよね。ここでロミーが描いている〈以前の光景〉とは、彼女が思春期の頃に憧れていたクラブのパーティーやレイヴの幸福感にあふれた一瞬のことだと思います。だからこそ、サウンド・プロダクションに90~2000年代のユーロ・ダンスやプログレッシヴ・ハウスを援用したんじゃないでしょうか。もちろん、彼女が大人になってからの〈サマー・オブ・ラヴ〉体験も反映されているのでしょうけど」
天野「そんな〈UKダンス・カルチャー讃歌〉としても受け止めることができる曲に、いま英国でもっとも注目すべき若手プロデューサーのフレッド・アゲイン(Fred again..)が参加しているのもいい。最近リリースされたこの曲のリミックスEP『Lifetime Remixes』ではジェイダ・Gやアンツ(Anz)、ハーイ(HAAi)といった若手の女性プロデューサーを起用していて、〈ダンス・ミュージックを私たちが受け継いでいくんだ〉というロミーの意志を感じました」
田中「ロミーたちの今後にも期待したいですね! 2020年はなかなかハードな一年でしたが、それでもたくさんの素晴らしい音楽が届けられました。読者のみなさんのベスト・ソングも知りたいところ。〈Pop Style Now〉は2021年も続くと思いますが、年明けまでに特別な企画をいくつか掲載する予定です。そちらも、ぜひお楽しみに!」