天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週の金曜日は春分の日で祝日だったため、お休みしました。なので、2週間ぶりですね」

田中亮太「それにしても、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況は、2週間前より悪化していますよね……。刻一刻と変化していっているので、本当に油断できません」

天野「おそろしいですね。日本に限らず、各国が入国や他国への渡航の制限をしているので、来日公演とイベントがどんどん中止や延期になっています。今週取り上げるボブ・ディランもそうですし、バート・バカラック、ウォーターボーイズ、カインドネス、ブルートーンズ、スクエアプッシャー、〈Rainbow Disco Club〉などなど……。マイ・ケミカル・ロマンスが出演予定だった〈DOWNLOAD JAPAN〉は延期になってしまいました。英国では〈ワイト島〉〈グラストンベリー〉〈ダウンロード〉などの大規模フェスが次々と中止に。5月以降の状況が見通せません。オリンピックや夏フェスはどうなるんでしょう?」

田中「国や地域によっても状況がまちまちなので、まったく予想できませんね。そんななか、海外メディアは〈ソーシャル・ディスタンシング(social distancing)〉という予防策の重要性を強調しています。〈人混みを避け、他人とは6フィート(=約2メートル)の距離を置く〉ことが大事だと。読者のみなさまも、どうぞお気をつけてください。こんなときは、家に引きこもってMikikiを読みながら音楽を聴きましょう! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. PARTYNEXTDOOR & Rihanna “BELIEVE IT”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、本日3月27日にリリースされたパーティネクストドアのニュー・アルバム『PARTYMOBILE』から、“BELIEVE IT”! 昨日先行リリースされたんですけど、その前からかなり話題になっていた曲ですね」

田中「なんといっても、リアーナが参加していますからね。リアーナが最後に曲を発表したのは2017年のケンドリック・ラマー“LOYALTY”とN.E.R.D.“Lemon”なので、約3年ぶりに音楽の世界に帰ってきたと言えます。最後のアルバム『ANTI』(2016年)から4年、〈出る出る〉と言われている新作についても、一向に情報が入ってきません」

天野「2017年の2曲は、どっちも客演ですしね。〈ネイヴィー〉ことリアーナのファンたちはリリの新曲を首を長くして待っていますよ!」

田中「リアーナといえば、新型コロナウイルス対策のために活動している人々に500万ドル(約5.5億円)を寄付した、というニュースもありましたね」

天野「そうですね。と、主役を措いてリリのことばかりしゃべってしまいました。“BELIEVE IT”は、一応パーティネクストドアのアルバムの曲です(笑)。パーティネクストドアはカナダのオンタリオ出身のシンガーで、ドレイクが主宰するOVOサウンドを代表するアーティストですね。〈ポスト・ドレイク〉〈ポスト・ザ・ウィークエンド〉と言いますか、アトモスフェリックなR&Bを得意とする歌手です。リアーナとドレイクのヒット・ソング“Work”(2016年)の作曲者としても知られています。で、この曲でのリリは、主にサビの部分を歌っているので、そこまで存在感がないですね(笑)」

田中「“BELIEVE IT”はパーティネクストドアが思いを寄せる女性に語りかけているような曲ですが、リアーナがその女性を演じる、みたいな構造になっているわけでもないですしね。パーティネクストドアと重ねて歌っているところが多い一方、聴くと一発でそれとわかる歌声なので、やっぱりすごい。というわけで、この“BELIEVE IT”と『PARTYMOBILE』を聴いて、リアーナの新曲を待ちましょう!」

 

2. Bob Dylan “Murder Most Foul”

天野「2位はボブ・ディランの“Murder Most Foul”。4月に開催を予定されていた来日公演は残念ながら中止になってしまいました。そんななか、ディランのオリジナル・ソングとしては2012年のアルバム『Tempest』以来、8年ぶりとなる新曲がリリース!」

田中「なんと約17分という超長尺の楽曲……。その全容をまだ解読できてはいないんですが、アートワークに使われたジョン・F・ケネディのポートレートが示唆しているように、この曲でディランは、JFKの暗殺が起きた日のことを振り返っています。さらにビートルズのアメリカ上陸、ザ・フーの『Tommy』(69年)、〈ウッドストック・フェスティヴァル〉などへの言及もあり、60年代を回顧した叙事詩的な楽曲と言えそうです」

天野「強烈な一曲ですね。とはいえ、このリリックは〈めちゃくちゃディランらしいな〉と思いました。こういう〈現代の吟遊詩人〉的なスタイルは、21世紀のボブ・ディランが得意としてきたものなので。厳粛なストリングスと繊細なタッチのピアノ、心地よいパーカッションで編まれたサウンドは、近年のディランらしいリリカルなもの。“Murder Most Foul”の発表に際してディランは、〈長年にわたるすべてのサポートと忠誠心に感謝して、ファンとフォロワーに挨拶します。これは少し前にレコーディングした未発表楽曲で、もしかしたら『おもしろい』と思ってもらえるかもしれません。どうか無事に、お気をつけて、神があなたと共におられるように〉とツイート。いつ録音された曲かはわかりませんが、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行を受けて、そのリアクションとして発表したんでしょうね」

田中「終盤では、リンジー・バッキンガムやバスター・キートン、オスカー・ピーターソン、マリリン・モンローなどなど、60年代に限らない北米のカルチャー・アイコンやトピックが登場します。さらには映画『エルム街の悪夢』(84年)まで! ディランが見てきた20世紀、といった趣もあるので、多くの人が家にいることになるであろう今週末、ゆっくりと耳を傾けて、彼の言葉を辿ってみるのもいいんじゃないでしょうか」

 

3. Squid “Sludge”

天野「3位はスクウィッドの“Sludge”。スクウィッドは英南ロンドンの5人組ですね。多数のバンドがひしめく同地のアンダーグラウンドなロック・シーンが盛り上がっていることは、Mikikiでも積極的にお伝えしてきました。例えば、ファット・ホワイト・ファミリー(Fat White Family)やゴート・ガール(Goat Girl)、シェイム(Shame)、ソーリー(Sorry)などなど」

田中「スクウィッドも彼らと同様にブリクストンのヴェニュー、ウィンドミルでライブをしていますし、以前から注目されてきたバンドですよね。ブラック・ミディ(black midi)などをフックアップしてきたダン・キャリー(Dan Carey)が主宰するスピーディー・ワンダーグラウンド(Speedy Wunderground)からEPや7インチ・シングルをリリースしています。そんな彼らがなんと、ワープと契約したことを発表! ……ただ、僕はそこまでダン・キャリーにもワープにも思い入れがないんです(笑)」

天野「ひどい! 僕はワープが大好きですし、ダン・キャリーがスピーディー・ワンダーグラウンドでやっている、めちゃくちゃDIYでローカルな活動を尊敬していますよ!! で、スクウィッドに話を戻すと、この“Sludge”はワイアーのサポートでサウンド・チェックをしていた時に着想を得た曲だそうです。それも納得の、ザクザクとしたポスト・パンク・サウンドですよね。ジャーマン・ロック的なモトリックなビートとシンセイサイザーやノイズは、なんとも陶酔的。僕はドラマー兼ヴォーカリストのオリー・ジャッジ(Ollie Judge)の歌が好きなんですよ」

田中「ポスト・パンクやNYノーウェイヴのバンドを思い出す、神経質でエキセントリックな歌声ですよね」

天野「そうそう。スクイッドは引き続きダン・キャリーがプロデュースするとのことで、ワープからのデビュー・アルバムに期待したいですね!」

 

4. Run The Jewels feat. Greg Nice & DJ Premier “Ooh LA LA”

田中「4位はラン・ザ・ジュエルズの“Ooh LA LA”。一応説明しておきますと、彼らは90年代から米NYのアンダーグラウンド・ヒップホップを牽引していたエル・P(El-P)と、ダンジョン・ファミリーやアウトキャスト軍団の一員としてシーンに登場したアトランタ出身のキラー・マイク(Killer Mike)によるデュオ。地域やスタイルを超えた異色のタッグとして2013年に登場して、大きな話題を集めました」

天野「RTJの魅力については、ele-kingに掲載された吉田雅史さんと二木信さんの対談がわかりやすいので、ぜひ一読を!  この“Ooh LA LA”は、きたる新作『Run The Jewels 4』からのシングル。ギャング・スターの94年のクラシック“DWYCK”をサンプリングしていて、同曲に客演で参加していたナイス&スムースのグレッグ・ナイスによるラインが効果的に使われています」

田中「埃っぽいブレイクビーツの質感も90年代を思わせる、オールドスクールなトラックですよね。なお、RTJはこの曲をリリースする直前に“Yankee And The Brave (Ep. 4)”という曲も発表しています。天野くんは、そっちのほうが好きなんだとか」

天野「そうなんです(笑)。エル・Pらしいサウンドだなって。初期のモワックスやDJシャドウの楽曲にも通じる、アブストラクトでトリッキーなビートがかっこいいんですよね。RTJには、やっぱり実験的でぶっ飛んだサウンドを期待しているので。とはいえ、2曲とも必聴。で、RTJはやっぱりリリックが重要なのでちょっと読んでみます。キラー・マイクの最初のヴァースは、オール・ダーティ・バスタードとジェルー・ザ・ダマジャという90年代のレジェンドの名前を引いているのがかっこいいですね。次のヴァースで〈俺たちは海賊〉とヴィランを引き受けて、〈昔はブルース(・ウェイン)が好きだったけど、狂った生活を送るうちに/理解を助けてくれよ、俺はたぶんジョーカーよりヤバい/俺たちが混沌の案内人なら、笑ってやるしかないな〉と、バットマンやジョーカーに言及。痺れますね! 新作も超楽しみ」

 

5. Kate NV “Sayonara”

天野「今週最後の一曲はケイト・NVの“Sayonara”です。彼女はエレクトロニック・ミュージック、エクスペリメンタルを好きなリスナーの間で知られているのですが、まだまだ知名度は低いかもしれません。Mikikiにもケイト・NVの記事ってないですし。ただ、Pitchforkがこの曲を〈Best New Track〉に選んだので、これからどんどん注目されていきそう」

田中「ケイト・NVはロシアのモスクワで活動するミュージシャン/DJで、ケイト・シロノソヴァ(Kate Shilonosova)によるソロ・プロジェクトだそうですね。2016年にオレンジ・ミルクからファースト・アルバム『Binasu』を、2018年にRVNGからセカンド・アルバム『для FOR』をリリースしています」

天野「『Binasu』はけっこう日本でも話題になっていましたね。といっても、狭い界隈での話ですけど……。彼女の電子音楽は実験的とも言えるのですが、柔らかく転がるようなシンセ・ポップ風の音色やトロピカルなムード、アンビエントな空気感がすごく親しみやすいんですよね。ケイトのヴォーカルもキュートですし」

田中「どこか教育番組の音楽っぽい優しさや親しみやすさ、ユーモアを感じますよね。この“Sayonara”もシンセ・ポップ調で、ポスト・パンク風のギター、ジャパンのミック・カーンっぽい動きまくるベースが印象的です。ロシア語を織り交ぜながら日本語で〈サヨナラ〉と歌っているのも不思議な感じ。ヴォーカリゼーションがパーカッシヴで、楽器的に音が配置されています」

天野「そう。これまでの曲より、ぐっとポップな曲調です。この曲は、6月12日(金)にRVNGからリリースされる新作『Room For The Moon』のシングル。アルバムも楽しみです」