田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。2020年5月25日、米ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが亡くなりました。死因は窒息死。白人警察官のデレク・ショーヴァンが膝で彼の首を8分46秒間も抑えつづけた結果、死に至ったのです」

天野龍太郎「池城美菜子さんが書いていたように、彼の死とクリスチャン・クーパー事件が引き金となり、ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動が再燃。全米で大規模な抗議活動や暴動が起こりました。6月2日に業務を停止させるなど、音楽業界もそれに対するリアクションを行ったことは、こちらの記事に詳しく書いたとおりです」

田中「今回は連載の特別編として、ブラック・ライヴズ・マターについての特集をお届けします。フロイドの死やブラック・ライヴズ・マター運動の高まりを受けて、この一週間に発表された楽曲をまとめて紹介しました」

天野「プレイリストもご用意しましたので、ぜひ聴いてみてください。この記事がブラック・ライヴズ・マターと人種差別について考えるきっかけになればいいなと思います」

 

Run The Jewels “walk in the snow”

天野「まず1曲目にご紹介したいのが、ニュー・アルバム『RTJ4』を前倒ししてリリースしたRun The Jewelsの曲です。この“walk in the snow”は『RTJ4』の収録曲で、キラー・マイク(Killer Mike)は次のようにラップしています。〈毎日、夜のニュースはお前に恐怖をタダで与えてくれる/そして、俺のような男が警察官から首を絞められているのを観るだろう/悲鳴は蚊の鳴くような声に変わる『息ができない』/お前はそれを家のソファに座って観ている/お前がやるのは、せいぜいTwitterで暴言を吐いて、それを『悲劇だ』とつぶやくくらいのこと〉。今回の事件を予見したかのような、すごいリリックです」

 

Dua Saleh “body cast”

天野「フロイドさんが亡くなった現場であるミネアポリスのアーティスト、デュア・サレーの新曲“body cast”です。警察官の暴力についての曲で、イントロとアウトロでは、〈権利を侵害するな!〉と警察官が家に押し入ってきたときのやりとりらしき生々しい音声を聴けます。この曲の収益は、黒人やLGBTQのためのNPO〈Black Visions Collective〉に寄付されるとのことです」

 

Terrace Martin feat. Denzel Curry, Daylyt, Kamasi Washington & G Perico “Pig Feet”

天野「LAジャズ・シーンのプロデューサーであるテラス・マーティンとサクソフォニストのカマシ・ワシントン、そしてラッパーのデンゼル・カリー、デイライト、G・ペリコの5人が共演したプロテスト・ソング“Pig Feet”。曲名の〈豚〉とは、警察官を揶揄して指した言葉だとか。激しく攻撃的なヒップホップ・ビートの上でデンゼルとデイライトがラップ。ベスト・ラインは、スヌープ・ドッグのリリックを引用したデンゼルの〈殺人はあいつらが俺たちにくれた『事件』だ/システムを操作/だから監獄こそが俺たちを守ってくれる/俺たちを守ってくれるものなんてない〉というところでしょうか」

 

Teejayx6 “Black Lives Matter”

天野「デトロイトのラッパー、ティージェイエックス6が、そのものズバリな曲名のラップ・ソングを発表。ビートはトラップ・シーンの売れっ子、TM88によるものです。〈息ができない〉とフロイドさんが訴えた言葉を引きながら、〈俺たちに言えるのはこれだけ、『黒人たちの命を軽視するな』〉とラップ。フロイドさんの死や警察官による暴力を映したビデオは、かなり直接的なものなので、ご覧になる際は注意してください」

 

cupcakKe “Lemon Pepper”

田中「シカゴのラッパー、カップケイクは新曲“Lemon Pepper”の売り上げの半分を〈Minnesota Freedom Fund〉へと寄付するそうです。このファンドは刑事事件の保釈や一時入国保証をサポートする非営利団体で、ノーネーム(Noname)やホールジー(Halsey)もSNSでここへの寄付を呼び掛けていましたね。リリックは〈ディックにはレモン・ペッパーとマイルド・ソースが必要!〉という、カップケイク節と言うべき内容。なかなかどぎつい……」

 

Lil B “I Am George Floyd”

天野「カリフォルニアの異才、〈The Basedgod〉ことリル・Bが〈私はジョージ・フロイド〉という曲を発表しました。7分にも及ぶ大曲で、気怠いヒップホップ・ビートに乗せて、警察官の暴力によって亡くなった黒人たちの名前を挙げていきます。〈非武装の黒人たちに対する警察官の暴力を止めなければならない〉というアウトロのラインに胸を打たれます」

 

Jim Jones “The People”

田中「キャムロンらとクルー〈ディプセット〉を率いているNYのヴェテラン、ジム・ジョーンズ。彼は、その名も“The People”というパワフルな楽曲でフロイドを追悼しました。もの悲しいヴォイス・サンプルと鍵盤に乗せ、〈警官が怯えている彼の首を膝で押さえつけた〉と生々しく描写しています。〈俺たちは人種差別がはびこる土地で平等の権利を探している/それはコロンブスがここに上陸したときから始まったんだ〉というラインが強烈」

 

Eric Bellinger “ENOUGH”

天野「エリック・ベリンガーは、2010年から活動しているLAのシンガー・ソングライターです。クリス・ブラウンの曲を多く書いていて、祖父がジャクソン5の作曲家だったボビー・デイ、というのも有名ですね。この曲では、〈もう十分だ/私たちはあまりにも多くのことを耐え忍んできた/警察官の暴力/新しい戦略のための時だ〉と悲痛に歌い上げています」

 

Conway The Machine “Front Lines”

天野「ウェストサイド・ガン(Westside Gunn)の兄弟で、ベニー・ザ・ブッチャー(Benny The Butcher)の従兄でもあるコンウェイことコンウェイ・ザ・マシーン。NYのマナーをいまに受け継ぐラッパーです。〈前線〉という戦闘的な言葉を曲名に掲げ、リル・Bの“I Am George Floyd”と同じように、警察官の暴力の犠牲となった者たちの名前をリリックに編み込んでいます。〈仲間たちはみんな外に出ているぞ(All my niggas outside))と、まさにデモの現場を実況するかのようなフレーズが印象的です」

 

Dre “Captured On A iPhone”

天野「マイアミのプロデューサー・チーム、クール&ドレー(Cool & Dre)としての活動で知られるドレー。現代のあらゆる悲劇が〈iPhoneで捉え〉られ、プロテストや防衛のためにも〈iPhoneが捉えた〉フッテージが使われる……。〈この曲をきっかけに若いラッパーたちが政治的な発言を臆せずにしてくれたらうれしい〉とドレーは語っています。抗議活動の様子を捉えたビデオは、とても生々しいです」

 

Nappy Roots “Blind Faith”

田中「南部ラップのヴェテラン・グループ、ナッピー・ルーツも新曲“Blind Faith”を発表しました。TR-808によるスムースなビートは、さすがキャリア25年選手。タイトルの〈盲目的な信念〉とは、さしたる理由はなく自分は正しい/偉いと思ってしまうことを意味しているようで、彼らはその思い上がりを〈すべての問題の根源〉と断罪しています。リスナーひとりひとりが無意識に持ってしまっているかもしれない差別感情に、改めて目を向けさせる一曲だと思いますね」

 

YG “FTP”

天野「N.W.Aの代表曲“Fuck Tha Police”(88年)。知らない人はいない、というくらいのクラシックですよね。彼らと同郷、コンプトンのYGの“FTP”(=Fuck The Police)は、もちろんそれを意識しているのだと思います。またドナルド・トランプ大統領を批判した、故ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)との“FDT”(2016年)にもかかっているあたり、一貫していますよね。シンプルなメッセージに貫かれた、YGらしい一曲」

 

Tee Grizzley feat. Queen Naija & Members Of The Detroit Youth Choir “Mr. Officer”

田中「最後はデトロイトの若手ラッパーが、同郷のクィーン・ナイジャと青年合唱団をフィーチャーした“Mr. Officer”。タイトルのとおり、警官による暴力を非難した楽曲です。〈お巡りさん、お巡りさん、あなたはヒーローのはずなのに/私たちの命を奪うのではなく、守るためにいるはずなのに〉というコーラスが、まだあどけなさの残る歌声もあいまって、ずしりと胸に響きます。

ここ日本でも先日、クルド人の男性に対して警察が不当に暴力を振るった事件が起こりました。差別による暴力は、対岸の火事ではないんです。世の中をいまより良いものにするために、僕たちも声を上げ続けなければいけないと思います」

 

*2020年6月8日追記
記事初出時に紹介したロブ・マークマン(Rob Markman)さんの“Parkside Freestyle feat. DviousMindz”はブラック・ライヴズ・マター運動を受けて発表された楽曲ではなく、マークマンさんのご要望を受けて削除させていただきました。謹んでお詫びし、ここに訂正させていただきます。(天野)