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『Queen of Hip-Pop』(2005年)

安室奈美恵 『Queen of Hip-Pop』 avex trax(2005)

大胆なタイトルに負けず劣らず、90年代の安室奈美恵のイメージを完全に過去のものにし、前作での方向転換の試み=同時代的なR&Bやヒップホップの昇華を早くも完成させたJ-R&Bの名盤。ミッシー・エリオット&ティンバランドによる“Get Ur Freak On”(2001年)などを意識したと思しきオリエンタルR&B“WANT ME, WANT ME”は、michicoとSUGI-Vが制作。強烈に扇情的で性的な歌詞も難なく歌いこなしてしまえる姿勢が力強い。T.Kura & michico夫妻が制作した“GIRL TALK”は、2000年代のR&Bらしいバウンシーなプロダクションと切ないメロディが見事なのはもちろん、シスターフッド的な女性どうしの友情を歌っている点が重要。そして特筆すべきは、のちに三浦大知などともタッグを組むことになるNao’ymtが6曲を手がけていること。表題曲や“WoWa”など、安室奈美恵の新機軸を提示した。 *天野

 

『PLAY』(2007年)

安室奈美恵 『PLAY』 avex trax(2007)

ダンスやビジュアル表現をよりハードにし、磨きをかける一方、音楽的には制作陣をNao’ymtとT.Kura & michicoという2組のプロデューサーに絞り、前作の路線を成熟させ、さらに発展させた、これまた名盤と言っていい『PLAY』。軽快なホーンセクションがタイトなグルーヴをうねらせる、めくるめく“CAN’T SLEEP, CAN’T EAT, I’M SICK”や“FUNKY TOWN”は、実に強烈だ。中でも悲しみに暮れる人を優しく慰め、勇気づけるエンパワーソング“Baby Don’t Cry”は、永遠のクラシックと呼びたい。挑発的なタイトルや鞭を手にした攻撃的なジャケットを含め、男たちに媚びず、時には弄びさえする、独立した女性上位・女性優位のイメージが強く打ち出されている。そういった点を含めて、この頃の安室奈美恵は2010年代以降のフィメールポップやガールクラッシュの価値観・態度を先取りしていたと改めて思った。 *天野

 

『BEST FICTION』(2008年)

安室奈美恵 『BEST FICTION』 avex trax(2008)

小室哲哉のプロデュースから独立したあと、新たな安室奈美恵像を音楽の面でも姿勢の面でも確立した2002~2008年。その充実した歩みをシングルから辿ることができるベスト盤(“Come”“the SPEED STAR”“Violet Sauce”“人魚”という両A面シングルの一方の曲は未収録)。聴きどころは、オリジナルアルバムに収録されなかった『60s 70s 80s』(2008年)からの3曲。ヴィダルサスーンのCMとのタイアップで、〈リメイク〉をテーマに60~80年代の各ディケイドにおける象徴的な曲を再構築した、日本では珍しい大ネタづかいの作品だ。モータウンを代表するザ・スプリームスの名曲“Baby Love”(64年)を引いた“NEW LOOK”が印象的だが、アレサ・フランクリンの同名曲(71年)をモダンなR&Bに転化させた“ROCK STEADY”、アイリーン・キャラ“Flashdance... What A Feeling”(83年)のノスタルジックなダンスポップをセクシーなEDMに再解釈した“WHAT A FEELING”と、いずれも歴史や先達へのリスペクトとともに〈私はこうだ〉という力強い主張が歌とプロダクションから感じられる佳曲である。Nao’ymt作の“Do Me More”、今井了介とUSK TRAK制作の“Sexy Girl”という最初と最後に置かれた新曲は、その後の2010年代における方向性を示唆している。 *天野