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人の心を2ミリ動かしたいんですよ

ZAZEN BOYS 『らんど』 MATSURI STUDIO(2024)

 ニュー・アルバムのタイトルは『らんど』。〈乱土世界の夕焼けにとり憑かれ続けている人間の歌がここにある〉と向井は本作を評するが、彼が見た日々の風景が綴られている。

 「私は電動アシスト付き自転車でタラタラ都内を巡り巡って、最終的には銭湯に行くんです。MATSURI STUDIOがある渋谷区から、ときには荒川を渡り、埼玉県まで行ったりする。しかも、ずっと住宅街を通っていく。そうすると、街の空気が変わる瞬間があるんですね。それを感じながら、タラタラ自転車で走っているわけ。そうすると、〈ここにはこういう人が住んでて、こういう営みがあって〉っていうのを実感できるわけ。そして、想像するんですね。それが自分にとって生きてる実感に思えて、それをそのまま歌にしてます。“YAKIIMO”はそのときに見た風景をそのまま曲にしてるだけ。〈私はこう思った〉ではなく、〈そこに世界を感じた〉ということを表していきたいと思ってる。ただ少しだけ、1ミリぐらいハートが揺れた――そういうことを歌ったり、音楽という形にしたい。それを聴いてもらって、人の心を2ミリぐらい揺らしたい。そういうコミュニケーションをしたいと思ってバンドをやってるんですね」。

 東京オリンピックで表彰台に上がるロシア人射撃選手の姿と夕暮れ空の感覚が交差する“チャイコフスキーでよろしく”、寂しげな公園の風景を朗々と歌い上げる“公園には誰もいない”、土砂降りに打たれる高校生を見つめる“ブッカツ帰りのハイスクールボーイ”などを経て、本作のハイライトを飾るのが“永遠少女”。鋭角なコード・ストロークとともに、〈1945年 焼け死んだあの娘は15才だった〉〈君は確かめている 大人はみんなうそばかり〉と、言葉を紡いでいく。

 「この曲は最初から最後まで2コードだけなんですよ。でもテレキャスターでその2コードを鳴らしたときに、これを人のハートに突き刺して、背中まで貫きたいぐらいの衝動に駆られたんです。そのためには抜け作みたいな言葉じゃ成り立たんなと、その瞬間に思った。“自問自答”を作ったときも同じような感覚だったんです。あれも最初から最後まで4コードの繰り返しですから。この曲は戦争の風景を描写しているし、いま世界は戦争中ですよ。ただ〈戦争から目を逸らすな〉と言いたいがためにこの曲を作ったわけではないんです。なぜなら、ロシアのウクライナ侵攻が始まる前に曲と歌詞は出来てた。とにかく俺は人の心を3.5ミリ揺り動かしたいんですよ。戦争は悲惨である、戦争には反対だ、これは当たり前のことで、歌にするようなことでもない。〈この曲を聴いて、こう思いなさい〉っていうことをするのがいちばん嘘っぽい。何かを感じて、それがよくわからなかったら自分で探せと。世の中は嘘しかないから。それははっきり申し上げたい」。

 衝撃のデビューからちょうど20年。USODARAKEのこの世の中で、それでも生の実感だけは持ち続けるために、自問自答を繰り返してきた日々の歴史。いつものように〈繰り返される諸行は無常 それでも蘇る性的衝動〉から始まる1曲目“DANBIRA”で、向井は〈知ってる 俺は知ってる 全部全部知ってる〉と繰り返す。

 「ZAZEN BOYSという名前で20年間続けられてきたのは嬉しいことだし、幸せなことだし、これからもそうしていきたい。そうやって続けてきて、こうにしかならないことはよくわかってきた。NUMBER GIRLのときから薄々そうだと思ってたけど、俺はもうこうなんだと。だからそれを続けていくしかないし、続けていきたいんだよね。凝り固まりたくはないけど、これしかないし、これが好きだし、こういうことをしたい。20年やってきて、それはもう答えですよ」。

NUMBER GIRLのライヴ盤『LIVE ALBUM「NUMBER GIRL 無常の日」』(ユニバーサル)