T字路sの初のオフィシャルブック「T字路sの世界」が、公式通販やライブ会場のほかではタワーレコード限定で販売中だ。インタビューや楽器の紹介、貴重な写真、描き下ろしのイラスト、メンバー2人の趣味までを収め、〈T字路sの世界〉がたっぷり感じられるこの本。ここでしか聴けない音源が収録されたソノシート付きの特製仕様で、まさに永久保存版だと言える。そんな本書の魅力を、音楽ライターの桑原シローに紹介してもらった。*Mikiki編集部
血行を良くしてコリをほぐす本?
いまでは〈T字路s〉という字面を目にするだけで、ついつい情け深い気持ちに駆られてしまうとか、たえず人間むき出しのおっちゃんらが寄り合う飲み屋の光景が浮かんできちゃうとか、人生と旅の類似性について思いを巡らせたくなってしまうとか、そういった体質になってしまっている方々にとって、ここに紹介する「T字路sの世界」は、血行を良くしてコリをほぐし、情緒や好奇心や想像力などの働きをいっそう活性化させてくれるなどの良い効果をもたらしてくれるはず。
改めてきちんと説明をさせていただくと、この書籍は、先ごろリリースされたバンド初のベストアルバム『THE BEST OF T字路s』(2023年)と連動して刊行された初となる公式ブック。ファン投票の結果を元にセレクトされたベストソング集の中身をじっくり味わい尽くすのに大変役に立つ副食的アイテムとなっているわけだが、彼らの音楽とまだ対面していないという向きにとっても興味をそそるような香ばしい匂いを放っていることはしっかりと強調しておきたい。
例えば、本書の主要部となる伊東妙子と篠田智仁、各々のロングインタビュー。こちらを併せて読んでみれば、DIESEL ANN、COOL WISE MANというバンドでがむしゃらに音楽と対峙していたぜんぜんキャラの異なるふたりがひょんなことから人生の路地でバッタリと出くわし、文字どおり意気投合して新たな旅へと出発することとなる、そんなストーリーとの出会いに誰もが胸躍らされることは必至である。
T字路sの熱く晴れやかな冒険ドラマ
さてこのストーリーの肝となっているもの、それはふたりがかけがえのない相棒として徐々にサマになっていくその成長過程にあるといっていい。すでにメーターが7万キロを超えた中古車を手に入れて、全国各地のライブハウスや音楽酒場などに出没していたバンド走り始めの頃、そこにはいまでは生み出せないような闇雲な熱気があったことを伝えてくれるトークがまず興味深い。
そして2011年〈フジロック〉に初参加した際の苗場食堂で味わった目が覚めるような興奮、またコロナ禍がもたらした環境変化による心の移ろいなどが語られていくのだが、さまざまな体験を積みながらやがてT字路sという名の約束の場所を探り当てていくワクワクするような冒険談になっているのが素敵だ。
そしてそのドラマは、彼らが奏でるブルースやロックンロールにも似て、どこまでも熱くってすっきりと晴れやかだったりするのもおもしろい。