二人だけで奏でるブルース&フォークの生々しい熱情が、らしさ全開のままバンドを従えてグレードアップしたメジャー初作の登場! とけない魔法の時間は続いていく!
食らいついていくことの楽しさ
「とにかく夢中でした」というのは、メジャー第1弾アルバム『MAGIC TIME』のレコーディングを振り返っての、伊東妙子(ヴォーカル/ギター)のひと言。先行シングル“美しき人”で示された通り、T字路sはここで初めて本格的なバンドでの録音を敢行。プロデューサーに日本ロック界屈指のギタリストでもある佐橋佳幸を迎え、数多の現場でいくつも成果を残してきた百戦錬磨の名プレイヤーを従えての新たな試みは、ふたりにとって目を瞠るような体験となった。
篠田智仁(ベース)「オリジナル・アルバムって『BRAND NEW CARAVAN』(2020年)以来で、実はけっこう久しぶりなんです。一昨年にベスト・アルバム『THE BEST OF T字路s』を発表した時点でメジャーに行くことは決まってなかったものの、〈次は新しいスタートを切ろう〉〈新しい段階に進もう〉という意識が少なからずあって。で、図らずも今回のアルバムがそれに当たったという」
伊東妙子「メジャーに移って新たな旅路が始まるわけですから、これまでと違うことがやりたいという気持ちはもちろんありました。バンドでレコーディングしたらT字路sらしさが減るかも……って不安がなかったわけじゃないけど、出来上がったものを聴いたら、もうむちゃくちゃT字路sだなと。ただ、畑から引っこ抜いてきた素材はこれまでと同じなのに、調理方法が違うとこうも変わるものなのかと驚くばかりで」
確かに核で鳴っている音の感触は、むちゃくちゃT字路s的。特に豪華な装いを施されているわけでもないし、何かが失われたようでもない。ただし曲ごとに実に最適なサウンド・アレンジがなされた結果、バンド史上かつてないほどの高い完成度を獲得しており、曲が変わるたびその都度ニンマリさせられたことも確か。曲作りを除くほとんどの面で勝手が大きく違った今回のレコーディングで戸惑ったこととは?
伊東「まず、譜面が送られてきたぞ!ってことですかね(笑)。ただ考えてみると、テーマソングのオファーとか課題のある仕事がもともと好きで、その延長にこのレコーディングがあったとも思える。〈難しいお題だけど何とか乗り越えていくぞ〉って気持ちで臨んだら、出来上がったものが物凄くカッコ良かったわけじゃないですか。なんでしょうね、食らいついていくことの楽しさを全編通して味わいつつ、懸命に駆け抜けたって感じですかね」
篠田「これまで基本一発録りのスタイルでしたから、ドラムと合わせることにいろいろ苦労もありました。ただ、これまでずっとふたりだけでデモを作り上げる過程でも、頭の中だけで鳴っていた音が常にあって。もしも鍵盤がいたらこういうフレーズを弾いているだろうな……とか、いい演奏ができたときにこそそういったイメージが広がることがあった。そんな頭の中で鳴っていた音を具現化させたのが今回のアルバムで、それをスムースに具現化してくれたのが佐橋さん。もちろんイメージを上回るような音も入っているんだけど、これが欲しかった!と我々に思わせてくれる自然な完成形になっているのがすごい」
