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次の新しいものを掴む勇気

 SF的な視点はテクノロジーの進化と人類の関係にも及ぶ。80年代にクラフトワークやザップも同名異曲を残している“Computer Love”では、カマシはザップに影響を受けた。

 「ザップを聴いた時に、この自分のヴァージョンが頭の中に聴こえたんだ。人と人との繋がりについて考えさせられたんだよ。ロジャー・トラウトマンがこの曲を書いたのは、ある種の予言のような気がした。あの歌を書きながら彼が見ていたものを、実際の現在の世界のものにチューニングしたらどうなるんだろう、と思ったんだ。いま僕たちはテクノロジーによってもっと繋がることができているけど、スクリーンを通して繋がることで、実際の繋がりは薄くなっている。距離が縮まっていながら、同時に遠くもなっている。僕のヴァージョンでは、それについて描かれているんだ」。

 ザップはジョージ・クリントンに見い出されてPファンクの前座を務め、80年にデビューしたのだが、そのPファンクの総帥ジョージ・クリントンも“Get Lit”に参加している。

 「小さい頃からずっとジョージ・クリントンの大ファンなんだ。彼はヴィジュアル・アーティストでもあって、昨年展覧会を開いたんだよ。彼の作品を観て本当に驚いたし、圧倒された。その時に彼と話すことができて、“Get Lit”という彼にピッタリの曲があったから、思い切ってその曲で演奏してくれと頼んでみたら、話に乗ってくれてさ。それですぐにスタジオを予約して、彼が来るのを指くわえて待っていたら、本当に来てくれたんだ」。

 『Fearless Movement』の最後は、アルゼンチン・タンゴの巨匠アストル・ピアソラの“Prologue(序章)”で終わる。

 「多くの場合、何かの始まりは何かの終わりでもある。言い換えれば、何かが終わることで新しい何かが始まるわけで、僕にとってこの曲は、いまあるものを手放して、次にやってくる新しい何かを掴む勇気を表現した曲なんだ」。

 この曲のカマシのサックス・ソロは、まるでハード・ロックやヘヴィ・メタルのギター・ソロのようでもある。カマシは2021年にメタリカのカヴァー・プロジェクトに参加しているが、その経験が反映されたのかもしれない。

 「今回はサックスでディストーションを使ったんだ。僕のアイデアで、エンジニアと一緒にいる時、なんかそれをやりたくなったんだよね。メタリカの影響も、意識まではしていないけど、もしかしたらあるのかも。あのスタイルのサックスをやったのは、あの時が初めてだったから」。

カマシ・ワシントンの近作を一部紹介。
左から、2015年作『The Epic』(Brainfeeder)、2017年のEP『Harmony Of Difference』、2019年作『Heaven And Earth』、2020年のサントラ『Becoming』(すべてYoung)

左から、サンダーキャットの2020年作『It Is What It Is』(Brainfeeder)、パーラメントの2018年作『Medicaid Fraud Dogg』(C Kunspyruhzy)、Dスモークの2021年作『War & Wonders』(WoodWorks/Empire)、BJ・ザ・シカゴ・キッドの2019年作『1123』(Motown)