
異なる個性の同世代ピアニスト3人が揃って演奏する新鮮さ
――そんなふうに背景の異なる同世代のピアニスト3人が一緒に演奏しているというのが、この『Thirty Fingers』というアルバムの面白さだと思います。ピアノはリードを弾いてもサイドで弾いても輝く楽器だと思いますが、皆さんがピアニストとして音楽を表現するうえで最も心がけていることは何ですか?
平倉「ピアニストは、誰と共演するかとか編成によって役割が変わります。サイドで演奏する場合は〈今、自分にできることは何か〉を最優先で考えるし、リーダーのときは〈この人たちといい演奏をするにはどうすべきか〉を考える。あるいはソロだったら〈ピアノ1台でどこまで音楽を広げられるか〉と考えたり……。とにかく、その場に応じて、自分がすべきこと、自分にできることを常に考えるようにしています」
高橋「僕はシンプルに、自分が楽しければお客さんにも楽しんでもらえるはず、と信じているんです。もちろん、いろいろ考えることはありますが、結局、最後はすべてそこに行き着くような気がして」
武本「僕は、3和音のようなシンプルな音をパッと弾くだけで、お客さんに感動してもらえるようなピアニストになりたいと思っています。もちろんまだまだですけど。謙虚にピアニズムを学び、鍛錬を欠かさず、自分の音を磨き続けていきたいですね」
――3人のピアニストの共演作という、前代未聞の企画を平野プロデューサーからオファーされたときの率直な感想をおきかせいただけますか。
武本「〈レコーディングがどんな世界になるんだろう?〉とワクワクしました。共演するふたりが素晴らしいプレイヤーであることはもちろん知っているので、実際に演奏する前からクリエイティブなものになるという予感はありました」
高橋「3人とも異なる個性をもったピアニストなので、単純にそれぞれのプレイに興味がありましたし、一緒に演奏したらどうなるんだろう?と想像したりして、レコーディングをずっと楽しみにしていました」
平倉「当然〈面白い企画だな、楽しそうだな〉と思ったのと、タイプの違うふたりとのレコーディングなので、どんなものができるのかな?というワクワク感が私もありました」
――実際のレコーディングは、どんな感じでしたか?
武本「2台のピアノでレコーディングすること自体が初めてでしたし、お互いのオリジナル曲を演奏したりスタンダードナンバーを自由に紡いでいったり、とにかく制作におけるすべてが新鮮でした。〈ああ、ここでそれをやるのか〉とか、〈そういう展開に持っていくのか〉など、ふたりの演奏から大きな刺激を受けました」
高橋「ピアニストが3人も揃うことはなかなかないし、しかも同世代が揃って演奏することなんてまずないですから、そういった点でも面白かったですね」
平倉「タイプの違う人と演奏することによって、今までの自分にはなかった部分が引き出される体験がすごく良かったと感じています」

自作曲を同じピアニストと弾く神秘的体験
――スタンダードナンバーやジャズメンのオリジナル曲はもちろん、皆さんのオリジナルナンバー、ソロ演奏による即興のインタールードがバランスよく配置されている点も魅力的です。
平倉「組み合わせごとにオリジナルとカバーを1曲ずつ演奏したんですが、それぞれどちらが曲を持ってくるか、事前に平野さんから指定があったんです。私は佑成さんとの組み合わせでオリジナルを演奏することが決まっていました。
彼とどういう曲を演奏したいかと考えたときに、コントラストが際立つような曲を自由に演奏できたらいいなと思って、リハーサルの時に何曲か持っていった中から、“Unconscious”を選びました。〈あまり長くなりすぎないように〉ということで、一回のリハでノリをつかんで、そのまま本番のレコーディングに入った感じですね。すごく自然発生的な演奏になりました」
――武本さんの書いた“Freakin’ Ray of Sunshine”はひときわ明るい楽曲です。
武本「平野さんから、僕のオリジナルは初音ちゃんと演奏してほしいと言われていました。“Freakin’ Ray of Sunshine”は割と新しくできたオリジナルの一つで、明るく溌剌とした感じなので、彼女と演奏したら面白くなるんじゃないかと思ったんです。事前に簡単な打ち合わせをしたとき、彼女が〈どっちかがフェンダーローズを弾いたら面白いかも〉と言ったので、初音ちゃんにローズを弾いてもらいました。実はふたりともアコースティックピアノを弾いたバージョンも録ったんですが、今回はアルバムの流れの観点からローズバージョンが採用されました。
ちなみに曲名は〈めちゃくちゃ大きい太陽〉という意味です。沖縄に行った時に〈Freakin’ Ray of Sunshine〉と書いてあるTシャツを着た人を見て、そういう曲があってもいいんじゃないかと思い、明るい曲を作ろうと決めてできた曲です」
――高橋さんが提供したオリジナル曲は“Metsä”です。この曲名はどういう意味ですか?
高橋「フィンランド語で森という意味なんですが、当然わかりませんよね。実は、僕は曲名やコンセプトから曲を作ることはまずなくて、たいてい曲名は曲ができあがった後につけます。つまり僕にとって曲名は記号のようなものだから、曲名から内容を想像されたりイメージされるのはできれば避けたい。なので、あえてわかりづらくイメージしにくい名前をつけるんです(笑)」
――それにしても同年代の、同じ職業の人に、自分の書いたオリジナル曲を解釈されるのは、なかなか貴重な機会だと思うのですが……。
武本「大げさに言えば神秘的な体験です。自分の曲を自分にはない表現で聴くことができるし、でも、やっぱり同じピアニストだからこそわかることもある。すごく勉強と刺激になりました」
高橋「僕も驚きと楽しさがありました。たとえば“Metsä”にしても、〈おお、そうか、そういう感じで表現するのか〉という刺激があった。普通、自分の曲をほかのピアニストに弾いてもらうこと自体がないですからね。いま驚きと楽しさと言ったのは、演奏する楽器が同じだけに、ほかの楽器奏者よりもそれぞれのアプローチを身近に感じられる感覚があるからなんです」
平倉「私の曲を佑成さんと一緒に演奏していても、自分の考える自由な感じと、佑成さんの考える自由な感じとはまた全然違うんですよね。佑成さんならではの自由な感覚で私の曲を弾いてくれたのは、すごく刺激的でした」