(左から)岡田治郎、鬼怒無月、樋口素之助

日本ジャズの新たなプラットフォーム、Days of Delight(ファウンダー&プロデューサー:平野暁臣)が、また新たな冒険に出る。これまで同レーベルがリリースした作品とは趣向の異なる、ロック色の濃いサウンドが充満するアルバムの登場だ。

タイトルは『ORBIT』。カテゴリー無用の活躍を続けるギタリストの鬼怒無月が、ベーシストの岡田治郎、ドラマーの樋口素之助と新たに結成したユニットのライブステージを捉えた一枚である。鬼怒の作品がDays of Delightからリリースされるのは『フォーヴィスム』以来、約2年ぶり。アコースティックギターによる即興ソロパフォーマンスを収めた前作から一転、エレクトリック楽器を主としたスリリングな技のやりとりが堪能できるアルバムだ。さっそく鬼怒、岡田、樋口の話に耳を傾けてみよう。

鬼怒無月, 岡田治郎, 樋口素之助 『ORBIT』 Days of Delight(2026)

 

常にハイテンションで音楽をやってくれるふたり

――新トリオの結成に至ったきっかけを教えていただけますでしょうか。

鬼怒無月「2年くらい前だったかな、この3人でセッションをしたことがあって、それがすごくいい感じだったんですよ。日本のコンテンポラリージャズ、フュージョン、ジャズロックの中核をなすベーシストである岡田治郎さんは以前からの知り合いだったし、頭脳警察のドラマーの樋口素之助くんとも何回か一緒に演奏したことあって、素晴らしいプレイだなと思っていたんだけど、それまで3人で演る機会がなかったんです。3人がいい感じにハマったので、〈定期的に演らない?〉と僕が誘ったところ、ふたりとも快くOKしてくれて。

僕は、自分がギターソロで盛り上がってるときに、周りも同じぐらい盛り上がってくれないと物足りないんだけど、ふたりは思っていた以上にそういう人たちだったんですよ(笑)。僕は常にハイテンションで音楽をやってくれる人が好きなんです」

――アルバムタイトル『ORBIT』には〈軌道〉という意味がありますね。

鬼怒「なかなかいい言葉が見つからなかったんだけど、好きなバンドのひとつであるブランドXのセカンドアルバム『Moroccan Roll』のB面の2曲目が、ベーシストのパーシー・ジョーンズのソロパフォーマンスで、そのタイトルがたまたま“Orbits”だったんです。おお、コレだ!と思って(笑)」

――鬼怒さんと岡田さんが共演を始めたのはいつ頃ですか?

鬼怒「多分1990年代です。新澤健一郎くんのユニットだったと思います」

岡田治郎「その後、上野山英里さんのバンドで一緒になってから、いろいろと一緒に演奏することが増えました」

――鬼怒さんと樋口さんは、NITROというユニットでも演奏なさっていました。

樋口素之助「NITROは、がっちゃん(宮田岳)の歌ものが中心のバンドでした。コロナ禍の頃、けっこう演っていましたね」

 

ガチな根性マンガのような3人のぶつかり合い

――岡田さんと樋口さんはこのトリオで初めて共演したとのことですが、鬼怒さんがおふたりに声をかけた理由は何ですか?

鬼怒「素之助くんには、はち切れんばかりのやる気がある。そのエネルギーが僕は好きなんです。〈そういうことをやってほしかったんだ!〉といいたくなるような、びっくりするような展開を見せてくれます。

治郎ちゃんは、やる気に満ち満ちているところを表面に出すほうではないですが、やっぱり〈うわ、そんなことやるんだ!〉という感じが常にあるのが、すごくいい。他ではちょっと聴いたことがないような、ものすごく変なチョッパーを入れてきたり(笑)。そして本当にいいなと思うのは、そういうアプローチが完璧に肉体化されているところ。〈うわっ、すげえ!〉と思います。

このトリオの音楽は基本的にはすごくシンプルで、いわゆる〈テーマ~アドリブ~テーマ〉みたいな楽曲構造なんですが、このふたりとなら演奏していてもダレる瞬間がないし、僕がギターソロを弾くシチュエーションでも、ふたりが〈なんだかよくわかんないけど楽しいぞ!〉という感じを出してくれるのが本当にいいですね。演っていて楽しいです」

――樋口さんにとっての、このトリオならではの魅力は何でしょうか?

樋口「尊敬するふたりと一緒に音を出せることがまず嬉しいですね。自分に全くなかった何かが、毎回の演奏の中で生まれているというか。ライブごとに、大失敗するときもあれば、〈すげえよかったな!〉って感じるときもあるし、その日しかできないことをしているという……生きている音楽を演奏している感じです。このバンドは、普通だったら多分怒られるような事態になっても、演奏がムチャクチャになったとしても全部それを曲にしてくれるというか。(鬼怒と岡田は)僕をサポートしてくれるし、さらに演奏を広げてくれるんです」

――岡田さんはどうお考えですか? 

岡田「僕も(樋口と)同じです。即興演奏って、自分だけが何かを狙って弾いたり、自分だけが暴走したりするのはあまり良くないと思っているので、ごく自然に演奏しています。ドラマーとベーシストの組み合わせに関しては、鬼怒さんが〈新しい組み合わせで何か面白いことが起きないかな?〉と目論んでいる感じがアリアリですよね(笑)?」

鬼怒「僕は博打が好きだからね(笑)。僕の中で治郎ちゃんと素之助はジャンル的には相入れない、全く違う村の住人だけど、言ってみれば僕だって彼らとは異ジャンルの人間。治郎ちゃんも僕も演奏家としてある意味でメチャメチャだけど、素之助くんはそんな僕らに分け隔てなく、ガチで付き合ってくれる」

樋口「僕はもうホント、毎回ライブで挑戦しているような感じです。毎月毎月、自分の演奏を磨いて、〈これだけやっても、まだまだ追いつけない!〉というのをずっと繰り返してる(笑)」

岡田「根性マンガみたいだね(笑)」