OTIS BLUE
オーティス・ブラウン3世はいま何を考えているか?

 もちろん、ずっとジャズを掘ってきた人の視点からしても昨今のうねりが興奮をそそるものであるのは間違いないだろうが、一方で〈正直ジャズのことはよくわかっておりません!〉という私のようなタイプのリスナーにもそのおもしろさが伝わってくるところに、昨今の〈ジャズ〉のおもしろさはあると思う。エスペランザやロバート・グラスパー・エクスペリメントあたりから顕著になってきたものだが、ジャズがどう新しくなるのか、何がジャズなのかという昔ながらの構造のとかジャンル論ではなく、〈ジャズ〉という言葉を用いることによって、何か新しい音楽を知ることのできるのが単純に嬉しい。いまの流れを素直かつ無責任に楽しんでおくのがいちばん楽しい行為だろう。

OTIS BROWN III 『The Thought Of You』 Blue Note/ユニバーサル(2014)

 ここで紹介するオーティス・ブラウン3世も、その流れから登場してきたひとり。しかし、ジャンルを問わず勢いのある界隈ではこうした数珠繋ぎ的なリリースが続くから楽しいものだ。彼はブルー・ノート期待のドラマー。デラウエア州立大で本格的に音楽を学びはじめたのち、ドナルド・バードにNYで学ぶことを勧められ、卒業後にニュースクール大学へ進学、そして……(お決まりの文の流れになりつつあるが)同窓のロバート・グラスパーら気鋭のミュージシャンたちと交流を深めてきたのだという。卒業後はクリスチャン・マクブライド、ロイ・ハーグローヴ、エスペランザらのツアーや作品に参加し、ジョー・ロヴァーノのコンボへのレギュラー参加を通じて今回ブルー・ノートからリーダー作『The Thought Of You』を発表することになったのだ。

 本作のプロデュースを担当したのはオーティス自身と、レーベルメイトでもあるデリック・ホッジ。周りを固めるコアな演奏メンバーは、ロバート・グラスパー(ピアノ)、ジョン・エリス(サックス)、キーヨン・ハロルド(トランペット)、ベン・ウィリアムス(ベース)という錚々たる顔ぶれだ。また、ゲスト・ヴォーカルには最近の活躍が半端じゃないビラルをはじめ、グレッチェン・パーラト、ニッキー・ロスという納得の声が顔を並べている。ドラムが主役ということも忘れるぐらい、奇を衒うことなく、そしてバランス良く練り込まれた構成は、オーティスの確かなセンスを感じさせもする。またしても無責任に楽しんでしまいたい上質なアルバムの到着だ。

 

▼オーティス・ブラウン3世の参加作品を一部紹介

左から、エスペランザ・スポルディングの2008年作『Esperanza』(Heads Up)、ジョー・ロバーノ・アス・ファイヴの2013年作『Cross Culture』(Blue Note)、ソミの2014年作『The Lagos Music Salon』(Okeh)

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▼『The Thought Of You』に参加したアーティストの作品を一部紹介

左から、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2012年作『Black Radio』(Blue Note)、ビラルの2013年作『A Love Surreal』(eOne)、グレッチェン・パーラトの2011年作『Lost And Found』(ObliqSound)

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