2015年「かわさきジャズ」で共演したリー・リトナー(左)とイヴァン・リンス(左から2人目)

リー・リトナーのブラジル・プロジェクトが〈かわさきジャズ〉で実現!

 リー・リトナーが〈かわさきジャズ〉で、ミューザに戻ってくる! 2015年に第1回が開催され、今年2024年で10回目となる〈かわさきジャズ〉に、リー・リトナーとデイヴ・グルーシンを中心としたスペシャル・セッションの参加が決定した。リトナーは2015年の第1回にイヴァン・リンスと国府弘子をゲストに迎えたバンドで出演、2018年にもデイヴ・グルーシンが指揮するオーケストラのメンバーとして参加する予定だったが、そのときは体調不良のため残念ながら来日できなかった。

LEE RITENOUR & DAVE GRUSIN 『Brasil』 ポニーキャニオン(2024)

 11月17日(日)にミューザ川崎シンフォニーホールで開催される今回のコンサートは、この6月にリリースされたリー・リトナー&デイヴ・グルーシンの新作『Brasil』と関連したプログラムだ。50年来の盟友であるグルーシン、ブラジルを代表するシンガー・ソングライターで、2015年のかわさきジャズでも共演したイヴァン・リンス、『Brasil』でフィーチュアされていたブラジルの歌手タチアナ・パーハ、そしてリズム・セクションのほとんどが新作に参加していたブラジルのミュージシャンたちなのだから、これはもう『Brasil』の世界をステージ上で再現するコンサートだと言っていい。アルバムで見事な演奏を披露しているスイス出身の人気ハーモニカ奏者グレゴア・マレの不参加は残念だが、ムニール・オッスン(ベース/アコースティック・ギター/ヴォーカル)が参加して、音楽の幅を広げてくれそうだ。というわけで、まずは『Brasil』というアルバムにどんな音楽が入っているのかをチェックしてみることにしよう。

 『Brasil』は、リトナーとグルーシンが1985年に発表したグラミー賞編曲賞受賞作『Harlequin』の続編だと位置づけることができる。『Harlequin』で二人は、当時アメリカでも注目されつつあったイヴァン・リンスをゲストとして3曲でフューチュアし、それによってリンスは世界的なスターとなった。さらに遡ると、79年にリリースされた『Lee Ritenour In Rio』(実際の録音はリオ・デ・ジャネイロ、ロサンゼルス、ニューヨーク)にもグルーシンが参加しているので、この二人が関わる〈ブラジル音楽プロジェクト〉は45年の歴史を持っていることになる。中原仁さんが執筆した『Brasil』のライナーノーツによると、リトナーとグルーシンが最初に出会ったのは74年、場所はセルジオ・メンデス宅でのジャム・セッションだったというのだから、二人の50年にわたる盟友関係は、最初から〈ブラジル絡み〉だったわけだ。

 『Brasil』に収録されている9曲のうち、リトナーのオリジナルは2曲、グルーシンの曲は1曲。残り7曲はブラジルの作曲家になるもので、ミルトン・ナシメントの“Cravo E Canela (Clove And Cinnamon)”と“Catavento”、アントニオ・カルロス・ジョビンの“Stone Flower”は、ブラジリアン・スタンダードといっていい名曲だ。そしてイヴァン・リンスの“Vitoriosa”、セルソ・フォンセカの“Meu Samba Torto (My Crooked Samba)”、シコ・ピニェイロの“Boca De Siri (Keep It Quiet)”では、それぞれ作曲家自身がフィーチュアされている。タチアナ・パーハは“Cravo E Canela”“Vitoriosa”、そしてリトナーの“Lil’ Rock Way”で可憐な歌声を披露し、グレゴア・マレはリトナーの曲“For The Palms”“Lil’ Rock Way”などで、エモーショナルなハーモニカを聴かせている。

 エレガントで流麗なリトナーのギターとグルーシンのピアノはさすがの安定感で、気持ちよくグルーヴするブラジル人リズム・セクションも極上の出来。個人的には、猛暑が続くこの夏、最も多く聴いていたのがこの『Brasil』だったのだ。いやもちろん、枯れ葉の舞う11月の川崎にもぴったりの音楽なんだけど。

 この傑作アルバムのメンバーのほとんどがステージに立つ、今回の〈かわさきジャズ〉のコンサートが最高のものになることは約束されているはずだが、コンサートでは、イヴァン・リンスがアルバム以上に活躍するのでは、という気がする。セルソ・フォンセカやシコ・ピニェイロの曲もイヴァンとタチアナが歌うのか、それとも別の曲を歌ってくれるのか。そして、ブラジリアン・リズム・セクションと共演するドラマー、ウェスリー・リトナー(リーの愛息です)の健闘にも期待しております。

 


LIVE INFORMATION
かわさきジャズ2024

2024年9月20日(金)~11月24日(日)
ホール公演会場:ミューザ川崎シンフォニーホール/昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ/カルッツかわさき/ラゾーナ川崎プラザソル/SUPERNOVA KAWASAKI/新百合トウェンティワンホール/昭和音楽大学ユリホール/川崎市アートセンター/川崎市産業振興会館
https://kawasakijazz.jp/

Lee Ritenour & Dave Grusin with Brasilian Friends featuring Ivan Lins
2024年11月17日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
開場/開演:17:00/18:00(ロビーコンサート 17:20~17:40)

■出演
音楽監督/ギター:リー・リトナー
ピアノ/キーボード:デイヴ・グルーシン
ヴォーカル/キーボード:イヴァン・リンス
ヴォーカル:タチアナ・パーハ
ベース:ブルーノ・ミゴット
ベース/ヴォーカル/アコースティック・ギター:ムニール・オッスン
ドラムス:エドゥ・ヒベイロ
ドラムス:ウェスリー・リトナー
パーカッション:マルセロ・コスタ
※当初の予定メンバーから一部変更となりました

《ロビーコンサート》
パーカッション:ひごたくみ
ピアノ:畠山啓
ベース:岡本竜太

https://kawasakijazz.jp/program/detail2024/20241117.php