トラディショナルなスタイルを超越したオルガン・トリオ現る
ミカエル・ブリチャー(サックス)にダン・ヘマー(オルガン)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)によるトリオ、ブリチャー・ヘマー・ガッドが、来る10月から11月にかけて日本ツアーを行う。今回はバンド結成10周年を記念して行われた昨年のヨーロッパ・ツアーの模様を収めた新作『モーメンツ・ライク・ジーズ』を引っ提げての来日であるばかりでなく、ブリチャーが50歳、ヘマーが60歳、ガッドが80歳という、人生の節目が惑星直列のごとく重なった記念すべきイヴェントとなる。そこで、実質的なリーダーでほとんどのレパートリーの作曲も担当するブリチャーに話を聞いた。
デンマークに生まれ、コペンハーゲンのリズミック・ミュージック・コンサーヴァトリーで学んだブリチャーは、ジャズやR&B、ブルースなどのアメリカ音楽はもちろん、西アフリカやブルガリア、地元北欧の民族音楽など、様々な要素を取り込んだプロジェクトを手掛けてきたが、そのひとつに、2010年にヘマーとアンダース・ホルムと結成したアストロ・ブッダ・アゴーゴというトリオがあった。彼はこのトリオのアルバムを、2012年にデンマークで開かれたマスター・クラスで出会ったガッドに聴かせたところ大いに気に入ったというのが、ブリチャー・ヘマー・ガッド結成のきっかけだという。トラディショナルなジャズ・オルガン・トリオのファンキーでソウルフルなスタイルを受け継ぎつつ、レパートリーにはより幅広い音楽の要素を取り込んでいるのが、このトリオのユニークなところである。
「学校ではチャーリー・パーカーやソニー・ロリンズなどの曲を習得することよりも、自分のバンドを組んで曲を書き、独自のサウンドを創り出すことを重視していた。音楽スタイルも、ロックやポップス、ジャズなど、伝統的なクラシック以外のあらゆるものを追及することができたんだ。僕も何度か西アフリカへ行って現地のミュージシャンたちと共演して、西洋音楽には無いリズムを研究したこともあった。民族音楽というのは、たとえそれが限られた地域のものであっても、世界中の人たちの心に響く共通言語なんだ」
ニュー・オーリンズのセカンド・ラインのグルーヴによる3拍子の“ニュー・オーリンズ”や、セカンド・ラインとカントリーが混ざり合ったような“スザンナ”、サンバ風の“オマーラ”などはその好例で、粉雪の舞う風景が浮かぶ“スノウ”に至っては、熱気に満ちたオルガン・トリオのイメージとは真逆の、北欧人ならではの感覚がにじみ出ている。こうした様々な曲調を表現するにあたっては、ガッドのセッション・プレイヤーとしての豊富な経験と持ち前の音楽センスが重要な役割を果たしている。
「曲を書く時には、スティーヴが得意なテンポのグルーヴを最初に決めることがある。“ニュー・オーリンズ”では、彼にただセカンド・ラインのリズムを叩いてもらうんじゃなくて、僕らならではのやり方でニュー・オーリンズの要素を盛り込んでもらった。新作の“エニー・モーメント・ナウ”では、スティーヴが立ってスネア・ドラムだけを叩いている。エジンバラでの演奏で、観客も大いに盛り上がったよ。スティーヴはいつも、既存のスタイルをそのままコピーするんじゃなく、彼ならではのドラム・パートを考えてくれるんだ。“オマーラ”みたいに、僕が想定していたものとは全く違うどころか、はるかに素晴らしいパートを考え出してくれることもあるよ」
このトリオのもうひとつの特徴としては、サックスがソロ楽器としての役割を果たすだけでなく、ヘマーのオルガンと一体化してオーケストレーション効果を生み出している点が挙げられる。たとえば、“ゲット・ザット・モーター・ランニン”のテーマ部分では、両者が一体となって、パワフルなブラス・アンサンブルのようなサウンドを生み出している。
「ダンとは長年一緒にやってきて、一体化したサウンドを築き上げているからね。コンサートでもおそらく1000回以上は共演しているし、彼は僕の音楽をほんとうによく理解してくれていて、オルガンを駆使したオーケストレーションのやり方も心得ているんだ」
このトリオについてガッドはブリチャーに、「お互いを深く理解するにつれて、僕らが音楽を演奏しようとしなくても、音楽が僕らに演奏させてくれるようになってきた」と感想を述べたという。それほどまでに自然に音楽を奏でられる境地に達したグループの演奏が、今年の秋に日本各地で体験できる。
「2年前に日本へ行った時には、ミューザ川崎でのショウがとても印象的だった。会場の雰囲気も最高で、ライヴ録音したものを2曲発表したんだ。日本のお客さんたちは僕らの音楽をとても気に入って、じっくりと聴いてくれるから、僕らも楽しみにしているよ」
LIVE INFORMATION
かわさきジャズ2025
スティーヴ・ガッド BHGプロジェクト
2025年10月29日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール
開場/開演:18:15/19:00
■出演
スティーヴ・ガッド(ドラムス)
ミカエル・ブリチャー(サックス)
ダン・ヘマー(オルガン)
公演ページ:https://www.kawasakijazz.jp/program/detail2025/20251029.php
Blicher Hemmer Gadd Japan Tour 2025 ~ スティーヴ・ガッド BHGプロジェクト
2025年10月31日(金)ビルボードライブ大阪
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-20838
2025年11月5日(水)、6日(木)ビルボードライブ東京
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-20839
■出演
スティーヴ・ガッド(ドラムス)
ミカエル・ブリチャー(サックス)
ダン・ヘマー(オルガン)