ROSSOには強者しかいなかった
解散直後、先に書いたように、照井のソロプロジェクトRAVENのレコーディングにチバが参加。そしてふたりでROSSO再始動の準備に入り、元フリクションのふたり=ギタリストのイマイアキノブとドラマーのサトウミノルを招き入れ、その4人で新生ROSSOがスタートする。
2004年7月から新生ROSSOとしてレコーディングを開始。作品として、アルバム『Dirty Karat』と『Emissions』、シングル『1000のタンバリン/アウトサイダー』と『バニラ』をリリースするが、『Emissions』を出した2006年6月を最後に、活動が止まる。以降、チバとイマイは、その前年の9月に結成していたThe Birthdayでの活動に専念することになる。
というふうに、ROSSOの後半とThe Birthdayの始まりの時期がかぶっている上に、THE MIDWEST VIKINGSもMidnight BankrobbersもStar Casinoも、同じ時期にやっていたりするので、つまりチバとしては、言ってしまえば〈いろいろやりたい時期〉だったのだろう。
ただしチバは、音楽性がコロコロ変わったり、いろんなサウンドスタイルを試したりするタイプのアーティストではない。曲の書き方や演奏のしかたは、基本的には変わらない。つまりここで言う〈いろいろやりたい〉は、イコール〈いろんな人とやりたい〉ということだったのだと思う。
で、ROSSOでは、その〈いろいろやりたい〉の中でも、最初の頃の大きな動機であった〈照井利幸とやりたい〉を実現した。そして、後半ではイマイアキノブという、それ以降のチバにとって重要な存在に出会った。しかもドラマーはイマイアキノブと同じく〈凄腕プレイヤーしか在籍を許されないバンド〉、フリクション出身のサトウミノルである。
つまり、この時期の、数あるチバユウスケ関連のバンドやユニットの中で、もっとも〈強者が揃った〉のが、ROSSOだった。と、言えるのではないか。
後期のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやThe Birthdayでやっていてもおかしくない曲調だが、あきらかにこのバンドでしか成しえないグルーヴの“1000のタンバリン”。8分30秒以上に及ぶブルースセッションでありながら、チバならではのリリックとメロディがそこに載る“君の光と僕の影”。歌とベースが、ドラムと2本のギターがせめぎ合うように鳴り続ける“バニラ”。といった曲などを聴いていると、そのように思う。
特に、収録曲は4曲なのに、EPやミニアルバムではなく〈サードアルバム〉という位置付けになっている最後の作品『Emissions』に、より強くそれを感じる。
収録された4曲は、6分48秒の“眠らないジル”、10分9秒の“ROOSTER”、5分14秒の“WALL”、10分49秒の“発光”。“WALL”は、曲としての体裁がまだ比較的かっちりしているが、それ以外の3曲はいずれもセッションから曲を作ったというよりも、曲そのものがセッションであるかのような自由さに満ちている。
あと、“WALL”は〈体裁がまだ比較的かっちりしている〉と書いたが、その代わりに歌メロがない。曲に乗っかってチバが叫ぶ、いわゆるトーキングブルースのスタイルを取っている曲だ。
どの曲を聴いても、あれだけいろいろやってきたチバにとって、このような音楽を実現することができたのは、ROSSOだけだったんだな、ということがよくわかる。