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Photo by @littlecombproductions

難病で亡くなった甥への思いから生まれた“To The Sky”

――フランク・シナトラやジュディ・コリンズで知られる“Send In The Clowns”は後半のハイライトだと思います。

「以前、ニューヨークであるミュージカルのプロデューサーさんから〈この曲、絶対Ricoさんに似合うから歌ったほうがいいですよ〉と言われて、譜面までいただいたんですよ。それがようやくカタチになりました。この曲もアートさんとアレンジの方向性が一致して、壮大な世界感を表現できました」

――ベースソロで誰か歌ってますよね?

「ベーシストのサム・ビーヴァンさんが、レコーディング本番でソロのときに突然歌い出したんですよ。それがすごく良くて、このテイクでいこう!ということになったんです。楽器奏者にしか歌えない歌というか、こういう素敵なハプニングはジャズならではですよね」

――“Angel Eyes”ではサクソフォンのイントロがムーディで素敵です。

「ものすごく難しい曲なのですが、ドン・ブレイデンさんのソロが本当に格好良くて、彼にインスパイアされて歌も良い感じになったと思います。サクソフォンに引っ張っていただきました」

――笠井紀美子の“Very Special Moment”はアレックス・ノリスのトランペットとポール・ボーレンバックのギターがキレキレですね。

「オリジナルでのトランペットは日野皓正さんが吹いていて、とても格好良いのですが、アレックスさんのトランペットもすごいですよね! ポールさんのギターもさすがで、〈この曲はギターがどうしても欲しい!〉と主張したアートさんの采配がズバリ当たった象徴的な曲です」

――アルバムを締めくくるのはアルバムタイトル曲でありRicoさんのオリジナル“To The Sky”です。じわりとくる曲ですね。

「これは悲しい話なのですが、脊髄小脳変性症という病に侵されて亡くなった甥に捧げた曲なんです。彼は就職も結婚もしてずっと元気に過ごしていたのですが、仕事で大きなプロジェクトを任され、ストレスで免疫力が下がった頃から病状が急激に悪くなって、去年の3月に亡くなってしまいました。

彼のことを思いながら、〈天国で元気でいてね〉〈そろそろ天に昇った頃かな?〉なんて独り言を言って空を見上げたら、最初の歌い出しのフレーズのメロディが、〈To the sky...〉という歌詞とともに浮かんできたんです。そこからハミングしながら一気に作り上げました。曲は一瞬でできたのですが、作詞が大変で半年かかってしまいましたね。

甥が亡くなったことをきっかけにできた曲ですが、もちろん甥のためだけの歌ではなく、聴く人それぞれの肉親や身内の方を思い浮かべてもらえればと思うんです。家族を亡くすのはとても悲しいことだけど、泣いているよりも笑顔で、今、目の前にあることをやって一生懸命に生きる。それが空の上にいる人たちにいちばん喜んでもらえることかな、と思います。そんな気持ちを込めました。

この出来事があって、〈ニューヨーク3部作を締めくくるアルバムを作らなきゃ〉と思ったきっかけの曲です」

 

人の心に寄り添うシンガーになりたい

――これでニューヨーク3部作が完結ということですが、今後の展望を聞かせてください。

「もちろんこれで私のキャリアが終わるわけではありませんよ(笑)。3部作としたのはキリが良いからそうしただけであって、ジャズシンガーとしての活動はこれからも続けていきます。私はドイツやオランダに住んでいたこともあるので、そんなヨーロッパを舞台にした作品を作りたい、と思うかもしれません」

――めざすアーティスト像についても教えてください。

「以前、児山紀芳さんに〈あなたが得たものは歌を通じて社会に還元していきなさい〉と言われたことがあります。児山さんは、そうおっしゃった半年後に亡くなってしまいました。私は、その言葉をずっと大切にしているんです。今、自然災害や戦争などが起こっている閉塞感が漂うこの世界で、私の歌で人を元気にしたり、前向きな気持ちになってもらえるような、そんな力を身に付けたいと思っています。

それと、若い頃は〈人は一人でも生きていける〉なんて考えていましたが、大人になるにつれ周りに助けられ生かされていることが徐々にわかってきますよね。自分の人生は平坦ではなく苦労も多かったので、そのぶん良い歌が歌えるんじゃないかなと思っています」

――ジャズは人生の深みがそのまま伝わる音楽ですものね。

「そうですね。私は音楽があったからこそ、ここまで生きてこられました。言葉の壁を超えて人の心に伝わる歌というのもあるし、そういう歌を歌えるようになりたいです。私の歌を聴いて、うれしいときは笑って、悲しいときは泣いてくれたらいい。そういう感情を伝えられるのが理想ですね。自分の歌に足りないものを冷静に見つめ直しながら自分を磨き、自分自身と闘い、聴いてくれる人の心に寄り添うようなシンガーを目指していきたい。世界を見てきたからこそ日本という国の良いところにも悪いところにも気づきましたし、公的に対応できない人の痛みなどを音楽でカバーできたらと。

そして、若い人たちにもジャズの魅力を伝えていけたら、と思っています。ジャズボーカルは内面を表現できる音楽ですから、不安が多い世の中で未来を作っていく若者たちに自分らしく生きることの尊さを伝えたいんですよね」

 


RELEASE INFORMATION

Rico Yuzen 『To The Sky』 Yuzen(2024)

リリース日:2024年8月28日(水)
品番:YRNY0002
価格:4,000円(税込)

TRACKLIST
1. What Is This Thing Called Love (Cole Porter)
2. You Go To My Head (Joe Fred Coots / Haven Gillespie)
3. Never Far Away (Peroystein Sorensen)
4. Keep Your Smile (Yuichi Wakita / Rico Yuzen)
5. Nature Boy (Eden Ahbez)
6. No More Blues (Antonio Carlos Jobim)
7. Send In The Clowns (Stephen Sondheim)
8. Angel Eyes (Matt Dennis / Earl Brent)
9. Very Special Moment (Yutaka Yokokura / Kazumi Yasui)
10. To The Sky (Rico Yuzen)

Rico Yuzen (Vocals)
Art Hirahara (Piano)
Sam Bevan (Bass)
Jay Sawyer (Drums)
Paul Bollenback (Guitar) Track 6, 9
Don Braden (Saxophone & Flute) Track 6, 8
Alex Norris (Trumpet) Track 1, 9

Executive Producer: Art Hirahara
Producer: Rico Yuzen
All Songs arranged by Art Hirahara

Recorded by David  Stoller / Michael Brorby (sound engineer)
Mixed by David Darlington / Atsuo Matsumoto
Mastered by David Darlington
Recorded at    
Samurai  Recording Studio: 30-74 21St, Astoria, NY 11102    
Acoustic Recording Studio: 279 Sterling Place, Suite GB Brooklyn, NY 11238

 

LIVE INFORMATION
Rico Yuzen 3rd Album『To The Sky』Release Tour 2024

2024年10月5日(土)広島 Jazz Club Bird
開場/開演:19:00/19:30 ※2 set
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/なかにし隆(ピアノ)/山本優一郎(ベース)
前売り/当日:4,000円/4,500円
ご予約:082-241-6906
https://www2.hp-ez.com/hp/jazz/

2024年10月6日(日)広島 カフェぶらいと
開場/開演:14:30/15:00 ※2 set
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/グイサンド泉(ピアノ)
MC:2,500円
ご予約:090-1183-3131

2024年10月26日(土)福岡 ニューコンボ
開演:19:00 ※2 set
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/上野香織(ピアノ)/森しのぶ(ベース)
MC:4,000円
ご予約:092-712-7809
https://newcombo.sakura.ne.jp/

2024年11月10日(日)兵庫・神戸 GREAT BLUE
開場/開演:18:30/19:00 & 20:45
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/加納新吾(ピアノ)/萬泰隆(ベース)/早川沙世(ドラムス)/武井努(サックス&フルート)
MC:4,000円(税込)
ご予約:078-231-0071
http://www.livehousegreatblue.com/

2024年11月17日(日)香川・高松 So Nice
開場/開演:13:30/14:00
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/瀬部妙子(ピアノ)
MC:3,500円
ご予約:090-8974-9210(お電話つながらない場合は公式LINEからご予約ください)

2024年12月1日(日)東京・渋谷 BODY & SOUL
開場/開演:17:30/18:30 & 20:00
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/堀秀彰(ピアノ)/安ヵ川大樹(ベース)/小松伸之(ドラムス)/山田拓児(サックス)
MC:4,500円(税込)
ご予約:03-6455-0088
https://www.bodyandsoul.co.jp/

2024年12月7日(土)京都 ボンズロザリー
開場/開演:18:30/19:00 & 20:45
出演:Rico Yuzen(ボーカル)/加納新吾(ピアノ)/萬泰隆(ベース)/斉藤洋平(ドラムス)/武井努(サックス&フルート)
MC:4,000円
ご予約:075-285-2859
https://bondsrosary.com/_m/

 


PROFILE: Rico Yuzen(友膳莉子)

松蔭女子学院大学英米文学科を卒業後、日本での音楽活動を経て2000年に渡米。ロサンゼルスの老舗〈Jazz Bakery〉をはじめ、ブロッサム・ディアリーのホームグランドであったニューヨーク・マンハッタンの〈Danny’s Skylight Room〉でのライブを成功させる。2003年、三上クニトリオとのニューヨーク録音によるファーストアルバム『Inside A Silent Tear』をリリース。2011年以降、ドイツ、オランダに拠点を移し、ヨーロッパ各国にて現地ミュージシャンと意欲的に活動、ドイツ・デュッセルドルフの〈Jazz Schmiede〉〈Destille〉のステージに立つ。その間も日本で一時帰国ライブを実施するなど国内での活動も継続。2015年には再びニューヨークに拠点を移し、グラミー賞ノミネートシンガー、カーリン・アリソンに師事。マンハッタンのジャズクラブ〈Tomi Jazz〉〈Silvana〉〈Club Bonafide〉などのステージに立つ。2017年、ニューヨークを拠点に世界で活躍中のジャズピアニスト百々徹をプロデューサーに迎え、ニューヨーク録音のセカンドアルバム『I Wish You Love』をディスクユニオンよりリリース、2018年にCD Babyより全米リリース。同年、ニューヨークの名門ジャズ誌「Hot House」に注目のシンガーとして掲載される。また「スイングジャーナル」の編集長だった児山紀芳に評価され、NHK FM「Jazz Tonight」に出演。新譜リリースツアーも精力的に行い、2019年にかけて日本全国をはじめ、台湾、全米ツアーを成功させる。その後も国内でのライブ活動を中心に自身の音楽性の弛まぬ追求を続けつつ、ニューヨーク制作3部作の完結編アルバムの構想を練り始める。2023年8月に新譜制作プロジェクトを稀代のアレンジャーとして活躍するピアニスト、アート・ヒラハラと立ち上げ、最新作『To The Sky』を2024年8月にリリース。世界の音楽文化に触れてきた経験に基づき独自の音楽性の追求を続けている。