Y2Kの流れを汲む楽曲群
その一方で、先に述べた音楽的な要素はいずれもY2Kの流れにあるものだ。ヒップホップ畑のアーティストがニューメタルやラップメタルの要素を積極的に取り入れている昨今、ミクスチャーロックはリバイバル対象としても、現在進行形の音楽テーマとしても大きな注目を集めているし、それとは別の領域で2000年前後のR&Bも重要なインスピレーション源になってきた。
『No.Ⅰ』の楽曲群はこうしたトレンドを目ざとく意識していて、そのうえで自分たちのやりたいことを追求している。だからこそ、これだけ〈音楽的に攻めたことをやっている〉イメージをまといつつ、そういうポーズに留まらないオリジナリティやポピュラリティを生み出すこともできているのだろう。
リード曲となった“INZM”はその好例だ。アルバムの冒頭を飾る無印版がインダストリアルメタル+EDM+ファンクみたいな感じ(Dos Monosあたりにも通じる)なのに対し、最後を締めるHyper Band Ver.ではコーンやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのような質感が加わっていて、初期スリップノットと昨今のニューメタルコアをクラブミュージック経由で繋ぐような趣、新鮮な文脈提示にもなっている。
また、アルバムのちょうど真ん中に据えられた“Numbers”も、メンバー自身が「三者三様の良さが詰まっている」「ソロ・ソロ・ソロみたいな曲」「終わった後に不思議な気分になる、だからまた聴きたくなる」と解説する通りの激しい展開が興味深く、これは『No.Ⅰ』全体の在り方を1曲で体現するものでもあるだろう。
バラード寄りの曲もいずれも魅力的だ。“ICE”にはラテンにもアフロビーツにも通ずる薫りがあり、サマーソニックで大きな話題を呼んだタイラの音楽性を想起させたりもする。KEEN(C&K)プロデュースの“Bye 24/7”は、J-POPとK-POP、それぞれの文脈を持つバラードをヴェイパーウェイヴ経由で融合したような曲調で、class“夏の日の1993”あたりのJ-ROCK感も隠し味として活きている。
Vaundyプロデュースの“透明になりたい”は、近年のシューゲイザー音響(デフトーンズやダスターあたりからクアンニック(quannnic)やユールに至る感じ)の芯を損なわずマイルドに料理したような仕上がりで、「非現実的ながら現実的」「儚さに自分では気づかない感じ」を意識したという平野紫耀の歌唱も絶妙な加減ではまっている。
『No.Ⅰ』は様々なジャンルやシーンのハブになりうる
『No.Ⅰ』のこうした音楽性は、どの曲も既存のジャンルやアーティストを参照して読み解くことができる一方で、何かの亜流に留まらないオリジナリティを確立してもいる。様々なジャンルやシーンのハブになりうる構造と、Number_iというグループからしか得られない滋味がともにあるからこそ、独自の道を突き進んでいるのに広く届き、そのうえで深く刺さる。
温冷交代浴を繰り返すような極端な曲順や、ファンに向けた楽曲“iLY”(タイトルはI Love Youの略であり、彼らのファンネーム=iLYsの単数形でもある)の〈僕は左で君が右側〉〈愛で手を繋いでて〉という歌詞(僕=Number_i、君=iLYsとも考えられる)など、読み込むほどに味が増すところも多い。聴きやすさと聴き減らなさを兼ね備えた、隅々まで素晴らしいアルバムだと思う。
最後に、これは音楽プロデューサーSWING-Oが堂本剛(.ENDRECHERI.名義で世界屈指のファンクバンドを率いる超一流ミュージシャン)について述べた発言なのだが、Number_iにもよく当てはまるものだと思うので、本稿の締めとして引用したい。
「ヒップホップであれなんであれ、どのシーンの人たちでも結局ヒット曲を作らなきゃいけないっていう時に、どうしてもJ-POP的な要素を求められてしまうじゃないですか。どんなにコアなものを持っていても、マスに吸収されそうになっていく図式って、どんなジャンルでもあると思うんだけど。最初からマスなところにいる人、タレントとしての存在感がうまく作り上げられた人は、あとはどこへ行っても、むしろ行くところがコアであればあるほどよかったりする。(中略)やっぱりアイドルというかポップスターこそ、コアを求めてるんだなって思うんですよ」
『No.Ⅰ』は、まさにそういう在り方が体現されたアルバムなのだと思う。Number_iのこれからの活動が本当に楽しみだ。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2024年9⽉23⽇(⽉)
TRACKLIST
1. INZM[神宮寺勇太プロデュース楽曲]
2. なんかHEAVEN[岸優太プロデュース楽曲]
3. ICE[岸優太プロデュース楽曲]
4. Streetlights[平野紫耀プロデュース楽曲] ※Bonus Track
5. Bye 24/7[KEEN(C&K)プロデュース・神宮寺勇太ソロ楽曲]
6. JELLY[神宮寺勇太プロデュース楽曲]
7. 透明になりたい[Vaundyプロデュース・平野紫耀ソロ楽曲]
8. Numbers[平野紫耀プロデュース楽曲]
9. Recipe[岸優太プロデュース・岸優太ソロ楽曲]
10. iLY[Number_iプロデュース楽曲]
11. GOAT
12. Blow Your Cover
13. BON
14. INZM (Hyper Band ver.)[神宮寺勇太プロデュース楽曲]