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やっぱりこれが私だ

――音の面で言うと、前作は多彩な制作陣を迎えた幅広い内容でしたが、今回はどういう内容にしたかったですか?

「明確な違いは、前作は自分が憧れてるバンドマンやアーティストの方にプロデュースしていただいて、外の世界の方々の力も借りて作ったんですけど、今作は、ひさ子さん、ゆーまおさん、自分っていう3人の形で作った曲が多くて、それも前作を作り終えてからお二人が一緒に曲作ろうって言ってくださって。そこで〈あっ、こんな大好きな人たちに頼っていいんだ〉っていう安心感から生まれた曲だったり。今回もヴァラエティー豊かなサウンドにしたいとは思いつつ、自分たちがどこまでやれるんだっていう挑戦もありましたね」

――まず出た順で言うと『光』の3曲で、最初に公開されたのが、ミニ・アルバムではラストに置かれた“愛せ”ですね。これは田渕さんアレンジのキャッチーで親しみやすい曲です。

「好奇心旺盛な自分を歌った曲ですね。自分がBiSHで貴重な経験をさせていただいて、勝手に全知全能だって思い込んでしまってた時期があって。でも、いざ外の世界に出てみたら世間知らずのペーペーで。喰わず嫌い、知らず嫌いが多かったことに気付いて。もっといろんなこと知りたいし、いろんなとこに行って、いろんな人に出会いたいし、知らない世界を知りたがってるっていう」

――それで言うと、“キスをしよう”はいままでにないニュアンスも感じられます。

「これは、タイトルだと恋愛ソングかと思うんですけど、自分では官能的なものというよりかは、包容力のある楽曲だと思っていて。まあ、自分のハートにキスをしよう、他人のハートにキスをしようっていう、〈無碍にしないでゆきなさい〉〈もっと健気にがんばってみたらどうかな〉みたいに自分を鼓舞する曲だったりしますね」

――で、ゆーまおさんが初めてアレンジも担当された“明日天気になあれ”も含む3曲が『光』ですが、分類の意図はさておき、今回は『意地』の曲のほうがポイントなのかなと思います。

「そうですね。『光』の曲が揃ってきた時に赤窄さんから〈もっと良い曲作れるでしょ〉みたいな意見があって、『意地』の曲たちを作ったんで。だから、よりディープっていうか」

――ちょっとプレッシャーもあって?

「そうです(笑)。意気込んで作ったので、こっちのほうが達成感は凄かったですね」

――なかでも田渕さんアレンジの“アンチ生活”は歌詞の面も象徴的です。これは〈アンチの人の暮らし〉ではなく……。

「違います(笑)。反・生活みたいなことですね。これはホントに〈初心に返った〉っていう言葉がしっくりくるんですけど。BiSHの頃は生活なんか後回しでそこに全部を懸けてて、それが終わって〈自分の時間がたくさんできたから自分の暮らしももっと楽しんでみよう〉と思ったんですけど、自分に時間をかければかけるほど生きた心地がしなくなっちゃって。〈長生きしたいな〉とか〈長閑に生きたいな〉とか思ってたんですけど、それじゃあ全然つまらなくて、改めて表舞台に立つこととか、表現、音楽っていうものに執着し直してみたら、〈あっ、やっぱ生きた心地する!〉って。自分の世話なんて後回しでいいから、やっぱり人と一緒に楽しいことしていたいし、そのやり方が私は音楽だ、ライヴだっていう。それで反・生活っていう意味ですね」

――演奏のヘヴィーな展開も最高ですけど、歌詞は近作からするとけっこうな手の平返しというか(笑)。

「ホント困ったもんですよね(笑)」

――でも、それが現在のアユニさんなりの丁寧な暮らしということで。

「そうですね。〈やっぱりこれが私だ〉っていう曲です」

――『意地』では、oniさんがアレンジした“祝祭”も疾走感があってエモーショナルなPEDRO節の曲です。

「自分のバースデー・ソングです。他人様の誕生日に流れるようなバースデー・ソングではなく。ちょうど『意地』の配信が誕生日なので、その日からライヴでもやったろうかなって」