田村隆一の人間的な詩からの影響
――今回、天国旅行『TOUGHNESS ROMANTIC』のCD化に際して岩出さんがライナーノーツを書いているんですよね。
岩出「どんなことを書いたっけ(笑)? 北海道ツアーが楽しかったこととメンバーの人柄がいいこと、あとツアーで見た光景や、CDを聴いた時に札幌の景色が見える気がすることとかを書きましたね。
やっぱ1曲目が好きで、〈予言めいた悲しみ〉って歌詞がすごく好きなんです。自分の生活にも心当たりがあって、不協和音を含んだロックでこういうことを歌ってくれてるのは救われるなって。そういうことも書きましたね」
田澤「あんな風に言葉にしてもらったことはないので、ほんとに嬉しくて、めちゃくちゃ感謝してます。子どもが大きくなったら読んでほしいって思ってます」
――天国旅行は田澤さんの歌詞が独特だと思っているのですが、そのあたり岩出さんはどうですか?
岩出「俺も聞きたかったんだよね。田澤くんが歌詞をどうやって作ってるのかって。気になります」
田澤「逆に僕も聞きたいです(笑)。自分の場合、歌詞は最後にできるか、作ってる時にもう入ってるかですね。弾き語りのアイデアの段階でできてる曲もあれば、セッションしながら曲も歌詞も一気に完成する曲もあって。
僕は言葉のリズムが変になるとすごく嫌で、2ndを作ってた頃からそれを一番気にして大事にしてます。あと日常的に思いついた変な感じの言葉、〈いいな〉って思った言葉をメモってます」
――天国旅行の歌詞って固有名詞が出てきたり具体的な情景描写があったり、岩出さんの歌詞とは結構ちがいますよね。
岩出「俺は……よくわかんないんですよね(笑)。曲が先で歌詞を最後に入れて完成させるから、全体を通して内容がある感じにまとめちゃいたくなる。だから、わざとらしく作ってる感じになっちゃうんです」
田澤「そこは意識的、意図的なのかなって思ってました。完全に自分の世界のものだけにしないようにしてるのかなって。そこがポップス的でもあって……絵本的というか。岩出さんの作る曲はスタンダードだなって思います。僕もスタンダードなものを作りたいって思ってるから、勝手に共感してたんですよね」
岩出「俺にはそれしかできないのかもしれないけどね。あと最近、歌詞のテーマがほとんど恋愛だけになってきてて、6年ぐらい前から同じことを歌ってる気がする」
――岩出さんの歌詞や曲名はシンプルな言葉が使われてるから普遍的に感じるというか、岩出拓十郎という人間の個性から解放されているように思います。
田澤「わかります。〈個性からの解放〉ってめっちゃいい言葉ですね。
岩出さんに聞きたかったんですけど、僕はやりたい音楽が常に変わるんです。その時々で音楽的に影響を受けるアイドル的存在がいて、『TOUGHNESS ROMANTIC』だったらディアンジェロとか。でも歌詞に関しては影響を受けるもの、いいと思ってるものが変わらないんです。岩出さんも色んな形の音楽をやってて、でも歌ってることは変わらない感じがする。言葉が常に軸を持ってる感じを受けるんですけど、意図的ですか?」
岩出「あ~。歌詞に対する意識や言葉遣いが変わった時があるんだよね。ちょうど埜口が死ぬ前ぐらいから田村隆一って詩人にハマって……※」
田澤「えっ! 僕も好きです!」
岩出「寝る前とか夜中に真っ暗な中で、スマホで田村隆一の詩を読んでた時期が続いてて。田村隆一の詩って〈虹色の渚〉とか〈秋の光〉とか謎の言葉が色々出てくるんだけど、〈こっちの詩でこう言ってるからこういう意味かな?〉ってパズル的に解釈できるんだよね。
俺は歌詞で〈夢〉って言葉をよく使ってて、ほぼ全曲に出てくるかもしれないんだけど、そういう情景が何かしら軸になってるかも。田村隆一はデカかったかもね」
田澤「僕は〈空から小鳥が墜ちてくる/誰もいない所で射殺された一羽の小鳥のために/野はある〉(『幻を見る人』)というのを読んだ時に衝撃を受けて。悲しいけど傷だらけな真実の感じがするし色んなものを含んでて、それを隠そうともしてない感じがめっちゃ〈人間〉ですよね。人間が書いてるなって。前野健太さんも〈田村隆一が好き〉って書いてて納得した覚えがあります」
岩出「俺は友だちと3人ぐらいで鎌倉へ田村隆一の墓参りに行ったんだよね。墓場が広すぎてどこにあるかわからなくて、1時間ぐらい探して自分だけ諦められなくて最後に見つけたり、すごくドラマがあった日だった。帰りに見た夕日が綺麗だったり、一年中クリスマスをやってる変な店に入っちゃったり、横浜中華街で食べた食い放題がやけに安くて〈田村隆一がサービスしてくれたんじゃないか〉って思ったり(笑)」
舞城王太郎とジョジョ、自分が持つ唯一の球を投げるスタイル
――田澤さんの歌詞の幹になる部分や影響を受けた人を教えてもらえますか?
田澤「言葉の面では、舞城王太郎が使う日本語がすごくしっくりくるんです。読んでて単純に面白いし、ぶっ飛ばして物事が進んでくんですけど、文章がずっと同じ顔をしてる感じなんですよね。物事がすごく速いスピードで進むんだけど、最終的に伝えたいことをちゃんと持ってるというか。エンタメ性もスピード感もあるけど、それと真逆の魂も持ってて不思議なんです。
あと僕は『ジョジョ(の奇妙な冒険)』がめっちゃ好きです。『ジョジョ』って変なことをしようとしてるわけじゃなくて、〈それしかない〉ってスタイルを持ってて自分の球を投げてるだけなのが好きで。僕もそうしたいと思ってるし、岩出さんもそうかなって思ってます。
他人からしたら変なスタイルかもしれないけど、そいつが持ってる唯一のスタイルでやるっていうのが好きなんですよね。ゆらゆら帝国とか。そういうのを持ってる人に憧れるし、それが解放的だなって感じる。小学生の頃、自分は運動も勉強もできるわけじゃなかったから〈僕のことをやるしかない〉って思って、そういうものに惹かれていきました」