映画「ジョーカー」の続編「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」が絶賛公開中だ。同作で謎に満ちた女性リーを演じるレディー・ガガは、その演技力と歌唱力で異彩を放ち、ホアキン・フェニックス演じる〈ジョーカー〉ことアーサー・フレックと私たち観客を翻弄していく。
そんな話題作「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」から2つの音楽作品が誕生した。1つは劇中でのアーサーやリーらの歌唱を味わえるオリジナルのサウンドトラック。そしてもう1つが、リーからインスパイアされたレディー・ガガのアルバム『Harlequin』だ。特殊な関係性を持つ両作だが、それぞれどのような共通点と違いがあるのだろうか?
今回、レディー・ガガが携わった「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」より生まれた2つの作品を、音楽ライターのノイ村に聴き比べてもらった。両作の関係性を知ることでリーというキャラクターの本質はもちろん、表現者としてのレディー・ガガの本当の姿にも近づけるはずだ。 *Mikiki編集部
レディー・ガガを構成する2つの音楽ルーツ
世界中の誰もが知るポップスター、レディー・ガガを一言で表現するのは難しい。デビュー作『The Fame』(2008年)リリース当時の〈奇抜なファッションでダンスポップを歌い踊る〉イメージは、あくまで彼女が見せるさまざまな表情の1つにすぎず、作品やシチュエーションに応じて、まるで別人かのように変貌するのがレディー・ガガという存在である。
音楽面においては、主に2つの方向性に分類できるという点については多くのファンが同意してくれるのではないだろうか。1つは『The Fame』や『Chromatica』(2020年)のようなダンスミュージック路線、もう1つは『Joanne』(2016年)やトニー・ベネットと共演した『Cheek To Cheek』(2014年)と『Love For Sale』(2021年)、名曲“Shallow”を生んだ映画「アリー/ スター誕生」などで見せたカントリーやジャズといった伝統的なアメリカンミュージック路線である。
まるで正反対にも見える2つの方向性だが、かつてストリップクラブでダンスミュージックを浴びながらドラァグクイーンとともに活躍していた一方で、幼い頃からトニー・ベネットの大ファンでジャズコンクールにも出場していたガガにとっては、どちらも決して欠かすことのできないルーツに他ならない。
その点において、ガガが映画「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」でホアキン・フェニックスとともに伝統的なジャズやブルースの名曲をカバーした事実は、彼女がアメリカンミュージックを深く理解していることを証明している。
10月に国内盤CDがリリースされた「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」のサウンドトラックでは、劇中で披露された“That’s Entertainment”(1953年公開のミュージカル映画「バンド・ワゴン」の楽曲)や“(They Long To Be) Close To You”(バート・バカラック&ハル・デヴィッド作によるポップス史に輝く名曲。1963年にリチャード・チェンバレン版がレコーディングされたが、広くはカーペンターズのバージョンが有名)といったスタンダードのカバーに加え、本作のためにガガ自らが書き下ろした“Folie À Deux”まで多彩な楽曲が収録されており、サントラとしてはもちろん、単独の音楽作品としても十分に楽しむことができる。
〈ジョーカー〉として大衆に支持されることで、少しずつ自信をつけていくアーサーの心情が感じ取れるホアキンの豊かな歌声と、リーの喜びに満ちた表情が浮かぶような、芯の通った力強い歌唱で堂々と歌い上げるガガの歌声は相性がよく、これまでのアメリカンミュージック路線の作品とも地続きで楽しめる見事な仕上がりだ。
そして、同作にさらなる深みを与えるのが、「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」のインスパイアアルバムとして発表されたレディー・ガガ名義でのアルバム『Harlequin』である。収録曲の多くはサントラと共通しているが、いずれも本作のために異なるアレンジで仕上げられており、新曲“Happy Mistake”も収められている。
重要なのは、ガガ自身は同作を〈LG6.5〉(Lady Gaga 6.5th Albumの意)と位置付けており、それは本作が「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」の関連アイテムとしてだけではなく、自身の音楽キャリアにとっての表現の一部でもあるということを示唆している。
バージョンは異なるとはいえ、サントラと楽曲が共通しているにもかかわらず、なぜガガは『Harlequin』を作ったのだろうか? その理由は、両作を聴き比べることで分かるかもしれない。