20年代も彼女は世界を踊らせる! 揚感のあるヴォーカルのエレガンスと胸を高鳴らせるビートの魔法――偉大にして可憐なポップ・アイコンの魅力を凝縮した新作『Tension』が堂々の完成です!

瞬間の楽しさやファンタジー

 「このアルバムは、オープンマインドな白紙の状態からスタートしました。最近の2枚のアルバムみたいなテーマのようなものはなくて、その瞬間の気持ちや楽しさ、ファンタジーを見つけて、それを常に歌に捧げようとしている感じ。それぞれの曲の個性を尊重して、曲ごとの自由な世界に飛び込んでいきたかったんです」。

KYLIE MINOGUE 『Tension』 Darenote/BMG(2023)

 ニュー・アルバム『Tension』の成り立ちについてカイリー・ミノーグはそう説明する。すでに世界中で8千万枚以上のレコード・セールスを上げ、50億回のストリーミングを達成し、8枚の全英No.1アルバムを生み出している彼女だが、前作にあたる『Disco』(2020年)が全英/全豪1位を獲得したことで、80年代から2020年代まで5つのディケイド連続でNo.1を獲得した唯一の女性ソロ・アーティストとなったのも記憶に新しい。そうでなくてもPWLでデビューした80年代から現在に至るまで、浮き沈みも経験しながらポップ・フィールドの最前線に立ち続け、各時代ごとのリスナーにしっかりと記憶を残し、受け手のそれぞれに過去を共有させる存在だという意味で、彼女は真のポップ・アイコン、真のスーパースターであり続けている。

 その前作『Disco』は表題通りのド直球なテーマ設定によって時代を超越したディスコの権化へと自身のキャラクターを昇華させ、最終的にはグロリア・ゲイナーからデュア・リパまでを招いてディスコの歴史絵巻を描いてみせた。前々作『Golden』(2018年)は〈ショウガールからカウガールへ〉というコンセプトのもと、ナッシュヴィル録音も行ってカントリーの伝統を自身のポップ・スタイルに取り込んだ一枚だった。

 それに対して『Tension』はテーマのない楽曲集となるが、今回は幸先良く先行カットの“Padam Padam”が全英8位を獲得済み。これによって彼女は5つのディケイドで全英TOP10ヒットを記録したことになり、時代ごとにチャートの集計方法が変わる状況を思えば、これもまた快挙と言っていいだろう。

 バウンシーなエレクトロとヒプノティックなフックが極めてキャッチーな同曲は、ロストボーイことピーター・ライクロフトの制作。これがカイリーとの初顔合わせとなる彼は、最近だとティエスト×エイバ・マックス“The Motto”などで知られるロンドンの俊英だ。それに先んじてオランダのオリバー・ヘルデンズと“10 Out 10”をコラボしていたが、それらの佇まいからもわかるように、『Tension』にはパワフルなダンス・トラックと明るいポップ・チューンが満載されている。

 

リスナーの旅に寄り添いたい

 90年代から居を構えたロンドンを去り、家族の近くにいたいという思いから故国オーストラリアのメルボルンに戻ったのが昨年の2月。出世作となった長寿ドラマ「ネイバーズ」への客演を挿んで、新作のセッションは同年の7月にスタートしたという。そのうち7曲はUKのリチャード“ビフ”スタナード(のチーム)がプロデュース。セッションはメルボルンをはじめ、英国の各地やクロアチア、パリで行われているが、カイリー自身もロックダウン期間に学んでヴォーカル・エンジニアを務めており、リモート作業も含めて制作の進め方もより自由なスタイルになったようだ(クレジットによると彼女の歌はさまざまな国の〈Infinite Disco Studio〉で録音されている)。

 「コラボレーターたちと一緒にスタジオへ戻るのは最高の気分だったけど、リモートの恩恵も活かすことができたのは、みんなもうすっかり慣れたからだと思う。1年半の間、私の〈モバイル・スタジオ〉が私のそばを離れることはなかった!」。

 往年のスパイス・ガールズらを手掛け、カイリーとはパーロフォン時代から“In Your Eyes”などを制作してきたビフは、配下のダック・ブラックウェルやジョン・グリーンも絡めながら硬軟自在に楽曲を制作。80年代的なシンセ・ポップ、90年代のハウス、00年代のエレクトロ、ユーロダンスなども出し入れする手腕はカイリーと同時代を長く活躍してきたヴェテランならではだろう。

 他にもデンマークはコペンハーゲンの重鎮カットファーザーらが“Hands”を手掛け、同曲にも関わったPhDが“Green Light”を提供するなど、これまでも縁のあった職人たちが参加。現時点では未聴ながら、デラックス版にはオージェイズの同名曲を引用したと思しき“Love Train”など3曲のボーナトラックも収録されており、今回も隅々まで楽しませてくれることは間違いないだろう。

 「このアルバムは、私が書いた曲と私の心に響いた曲をミックスしたもの。つまり、個人的な内省、クラブへの傾倒、メランコリックな昂揚感を融合したものです。アルバムを作ることで、私は困難な時代を進みながらも現在を祝福することができるようになりました。このアルバムがリスナーの旅に寄り添い、みんなのストーリーの一部になれることを願っています」。

カイリーの作品。
左から、88年作『Kylie』、89年作『Enjoy Yourself』、90年作『Rhythm Of Love』、91年作『Let's Get to It』(すべてPWL)、94年作『Kylie Minogue』、97年作『Impossible Princess』(共にDeconstruction)、2000年作『Light Years』(Parlophone)

21世紀のカイリー作品を紹介。
左から、2001年作『Fever』、2003年作『Body Language』、2007年作『X』、2010年作『Aphrodite』、2014年作『Kiss Me Once』(すべてParlophone)、2018年作『Golden』(Darenote/BMG)

 

『Tension』のテンションにも繋がっていく、ここ数年のカイリー関連作品を紹介!

KYLIE MINOGUE 『Disco: Guest List Edition』 Darenote/BMG(2021)

ビフやPhDらも関わって大ヒットした『Disco』のデラックス仕様なディスコ祭り盤。イヤーズ&イヤーズ、ジェシー・ウェア、グロリア・ゲイナー、デュア・リパがゲストリストに並び、ベースメント・ジャックスらのリミックスも。

 

YEARS & YEARS 『Night Call』 Polydor/ユニバーサル(2022)

PSBやエルトンらレジェンドたちにも愛されるオリー・アレクサンダー。この最新作の日本盤には、上掲作に収録の“A Second To Midnight”と、カイリーを迎えた“Starstruck”のリミックスをボーナス収録!

 

ED SHEERAN 『=』 Warner/ワーナー(2021)

本作に収録の“Visiting Hours”はオーストラリア音楽業界の大物プロモーター、マイケル・グディンスキーに捧げたもの。故人の密葬にも出席していたカイリーは同曲のバック・ヴォーカル陣に名を連ねている。

 

LADY GAGA 『Born This Way The Tenth Anniversary』 Streamline/Interscope/ユニバーサル(2021)

ガガのエポックメイキングな代表作の10周年記念エディション。多彩なアーティストが駆けつけたリイマジンド盤にてカイリーは“Marry The Night”を自己流で麗しく披露している。こちらもビフ・スタナードのプロデュース。

 

SIGALA 『Brighter Days』 Ministry Of Sound/ソニー(2018)

新進クリエイターがクレイグ・デヴィッドやヴァンプスら多彩な声を招いたポップな快作。カイリーは“What You Waiting For?”で爽やかにパフォーマンスしている。なお、“Revival”にはロストボーイがコライトで参加。

 

TOVE LO 『Sunshine Kitty』 Polydor(2019)

復活以降のカイリーを観て育った世代とも言えるスウェーデンの才能が、イアン・カークパトリック製のエレポップ“Really Don't Like U”に憧れのカイリーを招聘。この世代とのコラボは今後も増えていきそうだ。

 

ROBBIE WILLIAMS 『XXV』 Columbia(2022)

ソロ・デビュー25周年の節目に代表曲を再録した記念盤。2000年にカイリーとのデュエットで全英2位を記録した“Kids”ももちろん選ばれ、よりファンキーにアップデートされた意匠で両者がヴォーカルを新録している。

 

JAKE SHEARS 『Last Man Dancing』 Mute(2023)

かつてカイリーの全英2位ヒット“I Believe In You”(2004年)を手掛け、ナーヴォの“The Other Boys”でも共演していたシザー・シスターズのリード・シンガー。このソロ作でもカイリーを“Voices”に招いている。

 

DANNII MINOGUE 『Neon Nights 20』 London(2023)

作品自体に直接の関与はないものの、妹ダニーによる最大のヒット作『Neon Nights』(2003年)の20周年記念盤。“Put The Needle On It”などクラブに焦点を当てた人気曲の数々は現在のカイリーに直結するところもあり。