20年代も彼女は世界を踊らせる! 揚感のあるヴォーカルのエレガンスと胸を高鳴らせるビートの魔法――偉大にして可憐なポップ・アイコンの魅力を凝縮した新作『Tension』が堂々の完成です!
瞬間の楽しさやファンタジー
「このアルバムは、オープンマインドな白紙の状態からスタートしました。最近の2枚のアルバムみたいなテーマのようなものはなくて、その瞬間の気持ちや楽しさ、ファンタジーを見つけて、それを常に歌に捧げようとしている感じ。それぞれの曲の個性を尊重して、曲ごとの自由な世界に飛び込んでいきたかったんです」。
ニュー・アルバム『Tension』の成り立ちについてカイリー・ミノーグはそう説明する。すでに世界中で8千万枚以上のレコード・セールスを上げ、50億回のストリーミングを達成し、8枚の全英No.1アルバムを生み出している彼女だが、前作にあたる『Disco』(2020年)が全英/全豪1位を獲得したことで、80年代から2020年代まで5つのディケイド連続でNo.1を獲得した唯一の女性ソロ・アーティストとなったのも記憶に新しい。そうでなくてもPWLでデビューした80年代から現在に至るまで、浮き沈みも経験しながらポップ・フィールドの最前線に立ち続け、各時代ごとのリスナーにしっかりと記憶を残し、受け手のそれぞれに過去を共有させる存在だという意味で、彼女は真のポップ・アイコン、真のスーパースターであり続けている。
その前作『Disco』は表題通りのド直球なテーマ設定によって時代を超越したディスコの権化へと自身のキャラクターを昇華させ、最終的にはグロリア・ゲイナーからデュア・リパまでを招いてディスコの歴史絵巻を描いてみせた。前々作『Golden』(2018年)は〈ショウガールからカウガールへ〉というコンセプトのもと、ナッシュヴィル録音も行ってカントリーの伝統を自身のポップ・スタイルに取り込んだ一枚だった。
それに対して『Tension』はテーマのない楽曲集となるが、今回は幸先良く先行カットの“Padam Padam”が全英8位を獲得済み。これによって彼女は5つのディケイドで全英TOP10ヒットを記録したことになり、時代ごとにチャートの集計方法が変わる状況を思えば、これもまた快挙と言っていいだろう。
バウンシーなエレクトロとヒプノティックなフックが極めてキャッチーな同曲は、ロストボーイことピーター・ライクロフトの制作。これがカイリーとの初顔合わせとなる彼は、最近だとティエスト×エイバ・マックス“The Motto”などで知られるロンドンの俊英だ。それに先んじてオランダのオリバー・ヘルデンズと“10 Out 10”をコラボしていたが、それらの佇まいからもわかるように、『Tension』にはパワフルなダンス・トラックと明るいポップ・チューンが満載されている。