オリー・アレクサンダーのソロ・プロジェクトとなって初めてのアルバムが完成! 至上の喜びと恋心を湛えたこの煌めきが世界をもう一度ダンスフロアに誘う!

あの時代の精神

 期待を裏切らないどころか、期待以上のデキじゃないかと思う。とにかくメロディーが跳ねまくり、躍動感がうねり、ポップネスが次から次へと押し寄せる。イヤーズ&イヤーズの通算3作目となるニュー・アルバム『Night Call』には、あのペット・ショップ・ボーイズ(PSB)のデビュー時から全盛期にかけての、触れるものすべてがゴールドと化した80年代を思い出させられる。感性をそのままシンセに乗せたかのようなエレクトロニックな音色、ゲイ・コミュニティーを代弁するかのような叙情性、そしてダンス・ミュージックが育む歓びに溢れている。思えば彼らの初期ヒット“King”からPSBの影響は明らかだったし、彼らとは共演も果たしているし、しかもフロントマンのオリー・アレクサンダーが主演して熱狂的支持と評価を得たドラマのタイトルは「IT’S A SIN 哀しみの天使」。彼が歌ったその主題曲“It’s A Sin”はPSBによる87年の大ヒット曲なのだ。

 「ドラマの撮影直後というのもあって、すごく80年代のダンス・ミュージックにインスパイアを受けたアルバムなんだ。撮影中は3か月間も80年代にどっぷり浸かっていたわけで、僕のプレイリストもすっかり80年代の音楽ばかりになっていた。生きていて辛いことや苦悩もたくさんあるなかで、あの時代の〈コミュニティー〉感覚だったり〈ダンスフロアで弾ける〉精神には、いつだって刺激を受けてきた。当時のアイコンだったドナ・サマーやシルヴェスター、PSBなどが、このアルバムのインスピレーションの源なんだ。孤独や悲しさ、個人的なことも歌っているけど、サウンド的には高揚感があって、エネルギーに満ちている。思わず踊りたくなる作品にしたかったんだ」(オリー・アレクサンダー:以下同)。

 コロナ禍に制作されたことも、当然ながら影響を及ぼしている。

 「多くの曲がロックダウン中に書かれたもので、あの時期はひとりで過ごす時間が凄く長くてね。過去の恋愛のこと、一緒に出掛けてクラビングしていた友人たちのことを懐かしく思いながら作っていったんだ。僕は普段から日記をつけていて、その中の言葉や一節を取り出して、そこから歌詞を膨らませていくことが多いんだけど、それがやがて曲のテーマになっていく。今回はその多くが愛への渇望や欲望だったり、その意味を探ろうとしている感じかな」。

YEARS & YEARS 『Night Call』 Polydor/ユニバーサル(2022)

 制約の多い社会の中で自由を渇望し、新しい出会いにときめいたり、ダンスフロアで羽を伸ばしていた日々を懐かしく回想……。現実には叶わないが、だからこそこのアルバムの中では再現したかった、というわけか。同性愛をテーマにした主演ドラマの影響も大きかったようで、歌詞はかなり直接的だ。

 「どの曲も、かなり同性愛的だよね(笑)。“Sweet Talker”のサビなんて〈君こそ僕の理想の男性だ〉なんて歌っていて、この曲がラジオでかかるといまだに興奮しちゃうんだ。だって男性が男性に対する思いを歌っているなんて、世の中の慣習に逆らっているようで……いや、もちろん、そんなの感じるべきじゃないんだけど。でも〈ホントにかかってる、凄い!〉って思うんだ」。