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王道にして新鮮、伝統的にして現代的……待望のニュー・アルバムがついに登場!

現象化するストーンズ

 長く続けていること自体の価値はさておき、やはりここ一発の花火を現象化する集中力やセンセーショナルな雰囲気作りの巧さも併せ持ってこそ、現代的なリヴィング・レジェンドなのかもしれない。前オリジナル作『A Bigger Bang』(2005年)から18年ぶり、ブルース・カヴァー集の前作『Blue & Lonesome』(2016年)から数えても7年ぶりとなるローリング・ストーンズのニュー・アルバム『Hackney Diamonds』は、恐らく2023年を代表するアルバムのひとつとして顧みられることになるはずだ。

 むろんこの18年、あるいは7年の間にローリング・ストーンズとしての動きが何もなかったわけではなく、2017年の時点でストーンズが新作の準備に入ったという話題は報じられていた。それに限らず、50周年記念ベスト盤『GRRR!』(2012年)から新曲としてシングル・カットされた“Doom And Gloom”と“One More Shot”もその時点でのリアルタイムな新曲だったし、ミック・ジャガーとキース・リチャーズの間にも曲を書く意欲はあったに相違ない。2020年代最初のストーンズ新曲は、パンデミックに伴う〈No Filter Tour〉の延期後、20年4月に出したシングル“Living In A Ghost Town”で、無人の街やリモート画面をあしらったMVも相まってちょうど当時の社会状況を記録する楽曲となったが、それもまた前年から動いていたセッションが下地になったそうで(一部の歌詞はパンデミック後に書き直したそう)、つまりはその頃から新作への導線は敷かれていたのだろう。

 が、その“Living In A Ghost Town”がチャーリー・ワッツ(ドラムス)にとって生前最後のストーンズ曲となってしまう。2021年になって延期されていた〈No Filter Tour〉の北米公演開催が発表されるも、8月5日にチャーリーは健康上の問題から不参加を発表、同月24日に逝去したのだ。スティーヴ・ジョーダンが後任ドラマーを務めてツアーは日程通りに継続され、同じ布陣によって2022年もツアーはスタート。その舞台裏では制作が進み、LAのヘンソン・レコーディング・スタジオやロンドンのメトロポリス、ナッソーのサンクチュアリ、NYのエレクトリック・レディ・スタジオ、ヒット・ファクトリーなど世界各地でレコーディングが行なわれた。その長きにわたる成果が今回の『Hackney Diamonds』となる。

 

ストーンズらしさ

THE ROLLING STONES 『Hackney Diamonds』 Rolling Stones/Polydor/ユニバーサル(2023)

 そんな待望のアルバムは12曲入り(日本盤にのみ“Living In A Ghost Town”がボーナス収録!)。過去作との最大の違いとしては、この30年のストーンズ品質を後見してきたドン・ウォズに加え、後進のアンドリュー・ワットが共同プロデューサー/一部の共作者に抜擢されていることだろう。ポスト・マローンやジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラス、デュア・リパらを手掛けてきた当代きっての売れっ子プロデューサーとなるアンドリューは90年生まれ(『Steel Wheels』よりも若い!)。ストーンズと若手との手合わせでは『Bridges To Babylon』(97年)のプロダクションにダスト・ブラザーズやダニー・セイバーが助力していたこともあったが、今回のアンドリューの使命は自分の色を出すことなくストーンズらしさを現代的に響かせること。そこはオジー・オズボーンやイギー・ポップのようなレジェンドとの仕事も経験している売れっ子ならではのバランス感覚の賜物で、そのあたりは王道のストーンズ節が漲る先行シングル“Angry”からも明らかだろう。

 演奏陣はミックとキース、ロニー・ウッド(ギター)の3名に加え、サポート・メンバーのダリル・ジョーンズ(ベース)、スティーヴ・ジョーダン(ドラムス)、マット・クリフォード(キーボード)ももちろん参加。よく考えるとダリルはちょうどサポート歴30周年だし、『Steel Wheels』から関わるマットはそれ以上の長さ。後任ドラマーとなったスティーヴも『Dirty Work』(86年)参加を契機にエクスペンシヴ・ワイノーズでキースを支え続けていて、ストーンズらしさの理解度という意味では鉄壁のメンツとも言える。

 そのうえでのトピックは、生前のチャーリーのプレイが“Mess It Up”と“Live By The Sword”の2曲にフィーチャーされていることで、後者には元メンバーのビル・ワイマン(ベース)が30年以上ぶりに古巣のスタジオ録音参加を果たしている。同曲と“Get Close”にはエルトン・ジョンもピアノで参加。さらにもともとアンドリュー・ワットを推薦したというポール・マッカートニーが“Bite My Head Off”でベースを弾くのも話題だ。さらに南部モードのセカンド・シングル“Sweet Sounds Of Heaven”にはレディ-ー・ガガ(ヴォーカル)とスティーヴィー・ワンダー(ピアノ/キーボード)が参加。バンド側と客演者の縁を知らずともスペシャルなコラボなのはわかるはずだ。本編ラストでは“Rolling Stone Blues”の名でマディ・ウォーターズ“Rollin' Stone”がカヴァーされる。

 かつてなくゲストらしいゲストが並ぶのも新鮮だが、それによって大きく印象が変わるわけでもない。言うなれば、それぞれのリスナーの世代や深度によって〈『◯◯◯』以来最高のストーンズ!〉と言いたくなるような雰囲気のアルバム。つまり、ローリング・ストーンズらしさに自覚的になったローリング・ストーンズによるローリング・ストーンズのアルバム、それが『Hackney Diamonds』である。

『Hackney Diamonds』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、スティーヴィー・ワンダーの2005年作『A Time To Love』(Motown)、レディ・ガガの2020年作『Chromatica』(Streamline/Interscope)、ポール・マッカートニーの2020年作『McCartney III』(Capitol)、エルトン・ジョンの2021年作『The Lockdown Sessions』(Mercury)、ビル・ワイマンの2015年作『Back To Basics』(Proper)、チャーリー・ワッツの編集盤『Anthology』(BMG Rights)

 

前オリジナル作『A Bigger Bang』から『Hackney Diamonds』に至るまでの軌跡を一部紹介!

THE ROLLING STONES 『A Bigger Bang』 Rolling Stones(2005)

前作『Bridges To Babylon』(97年)から8年ぶりとなった21世紀最初のオリジナル・アルバム。引き続きドン・ウォズが共同プロデュースにあたり、当時のガレージ・リヴァイヴァルに呼応したシャープな雰囲気もあり。ロニーの関与が10曲に止まる一方、ミックのベースやスライド・ギター演奏もあって、いつもと違うバランスが楽しめる。

 

THE ROLLING STONES 『Shine A Light』 Rolling Stones(2008)

2006年秋にNYのビーコン・シアターで行われた2公演を素材とするマーティン・スコセッシ監督作のサントラ。シアター・ライヴならではの臨場感が刻み込まれたライヴ作品で、客演したジャック・ホワイト、バディ・ガイ、クリスティーナ・アギレラとの各コラボも聴きどころ。

 

RONNIE WOOD 『I Feel Like Playing』 Eagle Rock(2010)

〈運命に愛された男〉のソロ7作目。ダリル・ジョーンズらストーンズ人脈からフェイセズのイアン・マクレガン、スラッシュ、フリーらを招き、心地良いノリと気安い歌唱で仲間に愛された男の懐深さを見せる。この後にはチャック・ベリーとジミー・リードのトリビュート作品も発表。

 

KEITH RICHARDS 『Crosseyed Heart』 Virgin EMI(2015)

実に23年ぶりのソロ作となったサード・アルバム。共同制作を務めたスティーヴ・ジョーダンを筆頭に、故ボビー・キーズも含むエクスペンシヴ・ワイノーズの面々がバックを固め、レゲエやカントリー、ブルースを内包したキースならではのロックンロール作法が全開だ。ノラ・ジョーンズと共作/共演した“Illusion”も光っている。

 

THE ROLLING STONES 『Blue & Lonesome 』 Rolling Stones(2016)

過去最長となる11年のブランクを経たスタジオ・アルバムは全曲がブルースのカヴァー。ミックはヴォーカルとハープに専念し、キースのリード歌唱もないなど、3日間でレコーディングを済ませた関係か、シンプルでロウな作りが逆にバンド本来の個性を剥き身にしてくる。エリック・クラプトン、ジム・ケルトナーの客演もポイント。

 

MICK JAGGER 『Gotta Get A Grip/England Lost』 Polydor(2017)

サプライズ登場した10年ぶりのソロ名義シングル(その間にはスーパーヘヴィーでの活動も……)。ミックやストーンズのサポートでお馴染みのマット・クリフォードが共同プロデュースを務め、本隊ではもうやらなそうな“England Lost”のファンキーな粘っこさが良い。

 

THE ROLLING STONES 『On Air』 Rolling Stones(2017)

63年から65年にかけてBBCのさまざまなラジオ番組で放送されたスタジオ・ライヴのパフォーマンスをコンパイルした一枚。ロックンロールやブルースを主軸にした粗削りな瑞々しさは天下を取る前ならではの様子で、『Blue & Lonesome』の原点という位置付けでも楽しめる内容だ。

 

CHARLIE WATTS, THE DANISH RADIO BIG BAND 『Charlie Watts Meets The Danish Radio Big Band』 Impulse!(2017)

デンマーク放送協会発祥のアンサンブル(2019年からは狭間美穂が首席指揮者を務めている)と、同地での下積み経験もあるチャーリーが、2010年にコペンハーゲンのホールで録音したライヴ盤。ベースに旧友デイヴ・グリーンを迎え、ストーンズ曲も交えてジャジーに聴かせる。

 

THE ROLLING STONES 『Honk』 Rolling Stones(2019)

70年代から5つのディケイドに跨る代表曲を満載した最新ベスト盤。『Forty Licks』(02年)からの“Don't Stop”、『GRRR!』(12年)からの“One More Shot”と“Doom And Gloom”といった過去ベスト盤用のシングルも収めた親切設計だ。3CD版ではエド・シーランやデイヴ・グロールらとの共演を含む2013~18年のライヴ音源も目玉!

 

THE ROLLING STONES 『Goats Head Soup: Super Deluxe』 Rolling Stones(2020)

“Angie”や“Doo Doo Doo Doo Doo(Heartbreaker)”を生んだ73年作は、このデラックス化によって47年ぶりに全英1位を再獲得! 本編をジャイルズ・マーティンの新ミックスで蘇らせ、ジミー・ペイジとのコラボやミック・テイラー共作の“Criss Cross”などの未発表音源も満載。

 

THE ROLLING STONES 『Tattoo You: Super Deluxe』 Rolling Stones(2021)

かの“Start Me Up”で名高い81年作に70年代の薫り高い9つの未発表音源を加えた40周年記念盤。シャイ・ライツのカヴァー“Troubles A' Comin”などが堪能できるほか、スーパー・デラックス版では〈Still Life - Wembley Stadium 1982〉と題されたライヴ盤も楽しめる。

 

THE ROLLING STONES 『Live At The El Mocambo』 Rolling Stones(2022)

77年の『Love You Live』にも一部が収められた、77年3月4日と5日にカナダはトロントのクラブで行われたシークレット・ライヴの模様を収めたライヴ盤。300人規模の会場というシチュエーションも手伝って、定番曲からブルースまでを生々しい演奏で豪快に響かせる。『Tattoo You』(81年)に収録される“Worried About You”も披露。