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Photo by Gaëtan Abgrall

4分音トランペットとは?

名実ともに世界的なトップ音楽家であるイブラヒムといえば、何はともあれ微分音トランペットがトレードマークである。正確にはクォータートーン=4分音を吹くことが可能なトランペットで、これは父ナシムが開発・考案したもの。西洋の楽器では鳴らすことができないが、アラブ音楽を演奏する際に必須の、ある音とそのフラット(半音下)のちょうど中間(4分の1)の音を出すことができる特殊な楽器だ。

どんな仕組みになっているのかは、Rolling Stone Japanでの柳樂光隆によるインタビュー動画がわかりやすい。通常のトランペットには3本のピストンバルブが備わっているが、イブラヒムのトランペットにはもう1つのバルブが付いており、それを押すことでクォータートーンが吹ける、というシンプルな構造になっている。

西洋音楽という〈一般的〉〈スタンダード〉〈前提〉と多くの人が暗に思い込んでいる支配的なシステムを、西洋楽器であるトランペットの改造によって内側から打破する、という見事な転換がクォータートーントランペットにはある。

なお、このイブラヒムのブランド〈Trumpets Of Michel-Ange(T.O.M.A.)〉(彼が携わっている国際教育機関の名前でもある)のトランペットは、ここ日本でも流通されるようになったとのこと。ビュッフェ・クランポンで購入できるので、演奏家は要チェックだ。

 

レバノン文化の誇りを込めたパーティーアルバム『ミケランジェロのトランペット』

そんなクォータートーントランペットを操り、その魅力を思いきり凝縮させたニューアルバム『ミケランジェロのトランペット(Trumpets Of Michel-Ange)』を携えて、イブラヒムが日本でライブをおこなう。アルバムの物語については、先に言及した柳樂によるインタビューが詳しく、しかも感動的なのでぜひ読んでほしい。父のルーツであるレバノンのファンファーレ楽隊の1935年の写真をジャケットにあしらい、レバノン文化の伝統やそれらに対する思いと誇りを込めたのがこのアルバムである。

IBRAHIM MAALOUF 『Trumpets Of Michel-Ange』 Mister Ibé(2024)

しかし聴けばわかるとおり、同作の音楽性はアラブ音楽を知る者だけに向けて閉じられたものではまったくない。むしろ逆で、万人に開かれたパーティーミュージックが全編にわたって展開されている。アフロビートやラテン音楽の要素、ヘビーなロックギターなども混然一体となっていて、音楽を愛する者であれば必ずどこかしらに引っかかって、思わずノってしまう楽しい作品だ(ちなみに2022年の前作『Capacity To Love』でイブラヒムは、ヒップホップにがっつり取り組んでいた)。力強くリズミカルでキレがよく、何よりも華やかなブラス隊の演奏も圧倒的。それらを最終的に、哀愁と郷愁を感じさせるアラビックな旋律、そして繊細なトーンを縦横無尽に操るイブラヒムのトランペットの音によって包み上げているのが『ミケランジェロのトランペット』である。