Tocororoは、和名はキューバ・キヌバネドリ。トコロロと鳴くんだろうか?
2016年一番よく聴いた曲は今回取材したアルフレッド・ロドリゲスの《Meteorite》だ。昨年リリースされた、様々な国から集まったヴォーカリストがトラックごとに個性溢れる美声を披露するアルフレッド3枚目のアルバム『Tocororo』に収録された、インストゥルメンタルだ。Youtubeには、同曲のトラップ・ドラマー二人とアルフレッドのトリオ・ヴァージョンの動画が上がっているのだが、これも、本当に素晴らしいのですよ。
今回、アルバムに参加しているリチャード・ボナをゲストにコットンクラブに来演したアルフレッドにそのことを告げると、「オーケストラ・ヴァージョンもあるんだ。メトロポール・オーケストラが演奏しているんだけれど、そっちは観た?」。いえ、そんなの観てませんでした、という訳で2017年は、おそらくこのオケ・ヴァージョンの動画再生回数がトップにくるのではないだろうか。
キューバの国鳥、Tocororoをタイトルに冠したアルバムを発表し、ユニークな才能に注目がますます集まるアルフレッドだが、前作『The Invasion Parade』と内容を比べてみるとアルバムの構成に対するアイデアは、ほぼ同じであることがわかる。キューバン・スタンダードを取り上げ、ゲストにヴォーカリストを揃えるという立前。前回はエスペランサ・スポルディング、ペドロ・マルティネスが参加していた。
3枚目は米国デビュー以降広がった、彼の音楽人脈を反映した制作だったのだろうか。「そもそもなんだけれど、二枚目から制作の拠点がキューバからアメリカに変わったことが影響している。この環境の変化は大きくて、移住以前に温めていたアイデアが実現可能になったんだ」。ソロ第1作の、ラテンジャズ・ピアニスト然とした内容からの飛躍、その秘密はこの一点に尽きるようだ。それ以降の変化は、純粋に音楽的なアイデアの更新ということか。
「『トコロロ』に収録した曲は、すでに書いていたもので、それぞれの曲想に会うアーティストを探していた。タイトル・ソングを歌ったガナーヴィヤも、ドラマーの紹介で出会ったんだ」。南インド出身のヴォーカリストと微分音程がなんとも美しいトランペット、イブラヒム・マーロフの組み合わせは、ジョン・ハッセルがルンバする、なんていう印象を持ったし、ラテンジャズを起点に新しいワールド・ミュージックが構想されている、そんな予感を持ってしまうのだが。
「演奏したいと思う音楽があること、そして一緒に演奏したいと思う音楽家と出会うこと」。後は若い人たちだけでよろしくお願いします、という時代の予感。