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知世ちゃんは時をかける、時間を超越した人(高野)

――原田さんと高野さんはバンド仲間でもあるわけですよね。原田さんは『カリン』の収録曲“winter pupa”の歌詞と、前作『fruitful days』(2022年)に収録された“邂逅の迷路”の歌詞を高野さんに依頼されました。どういう想いで依頼されたのでしょう。

原田知世 『カリン』 ユニバーサル(2024)

原田「pupaの時に高野さんも私も歌詞を書いていたのですが、高野さんの歌詞の世界観って、私の歌詞の世界観と交わるところがあるような気がしていたんです。それに高野さんは私のことをすごく理解してくださっていて、私に対するメッセージみたいなものを歌詞に入れてくださるんです」

高野「“邂逅の迷路で”では〈時をかける〉っていう言葉を潜ませたりね」

原田「そう! さりげなく入っていました。きっと、『fruitful days』がデビュー40周年記念のアルバムだったからですよね」

高野「本当に知世ちゃんは時をかける、時間を超越した人だと思うから。僕は誰かに歌詞を提供するときは、その人にしか歌えない歌詞にしたいと思っているんです。生活とか風景がはっきり見える歌詞が似合う方には、そういう歌詞を書く。知世ちゃんの場合、pupaの時からイマジネイティブというか抽象的なことを歌詞に書いても無理なく歌ってくれるんですよ。今回の歌詞もじっくり読まないとよくわからないし、じっくり読んでもよくわからないような部分もあって。知世ちゃんはそういう歌詞が似合うシンガーだと思う」

――ある意味、文学的な歌詞というか。

高野「そうですね。そういう歌詞を歌ってくれる人って少ないんですよ。だから普段は自分のためにしか書けないタイプの歌詞なんです。でも、知世ちゃんの声だとマッチする気がして」

――原田さんが先ほどおっしゃっていた「世界観が共通する」ということなのかもしれないですね。

高野「“winter pupa”は〈冬をイメージした歌詞で〉という話は頂いていて。コンサートで良い感じで力が抜けた知世ちゃんの様子を見て、今はこんな心境なんじゃないかなって思ったことを歌詞にしたんです」

原田「歌詞を読んで、pupaでレコーディングしたり、ライブをしたりしていたことを思い出して胸が熱くなりました。きっと、ファンの方にもそういう気持ちは伝わるんじゃないかなって思います。実はこの曲、pupaのメンバーにレコーディングに参加してもらう?という話もあったんです」

高野「そうなんだ!」

原田「でも、皆さん忙しそうだし、結局、実現できませんでした。この曲は伊藤ゴローさんが書いた曲が先にあったんですけど(伊藤ゴローはアルバムの総合プロデュースを手掛けて収録曲4曲の作曲も担当した)、高野さんの歌詞が出来るまで歌の練習をしようと思って自分で歌詞を書いてみたんです。歌詞がないと歌えないので。でも、高野さんから頂いた歌詞は広がりが全然違って、お願いして良かったと思いました」

高野「知世ちゃんが書いた歌詞、読んでみたかったな」

原田「そんな、たいしたものじゃないんですよ! 高野さんは歌詞を書いて自分で歌われるので、歌う側の気持ちをすごく理解して言葉を選ばれる。だから歌っていて気持ち良いんですよね。私もゴローさんも高野さんのことは信頼しているので、2作連続で歌詞をお願いしました」

――高野さんは『カリン』を聴いて、どんな感想を持たれました?

高野「すごく豊かな音楽だと思いました。耳が休まるような音楽って最近少なくなったけど、このアルバムの曲は耳にすっと入ってくる。そして、全体的に静かなトーンで統一されているけど、歌詞の作者が違うこともあって曲ごとに景色が違う。だから、聴きやすくて何度も聴けるアルバムだなって思いました」

原田「ありがとうございます」