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人生のテーマソングにしてシーサイドポップスの先駆的楽曲

続いて裕ちゃんのオリジナルソングから注目曲をピックアップしてみたいのだが、やはりデビューシングル“狂った果実”(1956年)をスルーするわけにはいかない。初主演映画の主題歌にして初めてレコードに吹き込んだ記念すべき曲であり、彼自身、人生のテーマソングだと語っているこの曲。作詞は、映画の脚本も手掛けた実兄、石原慎太郎によるものだ。

スティールギターとウクレレのうららかな調べに乗せて、熱きこころを朗々と歌い上げる大らかな姿。バッキー白片とアロハ・ハワイアンズの激ロマンティックな演奏もオツなこちらは、裕ちゃんはハワイアンもお好き、という事実を伝える1曲であり、生涯海を愛した彼の人生のテーマソングと呼べるのかもしれない。また加山雄三や桑田佳祐らに通ずるシーサイドポップスの先駆的な1曲とも言える。

石原裕次郎 『石原裕次郎 ベストヒット20~フィナーレ~』 テイチク(2019)

それから当時一世を風靡したラテンミュージックのエッセンスを取り入れたオリジナルのヒットソングをいくつか。クルーナーが冴え渡る“二人の世界”(1965年)や“涙はよせよ”(1966年)も良いのだが、1962年公開の同名映画の主題歌である“憎いあンちくしょう”(1962年)がとにかく絶品なのである。伊部晴美のスパニッシュギターをバックに伸びやかで哀愁のある歌声を聴かせる彼は、地球上イチのハンサムに映る。

ほかにも洋風の味わいを持った曲として、石原慎太郎が作詞を手掛けたジャズバラード“追想(リコール・ツー・マイ・メモリー)”(1957年)、真梨邑ケイとデュエットしたムーディーなボサノヴァ“さよならは昼下り”(1985年)あたりもおススメしておきたい。

 

本格的にジャズに挑戦した名盤

彼が洋楽に最接近した作品ということでは、1976年リリースのアルバム『NOSTALGIA』を挙げておかないといけない。LAのRCAスタジオにおいて、オリヴァー・ネルソンを監修に迎え、ベニー・カーターがアレンジとコンダクトを執り、トランペッターのボビー・ブライアントやドラマーのシェリー・マンらが参加したこちらは、本格的にジャズにチャレンジしたカバー集となっている。

映画スターが手慰みでこしらえたアルバムなのでは?などと軽く見たとしたら痛い目に合うことだけはお知らせしておきたい。名手たちのジャジーな演奏に包まれながら、タバコの煙のようにゆったりとたゆたう歌声のなんというエレガンス。本格的な寒さが到来する頃にふと手を伸ばしたくなるこの名盤。ぜひ多くの人に聴いてもらいたい。

 


PROFILE:桑原シロー
1970年、三重県尾鷲市生まれ。音楽ライター。2000年代半ば、タワーレコードが発行するフリーペーパー「bounce」の編集業務に携わり、退社後、フリーランスの音楽ライターとして活動。雑誌/ウェブを中心に記事を執筆。インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行なう。ロック、ジャズ、歌謡曲など幅広い音楽ジャンルに精通し、映画、芸能、お笑いの分野にも活動範囲を広げている。2014年から、日本のディープサウス、熊野在住の異能のギタリストのマネージャーも務めている。