多種多様なキャラクターを演じわける役者としての優れた表現力や独特な佇まいが、ひとたびマイクを握れば音楽の世界でも活きる俳優たち――。専業のアーティストとはまた一味違った趣に溢れる彼らの歌が、時にその時代を象徴する大ヒットや長く聴き継がれる名曲となることは少なくありません。そんな役者ならではの歌の魅力に迫るべくスタートした連載〈うたうたう俳優〉。音楽ライターにして無類のシネフィルである桑原シローが、毎回、大御所から若手まで〈うたうたう俳優〉を深く掘り下げていきます。
第4回は、2000年のシリーズ誕生以来、国民的な人気を誇っているテレビ朝日系ドラマ「相棒」に主演し、警視庁特命係の警部・杉下右京という風変わりなキャラクターとともに長く熱い支持を得続けている水谷豊をピックアップします。 *Mikiki編集部
松本隆、筒美京平、鈴木茂らが手がけた名主題歌
もう16年前になるのか。水谷豊が長い沈黙を破って音楽活動を再開させ、セルフカバーアルバム『TIME CAPSULE』(2008年)を大ヒットさせたのは。同年の大晦日には「第59回NHK紅白歌合戦」に出場して“カリフォルニア・コネクション”(1979年)を披露、「紅白」出演はデビュー32年目にして初の出来事だった。2009年には23年ぶりのコンサートツアーも開催され、セルフカバー第2弾『TIME TRAVELER』もリリース、いずれも新旧のファンを巻き込んでの大盛り上がりとなり、ベテランシンガー復活劇の成功事例となった。
これまでのキャリアで15枚以上のシングルをリリースしている彼だが(オリジナルアルバムは7枚発表している)、その約半数が、自身が主演を務めたドラマの主題歌である。つまり彼の歌声は、たえず七転八倒しながらガムシャラに走り抜けていく姿の映像とほぼセットになっていると言える。というわけで、ここでは彼が残した名主題歌の数々を振り返ってみたい。
記念すべき一発目だが、ひょっとしたら1979年に放送された「熱中時代・刑事編」の主題歌“カリフォルニア・コネクション”だと思っている人も少なくないのでは? 実は、同じ日本テレビ系の〈土曜グランド劇場〉枠でオンエアされた大竹しのぶとの共演作「オレの愛妻物語」の主題歌“故郷フィーリング”(1978年)が最初なのである。
楽曲を手掛けたのは、再始動後に発表した『人生ロマン派』(2010年)でもガッチリとタッグを組んでいる阿木燿子 × 宇崎竜童というゴールデンコンビ。気のイイあんちゃんといったドラマのキャラがそのまま乗り移ったかのような水谷の人懐っこい歌いっぷりが印象的で、全体の感触は〈はあとふる〉といったひらがな表記を当てたくなる類のもの。
そのドラマと入れ代わるようにスタートしたのが、彼をブレイクに導いた「熱中時代・教師編」の第1シリーズだったが、そこではシンガーとしての登板はなし。翌年からスタートする「熱中時代・刑事編」において、“カリフォルニア・コネクション”という名実ともに代表作となる楽曲と巡り合うのである。当時アレンジャーとして台頭しつつあった鈴木茂による華麗なるトラックのうえで、軽妙かつ洒脱に振る舞う歌唱はまさにドラマのイメージを地で行くものだったと言えるだろう。