歌で世界を変えるまでのドキュメント
そんなマーチンの洋楽ルーツを明示したのがDisc-3だ。うち4曲はシャネルズの初作『Mr.ブラック』(80年)でLPのB面を構成していたドゥーワップ・カヴァー。ただし、いずれも新版で、コーズ“Sh-Boom”、キャデラックス“Zoom”、ダブス“Chapel Of Dreams”は〈THE ROOTS 2025 Ver.〉、レイズ“Silhouettes”も佐藤との〈2025 Ver.〉として披露されている。同時に82年作『ダンス!ダンス!ダンス!』からもチャビー・チェッカー“Twistin’ U.S.A.”やフラミンゴス“Lovers Never Say Good-Bye”などが選ばれているが、桑野や田代まさしがリードを取る曲も含むこれらはオリジナルで収録。当時20代だった血気盛んな彼らが衝動のままに歌ったようなカヴァーからは、池上本門寺の裏手で夜な夜なコーラスの練習に励んでいた姿が目に浮かぶようだ。カヴァーはマーチンのソロ作からも選ばれ、うちシェップ&ザ・ライムライツの“Daddy’s Home”は今回〈2025 A cappella Ver.〉として披露されている。
Disc-3は洋楽カヴァーにとどまらない。シャネルズ時代の渡米ライヴ実況盤『LIVE AT WHISKY A GO GO』(81年)で“ランナウェイ”を英語詞で歌って以来の試みとして、同曲の新録版“Runaway(2025 English Ver.)”も収録。また、そのオリジナルを作詞した湯川れい子が変名で書いたエミー・ジャクソンの英語詞曲“涙の太陽”(65年)も、湯川へのオマージュを込め、“Crying in a Storm”として新録カヴァーしている。4つ打ちのアッパーなロック調だが、どんな曲調であれ常に軸をなすのは路上で培ったマーチンのソウル・ヴォイスであると証明する一曲だ。
メキシコ系アメリカ人たちはバリオをクルージングしながらドゥーワップやスウィート・ソウルを嗜んでチカーノ・ソウルを作った。同様に地元の大森町付近を車で流していたマーチンたちもドゥーワップやロックンロールを咀嚼した曲で歌謡界に現れた。『All Time Doo Wop ! !』は、そのドキュメントとなるスリリングなベスト盤なのだ。 *林 剛
鈴木雅之の近作を一部紹介。
左から、2020年のベスト盤『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』、2023年作『SOUL NAVIGATION』、2024年作『Snazzy』(すべてエピック)
『All Time Doo Wop ! !』のDisc-3でカヴァーされた楽曲のオリジナルを収めた作品を一部紹介。
左から、ダブスのベスト盤『The Very Best Of The Dubs:Could This Be Magic - Singles As & Bs 1956-1962』(Jasmine)、レイズのベスト盤『Stereo Singles Collection』(Classics France)、チャビー・チェッカーのベスト盤『Twistin' USA:The Singles As & Bs 1959-1962』(Jasmine)、フラミンゴスのベスト盤『The Flamingos Collection 1953-61』(Acrobat)