2015年春、姫乃たまのソロアルバムを制作するはずが、ソロは他レーベルで進行中とのことで、〈本人名義ではなくユニットとしてなら〉と始まった〈僕とジョルジュ〉。作詞・ボーカルの姫乃たまと、音楽面を支える佐藤優介、金子麻友美の3人を中心に、アルバムごとにサポートメンバーを変え、2017年までの3年間に3枚のCDアルバムと2枚の7インチシングルを発売、ライブも活発に行っていたが、2018年に発表を予定されていたサードアルバムの制作が頓挫、2022年8月、ラストアルバム『僕とジョルジュ3』が5年ぶりにようやく発売となった。ファーストアルバム『僕とジョルジュ』(2015年)に参加した澤部渡(スカート)、シマダボーイに加え、佐久間裕太や山ちゃんを演奏メンバーに迎えた本作について、その特異な制作過程などを姫乃たまと佐藤優介の両名に訊いた。
なんで再始動したんだっけ?
――『僕とジョルジュ3』は2018年に発売する予定がストップしていたんですよね。
姫乃たま「わりと作業は進んでいて、ジャケットの撮影まで出来ていましたね」
――写真は、〈立木義浩スタイルで〉とはっきりした考えがあった。何で止まったんだっけ?
姫乃「それは、私と金野さん(インタビュアー、僕とジョルジュのA&R)が大ゲンカしたからです」
――(町あかりがプロデュースした2017年作『もしもし、今日はどうだった』に続く)ソロアルバム作りでモメたんですね。それで1年半も断絶が続き、奇しくも町あかりさんがきっかけで再会して、〈もう一度やろう〉となりました。
姫乃「とは言え、何で再始動しようとなったのかは思い出せない……」
――姫乃さんから言ってきたんですよ。
姫乃「いや、違うと思います」
佐藤優介「俺も金野さんから言われました」
――それは去年(2021年)の夏です。
姫乃「その頃に〈優介さんがOKだからやりましょう〉と電話があったのは覚えてるので、やっぱり私の方が後です」
――これまでは、CDが出来上がってから適当なプロモーションを何となくやってきたんだけど、今回は、きっちり宣伝プランを先に作って、先行配信、先行7インチシングルを出してから4月にアルバム、という予定を伝えました。
佐藤「そうでしたっけ」
――そうです。
姫乃「普通のレーベルやアーティストが普通にやることを今回は普通にやるんだ、と思いました。だって、金野さん、Spotifyとか配信のことを全く知らなかったですもんね」
――今も分かってないけど、(発売元の)ディスクユニオンのDIWに配信専任のスタッフがついたのでスムーズにいくようになったんです。
佐藤「なるほど」
「ゲット・バック」方式で録音
――去年の12月、納期どおり姫乃さんから全曲の歌詞が出来上がって、スケジュールどおり佐藤さんがそれに曲を打ち込みで作っていくもんだとばかり思っていたら、なかなか進んでくれなくて。それでも先行シングルの“百年は孤独”は出来て、〈こりゃスゲえや〉と。このまま行ってほしいと思っていたら、止まったんです。それで正月明け早々、横浜で佐藤さんと会ったんですよ。
佐藤「ああ、試聴室(日ノ出町試聴室その3)で。(2021年11月に配信された)ビートルズの『ゲット・バック(ザ・ビートルズ:Get Back)』の話をしましたね」
――僕とジョルジュの録音を「ゲット・バック」みたいに短期間でスタジオに缶詰になってやろう、と切り出されたんですよ。
佐藤「というのも、俺はもともと5年くらいかけて作る気でいたんで」
――え? このアルバムをですか。
佐藤「そうそう」
――でも、〆切はあるでしょ。
佐藤「〆切はあってないようなもんだと。宣伝をやるといっても、(金野に)信用とかないし。もう今回は自分のペースでやろうと思ってたんです」
――初めて知った。
佐藤「それで年の始めに4、5曲くらいは出来てたんですけど。そのうちの1曲が“百年は孤独”ですね」
姫乃「そうなんだ」
佐藤「でも当然このペースだと間に合わないんで、納期を伸ばしてほしいと言ったんですけど、どうしても当初のスケジュールで出したいと」
姫乃「金野さんの強い意志がね」
佐藤「それだと絶対間に合わないので、もう『ゲット・バック』ですね。ミュージシャンをスタジオに集めて、曲も全部その場で作って、録音までやっちゃう。それなら間に合うよと」
――「ゲット・バック」を観て、具体的には、どのような方法で作ろうと思ったんですか?
佐藤「もうセッションで全部作っちゃおうと思って。それが一番早い」
――あの映画だとスタジオでの食事のシーンが印象的で。
佐藤「みんなで不味そうなサンドウィッチとか食べてね、いいですよね」
――僕ジョルの録音で、俺の仕事はピザの出前かなと張り切ってたんだけど。
姫乃「そんな暇なかったですよね」
佐藤「1日で12曲だからね。ビートルズだってスタジオには1か月入ってましたよ」