ムーンライダーズ
即興が生んだ展開の読めない物語、新境地を切り拓いたニュー・アルバム!

 ムーンライダーズには日本のロックの歴史が刻み込まれている。75年にデビューして以来、ロック、プログレ、ニューウェイヴ、オルタナなど、バンドはさまざまな音楽性を取り入れて新しい音楽を探求してきた。昨年、長い活動休止期間を経て約11年ぶりのオリジナル・アルバム『It’s the moooonriders』を発表して話題を呼んだが、それから1年も経たないうちに届けられた新作『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』は、なんとバンド初の全曲即興。復活した直後に賛否両論巻き起こす作品に挑むところが彼ららしい。

ムーンライダーズ 『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』 BETTER DAYS/コロムビア(2023)

 前作発表直後、スタジオ入りしたバンドは2日間に渡って即興セッションを繰り広げた。セッションには、近年ムーンライダーズの活動をサポートしている澤部渡(スカート)、佐藤優介(カメラ=万年筆)が参加。スタジオに20種類以上の楽器を並べて各自が自由に楽器を選んで演奏したが、複数の楽器を弾く者もいた。そして録音した音源を、大胆にエディットしたり、ポエトリーリーディングや歌をダビングするなどさまざまなアプローチで手を加えた。即興といえば難解なイメージがあるが、本作の収録曲は展開が読めない物語のように想像力を刺激して、最後まで飽きさせない。バンド結成50年を目近にして、彼らは何度目かの新境地を切り拓いた。

 そんな矢先、キーボードの岡田徹がこの世を去った。バンドの代表曲を数多く手掛けた岡田は、優れたポップセンスを持つソングライターであり、プロデューサーとしても活躍。さまざまなバンドを世に送り出した。前作のレコーディングには体調不良であまり参加できなかったそうだが、今作では大活躍しているので耳を澄ませてほしい。なかでも、キーボードに入れたボカロで〈サヨナラ〉と演奏していることに驚かされる。偶然から生まれる即興を題材にした本作を、忘れられないものにするこの偶然は、共に新しい音楽を生み出した仲間たちへの置き土産なのかもしれない。もちろん、ムーンライダーズはまだサヨナラとは言わない。まだ行ける、そんな気迫に満ちたアルバムだ。

ムーンライダーズの近作を紹介。
左から、2020年8月収録のライヴ盤『moonriders special live カメラ=万年筆』、2020年10月収録のライヴ盤『LIVE 2020 NAKANO SUNPLAZA』、2022年作『It’s the moooonriders』(すべてBETTER DAYS/コロムビア)