チャートを席巻するだけでなく、〈MUSIC AWARDS JAPAN〉で最優秀アーティスト賞を受賞するなど、今や〈国民的バンド〉と呼んでも言い過ぎではない存在感を放つMrs. GREEN APPLE。彼らのメジャーデビュー10周年を祝うベストアルバムにして、2025年最大の話題作の一つ『10』がリリースされた。タワーレコードではスペシャルコラボ企画も展開されているが、この記事ではミセスのこれまでを振り返って、フルアルバム5作とベストアルバム2作をレビューする。 *Mikiki編集部
1stフルアルバム『TWELVE』(2016年1月13日リリース)
『Introduction』(2014年)、『Progressive』(2015年)、『Variety』(2015年)とミニアルバムをリリースしてきたMrs. GREEN APPLEの記念すべき1stフルアルバム。メンバーがまだ高校生だった頃の2013年にバンドが結成されたこと、『Introduction』がライブ会場限定で売られていた作品だったこと、『Variety』がメジャーデビュー作となったこと……。圧縮された情報を2025年の視点から後追いするだけで、当時の彼らのすさまじい勢いを感じる。さらにそれから約10年後の現在、〈国民的バンド〉と呼んでも過言ではない立ち位置を考えると、とんでもない進化と発展を遂げてきたことに改めて驚かされる。
『TWELVE』というアルバムタイトルは、大森元貴が12歳で音楽活動を始めたことが由来の一つになっているという。アルバムは10曲目の短い“InTerLuDe 〜白い朝〜”を除くと12曲入りで、コンセプチュアルな作りが徹底されている。
全体的に猪突猛進でダンサブルなロック路線でBPMは早め。無敵感に溢れつつ、〈青春の叫び〉と評したい青い性急な感覚が全編に横溢している。鋭利なギターリフと複雑なリズムで始まり、スカのような裏打ちビートで推進していく冒頭の“愛情と矛先”、ギターのブリッジミュートで高めつつ、EDMの意匠も取り入れた2曲目“Speaking”、それに続く“パブリック”“藍(あお)”などはその象徴だ。
青い曲ばかりではない。5曲目の“キコリ時計”はマーチングドラムや打ち込みのホーンセクションなどが踊るサウンドで、キメや転調によるドラマの作り方などがJ-POP的であり、ロックとポップの融合ぶりにその後のマキシマムなミセス節が凝縮されている。またピアノが中心のバラード“私”、最後の軽快な“庶幾の唄”あたりに現在のミセスのバラエティ豊かな音楽性の原点があるように思えてならず、なんて早熟なんだと圧倒される。
大森の伸びやかなハイトーンやエッジボイス(“ミスカサズ”など)を駆使した技巧的かつ唯一無二の多彩な発声も、ほとんどすでに完成している。ダブ、ポストロック/マスロック、電子音楽、日本的な和の要素(“No.7”の和太鼓)といった多様な音楽エレメントの実験的な導入、巧みで正確なリズム感、豊かな演奏力・表現力など、〈青りんごは早くも熟れていた〉と確信する高い完成度の作品だ。2000年代以降、BUMP OF CHICKEN、SEKAI NO OWARI、ゲスの極み乙女といったバンドがロックシーンからJ-POPを変革していったが、彼らのバトンを受け取ったミセスの登場を告げるアルバムにして、邦ロックの総決算のようですらある。