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ユニバーサルな〈愛〉を追い求める歌詞

歌詞も深く見てみよう。この曲が収録される3rdアルバム『Prema』は米リパブリックと契約してリリースされる作品で、実質的に世界デビュー作になる。そのため“Hachikō”に続き、“Love Like This”も全編英語詞だ。

藤井 風はこの曲について、〈What is the purest form of love? And the supreme bliss it brings? I guess I don’t know it yet, but in this song, I pretended I did. 最も純粋な愛の形とは? そしてそれがもたらす至高の喜びとは? 私はまだ知らないと思うがこの曲の中で知ったフリをしてみたのだ。〉とコメントしていた。つまりテーマは、曲名のとおり〈愛〉である。

ただ愛といっても、〈divinity(神性)〉〈paradise(楽園)〉〈soul(魂)〉〈heaven(天国)〉といった言葉が使われているように、やはり藤井 風らしく神聖な愛、高次の存在や神がもたらす愛のことを歌っているように思われる。〈Wherever I go I feel you(どこに行ってもあなたを感じる)〉のようなラインも象徴的だ。〈Finaly here I am(ついに私はここにいる)〉という部分は、旧約聖書における約束の地なんかを連想させる。

西洋的な宗教観の神聖な愛が歌われる一方で、仏教における現世で生きることの苦しみ、一切皆苦的な世界観も対比的に表現されている。先ほどの〈Finaly...〉の直前、〈I’ve been / Suffering in this tiring / Crazy world like I’m drowning / There’s no way to escape I thought but(このうんざりする狂った世界で私は苦しみ、溺れているかのようだった/逃げ道はないと思っていたけれど)〉がそうだ。そんななかで〈I’ll never find another love like this(こんな愛はもう二度と見つけられない)〉と至上の愛に出会い、〈To heal a heart that’s been breaking / Mend a soul that’s been crying out / Let me out(ここから出してくれと泣きわめく魂を修繕し、傷ついた心を癒す)〉という境地に至る。

ただ藤井 風のコメントにあるとおり、壮大な愛や喜びを〈知ったフリをしてみた〉という点に捻りがある。つまり藤井 風も私たちも、〈純粋な愛〉や〈至高の喜び〉、すなわち〈love like this(こんな愛)〉にまだ出会えていないというわけだ。そこは実に藤井 風らしいポイントで、西洋的な宗教観と仏教的な世界観が一体化したような世界観が滲み出ている。どうやったら真の愛に近づき、触れることができるのか。この曲で歌われている美しい愛と最終的に出会うために、私たちは日々をより良く生きていくしかないのではないか、というメッセージが透けて見えるように感じられる。

〈More than perfect, amazing / More than words can explain it’s / Purest form of reality(完璧以上に素晴らしく/言葉で言い表せられないほど/もっとも純粋な現実の形)〉。現実の〈狂った世界〉を見渡せばわかるように、そんな〈完璧以上に素晴らし〉いものは、そこらへんに転がってはいない。そう簡単に到達できない高みに理想が存在しているからこそ、人は努力し、より良く生きるように心がけることができる。踏み込んで聴くと、“Love Like This”はそんな歌として読み取れないだろうか。

もちろんそういったスピリチュアルで宗教的な話や抽象的な理想論に落とし込まず、“Love Like This”をシンプルなラブソング、深い愛で結ばれたある2人の関係の歌として聴くこともじゅうぶん可能だ。虚心坦懐に聴くとそのように解釈できるし、藤井 風とある女性との愛をシネマスコープばりの横長画面で映画的に映したミュージックビデオ(藤井 風にとって初めてラブストーリーを描いた作品)もそのような物語である。

だからこそ“Love Like This”は、世界のどこの誰がどのように聴いても感動するポイントをいくつも持っており、とてもユニバーサルな魅力がある。どこか達観したところのある藤井 風にしか書けない曲であることは間違いない。

今や日本を背負い、世界で活躍する音楽家になった藤井 風。常に自然体で、表現の軸にあるものはデビュー時からまったく変わっていないのにもかかわらず、彼の音楽、歌にはより広いオーディエンスとリスナーに届ける意志が宿っている。“Love Like This”は、そんな今の藤井 風を存分に表した曲だ。

 


RELEASE INFORMATION

藤井 ⾵ 『Prema』 HEHN/ユニバーサル(2025)

リリース⽇:2025年9月5日(⽔)
Pre-Save & Pre-Add:https://Fujii-Kaze.lnk.to/Prema

■初回盤(2CD)

品番:UMCK-7275
価格:4,950円(税込)
・紙ジャケ 三つ折りソフトパック
・ブックレット
・歌詞/対訳・解説付き
・両⾯ポスター(B3変形サイズ:515mm × 364mm)
・DISC 2には前作『LOVE ALL SERVE ALL』リリース後からこれまでに発表された6 曲(全世界でストリーミング累計3.5億回再⽣されている“満ちてゆく”やプロデューサーにA. G. クックを迎え制作された“花”、“Feelinʼ Go(o)d”など)に未発表曲“Itʼs Alright”を加えた作品『Pre:Prema』(読み:プリプレマ)を収録

■通常盤(CDのみ)

品番:UMCK-1798
​価格:3,520円(税込)
・紙ジャケ 三つ折りソフトパック
・ブックレット
・歌詞/対訳・解説付き

■RECORD(RECORDのみ)

品番:UMJK-9152
​価格:6,050円(税込)
​・⾒開きジャケット仕様
・カラービニールLP 1枚組

TRACKLIST
CD
DISC 1 ※初回盤・通常盤共通
1. Casket Girl
2. I Need U Back
3. Hachikō
4. Love Like This
5. Prema
6. It Ain’t Over
7. You
8. Okay, Goodbye
9. Forever Young

DISC 2 ※初回盤のみ
1. grace
2. Feelinʼ Go(o)d
3. Workinʼ Hard
4. Itʼs Alright
5. 花
6. 満ちてゆく
7. 真っ⽩

LP
Side A
1. Casket Girl
2. I Need U Back
3. Hachikō
4. Love Like This
5. Prema

Side B
1. It Ain’t Over
2. You
3. Okay, Goodbye
4. Forever Young

 


PROFILE: 藤井 風
1997年6月14日生まれ。日本のシンガーソングライター。幼少期より父の影響でクラシックピアノを始め、ジャズ・クラシック・R&B・ソウル・ポップなど多様なジャンルの音楽を聴いて育った。12歳のときに実家の喫茶店で撮影したピアノカバー動画をYouTubeに投稿したことが、のちに音楽の世界へ飛び込むきっかけとなる。2020年1月、“何なんw”のミュージックビデオの公開とともにデビューした。2020年5月、1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』(ー常に助け、決して傷つけないー)をリリース。2021年9月、〈“Free” Live 2021 at NISSAN stadium〉を無観客で開催。コロナ禍のなか、自身の音楽を通じて人々の心を解放したいという想いのもと、7万人収容のスタジアムにてグランドピアノ1台のみで演奏をおこなった。この公演はYouTubeにて生中継配信され、約18万人が同時視聴し、Xで世界トレンド1位になった。2022年3月、2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(ー全てを愛し、全てに仕えよー)をリリース。藤井 風が大切にしているコアメッセージを掲げたアルバム2作品は、ともにBillboard JAPANの総合アルバムチャート〈Hot Albums〉で1位を獲得した。2022年、1stアルバムの収録曲“死ぬのがいいわ”が突如タイを中心にバイラルヒット。Spotifyの〈Daily Viral Charts〉で全世界73の国と地域にランクイン、うち23の国と地域で1位を獲得。Spotifyの月間リスナー数が1,000万人を超えた初の国内アーティストとなった。2022年10月、2ndアルバムのリリースを記念し、〈LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE〉と題したスタジアムライブを音楽ライブの開催は史上初となる大阪府吹田市のPanasonic Stadium Suitaで開催し、2日間で7万人を動員した。この模様はNetflixで全世界に配信されている。2023年6~7月、11公演のアジアツアーを7都市で初開催。2024年、NPR〈tiny desk concerts JAPAN〉に出演し、世界的に大きな反響を得る。5月に初のUSツアー、8月に2日間で14万人を動員した日産スタジアムワンマンライブ、10~12月にかけて14公演のアジアアリーナツアーを全10都市で開催した。2025年、新設された〈MUSIC AWARDS JAPAN〉で『LOVE ALL SERVE ALL』が〈ALBUM OF THE YEAR〉〈BEST JAPANESE SINGER-SONGWRITER〉、ならびに“Feelin’ Go(o)d”が〈BEST CROSS-BORDER COLLABORATION SONG〉を受賞。7月から初のヨーロッパツアー、8月から二度目の北米ツアーの開催、そして9月に待望の3rdアルバムのリリースが控えている。彼はこれからも音楽と人生を通じて世界に愛と自由を広める。