
クランベリーズ最大のヒット作にして至高の名盤が30周年!
ドロレス・オリオーダン(ヴォーカル)が2018年に急逝したことで活動は終了するも、2023年には3作目『To The Faithful Departed』(96年)がデラックス仕様でリイシューされたり、昨年には代表曲“Linger”のイアン・クック(チャーチズ)によるリミックスが配信されるなど、いまなお強い存在感を放ち続けているクランベリーズ。そんなバンドの地位を不動のものにした94年10月リリースのセカンド・アルバム『No Need To Argue』が、このたびリマスターを施した〈30周年記念エディション〉で登場した。
ノエル・ホーガン(ギター)とマイク・ホーガン(ベース)の兄弟とファーガル・ロウラー(ドラムス)らの組んだバンドを前身に、90年にドロレスを加えてアイルランドで誕生したクランベリーズは、スティーヴン・ストリート制作の“Dreams”で92年にメジャー・デビュー。翌93年のファースト・アルバム『Everybody Else Is Doing It, So Why Can’t We?』はアイルランドとUKでチャート首位に輝き、シングル“Linger”は全米8位まで上昇している。それらに代表されるオーガニックで雄大な音世界、ヨーデルや聖歌の影響を受けたドロレスの伸びやかで雄大な歌唱はこのバンドの根幹にある魅力だが、そこから同時代のオルタナ・サウンドに呼応した『No Need To Argue』はバンドの個性を確立する大きな転換点となった。
そんな変化の象徴こそが、アルバムからの先行シングルだった“Zombie”である。このヘヴィーなロック・チューンは、93年3月に英国政府と対立するIRA(アイルランド共和軍)が引き起こしたウォリントン爆破事件を受けてドロレスが書いたもの。2人の子どもの命を奪い、多くの負傷者を出したこのテロ事件についてアイルランドの人間が物申す重さもあり、レーベルは政治的な内容に難色を示したそうだが、この曲の芯が政治的というよりは人道的なメッセージであるのは言うまでもない。結果的に欧州各国でNo. 1を記録した同曲はシングル未発のUSでもエアプレイでオルタナ・チャート首位を獲得するなど、キャリア最大のヒットを記録する代表曲となった(2020年にはアイルランド出身バンドで初めてYouTubeでのMV再生数が10億回を超えたのも話題になった)。後にエミネムが“In Your Head”でネタ使いしたり、ドロレスとコラボするはずだったバッド・ウルヴズのカヴァーなどが知られるほか、近年ではマイリー・サイラスも取り上げている。
そんな同曲のヘヴィーな演奏スタイルはアルバム全体のラウドでダークな雰囲気にも直結。これはデビュー以降ライヴを重ねたことに伴うバンド内の自然な変化らしいが、当時の苦悩を反映した歌詞の暗さもあって、結果的にオルタナ全盛期のリスナー層からも支持を集める大きな要因となった。ドロレスがジェームズ・バルジャー事件(93年のリヴァプールで少年が幼児を誘拐殺人した事件)を受けて書いたという“The Icicle Melts”もそのディープさを物語る一例だろう。一方、伸びやかなスケール感でルーツ色を投影した冒頭曲“Ode To My Family”やイリアン・パイプが鳴り響く“Daffodil’s Lament”のように前作の空気感を継承した面もあり、さらには壮大でオーガニックな“I Can’t Be With You”や感動的な“Disappointment”のように魅力的な曲が満載されている。そうやって大胆な変化にも挑みつつアルバムは世界各国でNo. 1に輝き、全英2位/全米6位を獲得。通算1,700万枚超のセールスを上げ、商業的にもキャリア最大の成功を収めた作品となった。
今回の〈30周年記念エディション〉では、生々しく感傷的な“Zombie”のデモ初公開が何よりのトピックだろう。他にも先述の“Linger”仕事でバンドの信頼を得たイアン・クックが引き続き“Ode To My Family”と“Zombie”の新規リミックスを提供。さらにアルバム直前の94年8月に出演した〈ウッドストック〉のライヴ音源も収録されている。表現を磨きながら全盛期へ向かっていた4人の逞しい勇姿を改めて確認してほしい。
クランベリーズの作品を一部紹介。
上から、2019年作『In The End』(BMG)、96年作の新装豪華盤『To The Faithful Departed(Deluxe Remaster)』(Island)
左から、エミネムの2017年作『Revival』(Shady/Aftermath/Interscope)、バッド・ウルヴズの2018年作『Disobey』(Eleven Seven)、マイリー・サイラスの2020年作『Plastic Hearts』(RCA/ソニー)、チャーチズの2021年作『Screen Violence』(EMI)