ヨルバの血を引く双子が誘う、かの民族文化の世界観と現代を交錯させた未知なるカルチャーへの入口
本稿の依頼を受けて調べているうちに知ったのだが、世界最高の双子出生率を誇るのは、西アフリカの主要民族のひとつであるヨルバの人々なのだという。理由は食生活にあるらしく、また、祝福をもたらすとされる双子を巡ってさまざまな風習や伝説がヨルバ文化には存在している。
キューバに生まれパリで育った、共に19歳のナオミとリサ・カインデのディアス姉妹は、まさにヨルバの血を引く双子。音作りにおいても精神面でもヨルバ文化を拠りどころにしており、ユニット名のイベイーもヨルバ語で双子を指す。〈キューバ出身でヨルバ?〉と怪訝に思う人もいるだろう。が、実はヨルバ文化は奴隷貿易時代に人々といっしょに大西洋を渡り、ことキューバでは現在に至るまで広く影響を及ぼしているのだ。「ヨルバ文化は私たちとキューバを結ぶ絆で、自分の奥深い部分に根付いている」というナオミの発言に、リサは次のような説明を加える。
「私たちはヨルバ文化の只中に生まれたの。両親はサンテリア(ヨルバ文化に根差した密教)の信者で、母は私たちを妊娠していた時に入教の儀式を受けたし、人生の一部よね。ただ、ヨルバ語はいまじゃ中南米では使われていなくて、サンテリアやカンドンブレ(同じくヨルバにルーツを持つブラジルの宗教)の世界だけで通用する、祖先と伝統、詠唱と予言の言語なのよ」。
先頃XLからファーストEP『Oya EP』を発表したそんな2人が、本格的に活動を始めたのは約3年前。「当初は私ひとりで曲を作っていたんだけど、人前で演奏してほしいと頼まれた時にナオミが参加して、イベイーが誕生したの」とリサは振り返る。よって役割分担は明確だ。ヨルバ語と英語による作詞/作曲を手掛けるのはリサ。ナオミはそこにパーカッションを絡め、ハーモニーを重ねて、「いっしょに空気感を見極めて」曲を完成させる。
「全然違うタイプの人間だからコラボは簡単じゃない。でも私たちがお互いを補完し合っているのは確かで、それを痛感させられるわ」(ナオミ)。
「音楽こそ私たちの真のコミュニケーション手段なの。だから2人で作る音楽はスペシャルなんだと思う」(リサ)。
それに、ラテン・ジャズを代表する名パーカッショニスト、ミゲル“アンガ”ディアスを父に持つ姉妹は、音楽の道を選ぶよう運命付けられていたと言えなくもない。
「父が私たちに与えた最大の影響は、たくさんの異なる要素をミックスしていくスタイルね。彼はそれをジャズやルンバ、アフリカ音楽を融合させ、実演していたから」(ナオミ)。
「父から直接レッスンを受けたことはないけど、無意識のうちに受け継いだのよ」(リサ)。
実際、本EPに収められた曲は、ヨルバの世界観と現代を交錯させ、ソウルからヒップホップやベース音楽までさまざまなスタイルを引用。必要最低限のグルーヴとハーモニーが、歴史の重みと多様性を物語る。ナオミはヨルバのバタドラムや中南米で使われているカホンでモダンなビートを鳴らし、詠唱に似たリサの歌もヨルバの伝統に則ったもの。詞もやはり、“River”は川の女神オシュンにインスパイアされ、恋の終わりを描く“Oya”は地下世界の女神オヤから題名を取るなど、ヨルバの神話に基づいている。「ヨルバ文化は自分より大きな存在のために歌い、ドラムを叩き、踊ることの素晴らしさを教えてくれる」と語る2人のスピリチュアルで神秘的な音楽は、未知のカルチャーへの入り口でもあるのだ。
ちなみに『Oya EP』も、現在制作中だというファースト・アルバムも、XLオーナーのリチャード・ラッセルがみずからプロデュース。最近ではデーモン・アルバーン『Everyday Robot』で絶妙な引き算のアプローチに徹した彼は、このうえない適任だ。リサは「祈りのような曲の集まり」と、ナオミは「コンテンポラリーな霊歌」と予告するそのアルバムが、2015年最大の話題作の一枚になることは想像に難くない。
イベイー
キューバ生まれ、パリ育ちのリサ・カインデ・ディアス(ヴォーカル/ピアノ)とナオミ・ディアス(パーカッション)から成る双子ユニット。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの一員にしてヨルバ系の血を引くミュージシャンのミゲル“アンガ”ディアスを父に持ち、11歳から趣味でヨルバのフォーク・ソングを演奏しはじめる。今年初頭にXLと契約し、6月にファースト・シングル“Oya”を配信。同曲がルイ・ヴィトンのキャンペーン・ソングに選ばれるなど、ファッション業界からも大きな注目を集める。その後、“River”“Mama Says”とコンスタントに楽曲を発表。10月29日にファーストEP『Oya EP』(XL/HOSTESS)をリリース。