さまざまな狭間で苦闘しつつ、陰影の美学と音楽性を研ぎ澄ませていったlynch.の20年を振り返る!
lynch.が葉月(ヴォーカル)、玲央(ギター)、晁直(ドラムス)により名古屋にて結成されたのは2004年のこと。サポート・ベーシストを伴いながらライヴ活動を続けつつ、2006年には悠介(ギター)が加入。2010年、ラスト・インディーズ・ツアーの最終日に明徳(ベース)が正式加入し、2011年6月、『I BELIEVE IN ME』でメジャー・デビューに至っている。
今年発表されたふたつのリテイク作品は、悠介加入以前の2005年に発表された『greedy dead souls』と『underneath the skin』、彼の加入後まもなく制作された『THE AVOIDED SUN』(2007年)と『SHADOWS』(2009年)や同時期のシングル収録曲が、現在の5人の手により再レコーディングされたものだ。
lynch.の音楽的な軸はインディーズ時代から少しもブレることなく、激烈さとダークさ、ヘヴィーさとエモーショナルさを保ちながら洗練を重ねてきた。ただ、2000年代のヴィジュアル系がポップなものとヘヴィーなものへと二分されていき、その一方でラウド・ロックの浸透が進んでいくなか、双方の領域と彼らとの距離感には少なからず変化が生じていった。
葉月は「ヴィジュアル系という言葉は差別用語として使われることがある」と語る。実際、具体的な音楽性を指さないこの言葉には〈~のわりに〉といった軽視傾向の言い回しが伴うことも珍しくない。しかも洋楽ロックと親和性の高いラウド・ロックに比べ、ホンモノ度が低いものと見られがちな傾向があったことも否めない。
そんな時期、イヴェントで共演の機会があったバンドのひとつがPay money To my Painだった。葉月は彼らの音楽とスタイルに衝撃と共鳴を覚え、自分たちの音楽や姿勢により似つかわしい世の認識を得るためにもリアリティーを追求すべきだと考えるようになる。それにより次第にステージ衣装もストリート的なものになっていき、メイクも薄くなっていった。そうした傾向がもっとも顕著だったのが、メジャー第2作の『INFERIORITY COMPLEX』(2012年)だった。
そうした変遷のなかで、彼らは自分たちが元来持ち合わせてきた特性をもっと重視すべきだと気付かされ、ヴィジュアル系の先駆者たちからの影響、名古屋のシーンにおける特徴的要素といえるダークな美意識といったものを改めて打ち出すようになり、自分たちなりの背景やルーツと、今日的ヘヴィー・ロックの要素が共存するスタイルを築いていく。そうした流れの発端となったのが『EXODUS-EP』(2013年)で、そこでの試行をふまえながら、改めて色濃く独自性が打ち出されたのが『GALLOWS』(2014年)だった。
それ以降も彼らは実験と試行を重ねながら、『D.A.R.K. -In the name of evil-』(2015年)、『AVANTGARDE』(2016年)、『XIII』(2018年)、『ULTIMA』(2020年)、そして現時点での最新オリジナル・アルバムにあたる『REBORN』(2023年)、昨年にリリースしたEP『FIERCE-EP』と作品ごとにアップグレードを重ねてきた。また、そもそもlynch.は〈葉月の曲をやるバンド〉として始動しているが、徐々に作曲面での才気を発揮するようになった悠介の楽曲との明暗に富んだコントラストも絶妙になり、近作では5人全員が楽曲の原案を持ち込むことで音楽的な幅の広がりも増している。
外に目を向けると、葉月のHAZUKI名義でのソロ活動、玲央がかつて組んでいたkeinの復活、悠介と松本明人(ex真空ホロウ)によるプロジェクト=健康での活動など、各々が課外活動を通じて獲得してきた刺激や知識といったものがlynch.に還元されていること、それが新たな魅力に繋がっていることも付け加えておく。 *増田勇一
lynch.の作品とメンバーの関連作。
ジャケは登場順に、2011年作『I BELIEVE IN ME』、2012年作『INFERIORITY COMPLEX』、2014年作『GALLOWS』、2015年作『D.A.R.K. -In the name of evil-』、2016年作『AVANTGARDE』、2018年作『XⅢ』、2020年作『ULTIMA』(2020年)、2023年作『REBORN』、2024年のEP『FIERCE-EP』(すべてキング)、HAZUKIの2023年作『MAKE UP OVERKILL』(プレッヂ)、keinの2025年のEP『delusional inflammation』(キング)、健康の2023年作『◎MNIBUS(+未来(完全版))』(ベルウッド)