
生演奏の限界に挑戦
――バンドの熱量という意味では、2曲目の“Bulldozer”もインパクト抜群です。
「今日インタビューがあるから、朝にアルバムを聴きながら準備してたんですけど、“Bulldozer”はせわしなさすぎて、大変な朝になりました(笑)。全然予定の時間には間に合ってるのに、せかされる感じになる。そのぐらいスピード感のある楽曲ですね。自分の中ではちょっとネタ曲みたいな感じもあるんですけど」
――以前にもリファレンスに挙がっていたブラック・ミディのようであり、ルイス・コールの激しめの曲のようでもあり、スクエアプッシャーの曲を生演奏しているようでもあるなと。
「生演奏でできる限界にトライしてみたかったのかもしれないですね。あとライブで聴いたら面白いだろうなっていう、お客さんが興奮できるような曲を作りたいと思いました。秩序がない感じというか、そういう部分もすごく出てますね」
――一発録りが軸ではあるけど、ダビングやポストプロダクションも重要ですよね。
「ベーシックは一発で録ってるんですけど、ところどころ持ち帰って、1人でシンセを入れたりはしてます。“Beat Birds”はあとでシンセとビートをちょっとだけいじって、ウワモノを家で足したりしました。“Bulldozer”もエレピとかはスタジオでみんなで呼吸を合わせて録ったんですけど、シンセは家で録りましたね」
――“Bulldozer”の真ん中で出てくる歪んだ音像のシンセは非常に印象的です。
「あれは時間がかかりました。音色が難しくて、何回もやり直して、しばらく置いて、また変えたり、ミックスの直前まで悩んだ部分ではありましたね。スタジオで時間を使い過ぎるのがあんまり好きじゃなくて、〈シンセソロは家で録る〉って言ったら、佳輝に〈いや、一緒に録った方がいいっしょ〉って言われたけど、結局家で録りました(笑)。でもそういう会話ができるのもめっちゃ楽しいなって」
――音色に対するこだわりは前作でのデスクトップでの制作の経験があったからこそでしょうね。
「その部分はこの1〜2年でかなり成長できたと思ってて、シンセ周りとかDTMに関しては、ファーストのときとは比べ物にならないぐらい自分の中で語彙が増えたので、こだわりたいと思えるようになったんです。
最初の頃は〈プレイが全て〉と思ってたけど、やっぱり音色もすごく大事だし、それを考えるのが楽しいと思えるようになってきた。前までは自分の指で音色をコントロールできないのがすごく苦手だったんです。シンセのつまみと脳みそがちゃんとつながってなかったから、なかなか思うような音色が作れなくて、苦戦してたんですけど、現場を重ねて、シンセもだんだんいじれるようになってきて、こういう音が出したいっていうビジョンが自分の中で見えるようになってきました。だから今回は家でいろいろいじったりして作れたのかなと思います」

音色へのこだわりとアンビエントへの傾倒
――だからすごくライブ感のあるバンドっぽい作品でもあるんだけど、音源としての音色の面白さ、多彩さもちゃんとある作品になってますよね。そういう音色や音像に関しては、リファレンスになったアーティストや作品はありましたか?
「ドイツの電子音楽にすごくハマった時期があって、ドミニク・オイルベルクという音楽家がいるんですけど、その人の作品がすごく好きで、そういうシンセの音を目指したり。
あとはシンセだけを使ったアンビエント系の映画音楽があって、調べてみたらロボット・コックというアンビエントの作曲家によるもので、その人の音楽は今年めちゃくちゃ聴きましたね。“Sketch#3”とかはすごく影響を受けてます」
――佳輝さんはあだち麗三郎さんとアンビエントのグループ(Vasola Punte)で活動してますよね。
「そうですね。佳輝自身もアルバム(『杳杳』)を去年出していて、それもアンビエントな方向性というか、そのアルバムも素晴らしくて。なので、そういう佳輝のやっている音楽とも今作は似たものがあるというか、影響はあると思います」
――“Oku”もアンビエントな音像が印象的です。
「他の曲を録り終えて、ちょっと時間があまったから、俊ちゃんと佳輝と私でとりあえず何かやってみようということになって、30分ぐらい回しっぱなしで録ったのを私が持ち帰ったんです。その中に佳輝と私のアンビエントセクションがあったので、そこを切り取ってできた曲ですね。
そのときに録ったピアノのフレーズを生かしてる部分もあるんですけど、佳輝のフレーズが素晴らしすぎて、家で自分のピアノを録り直しました。すごく想像力をかきたてられたので、自分の中でちゃんと咀嚼して、佳輝のベースの音色・フレーズに応える形でできた曲で、弾きすぎないというか、間というか、空気の音みたいな、そういうのを昔より意識できるようになった気がします」