
自分の心も身体も借り物、信じられるものは?
――『まにまに』には、今の時代やバンドの関係性が凝縮されていますよね。まず“つまらない毎日”は、初の男性ボーカル曲。
小田「越智くんが歌ってるんですよ。デモを作ってくれてそれがすごくよかったので、そのまま歌ってもらいました。歌詞は、越智くんと文香さんと私」
小西「越智も自分のプロジェクトで歌ったりしているから、〈いいね〉という感じで」
――〈背景を宇宙にして喋る〉とか〈AIに任せよう〉とか、すごく今っぽさのある歌詞が出てきて面白かったです。
小田「そこは私が書きました。私が暴走気味になった時に、CRCK/LCKSのグループチャットに〈返事が欲しいんだけど〉みたいなことを書いたんですね。その時に越智くんが〈そうだよね、今の気持ちわかるよ〉みたいな寄り添う返事をくれたんですけど、嬉しいと思いつつちょっとChatGPTみたいだなと思ってしまって(笑)」
小西「AIの模範解答(笑)」
小田「越智くんって、うちで制作してる時も気が付くとそこらへんで寝っ転がっていたりして、すごいのびのびしてるんですよ。そんな越智くんのリラックス感に何度も救われていたので、そういう雰囲気を音と歌詞に落とし込みたかった」
井上「冒頭に喋り声をいれてるんですけど、あれリハの録音で。笑い声が入ってることで軽やかになったよね」
小西「そうそう。この曲は軽さが肝だと思ってたんですよ。根にあるスタイルがロックな曲だから、かっこよく仕上げたい気持ちがあって。でも、ヘビーな方じゃなくてライトなロックの空気感が合う」
――〈今っぽさ〉という点では“レンタル神様”も象徴的ですね。
小田「〈レンタル神様〉というワードがあるとき浮かんで、その話をうちのキッチンで銘くんにしたら、色々盛り上がったんだよね」
井上「そうそう、俺も同じことを考えてた時期があって。家も借り物だし、土地だって人間が勝手に住所を割り振って〈俺のもんだ〉って言ってるだけ。実は自分が本当に所有してるものって少ないよね、みたいな話をしたね」
小田「自分が自分だと思っている心も身体も、〈借り物じゃない〉と言えるのかと考えると、わからない。だけど、〈じゃあ私は何を信じられるか〉と自分に問うたら、自分でも、人でも、何かを好きだというエネルギーは信じられるなと。
あと、人って他人はおろか自分のことすらよくわかってないと思うんですよね。誰も世界の全貌を把握できないけど、だからこそ〈すべてを把握してくれている存在がいてくれたら〉と願う。その願いそのものが〈神様〉なのかなと思ったりして。メッセージというようなことではないのですが、何かそういうことを考えたりしながら作っていた気がします」
――小田さんの〈何かになりたいけど、なれない〉という劣等感が雪解けしてるような歌詞でもありますね。日常から生まれた楽曲は他にありますか?
小田「“真空パック”の歌詞は、テレビで〈ライブに行って推しを見たカラコンを全部保存してる女性〉を見たことがきっかけで書きました。彼女は思い出そのものを真空パックしてるように見えて、すごく愛おしかったんです。
アルバムを作ることもそれと似ていて、音楽という形でその時の感情や熱を封じ込めておく作業だなと思いました」
――“Psycho Sky”は、井上さんの作曲。前のインタビューで小田さんは「銘くんが作る曲はかっこいいけど難しい」とお話しされてましたが……?
小田「今回も難しかった(笑)。でも、ハーモニー感覚が掴めるとすごくしっくりして、スッと歌えるんです。自分にはない発想で歌えるのは、ボーカルとしてかなり嬉しい一曲です」
――終盤にかけてのサックスが神秘的でした。
小西「コラール(賛美歌)みたいなところだよね」
井上「当初ストリングス的なフレーズのアイディアがあったんですけど、どうしようかなぁって感じだったんですよね」」
小西「確か、もともと〈弦楽四重奏みたいにしよう〉という話はあったんだけど、どの楽器でやるべきか決めかねていたんだよね」
井上「そうそう。もともとそんなイメージでデモを組んでいました。ロジックで成立する音と実際に弾いてみて合うかどうかは別だと思っていたので、小田さんのシンセと小西のサックスをフィーチャーしたら、とても素敵にしてくれました」
小西「結局合宿では間に合わなかったので、自宅で録音したテイクを使いました。かなり多層的な音にしちゃったのでライブの再現は物理的に無理(笑)。詰め込みすぎてて、どうやるか全然わからない」