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「R・シュトラウスはレパートリーの根幹、ゆくゆくはオペラを」
――京都市交響楽団と初のアルバム、『英雄の生涯』をリリース!

 沖澤のどかが2023年4月から第14代常任指揮者を務める京都市交響楽団(京響)とは最初のライヴ録音盤、R・シュトラウスの交響詩“英雄の生涯”を日本コロムビアからリリースした。動画配信にはシモーネ・ヤング、カリーナ・カネラキスらによる同曲の演奏もアップされているが、正規の商業録音をディスク化した女性指揮者はどうやら、沖澤が第1号らしい。“英雄の伴侶”のヴァイオリン独奏も女性のコンサートマスター、会田莉凡(京響ソロコンサートマスター)が担っている。

沖澤のどか, 京都市交響楽団 『R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」』 コロムビア(2025)

 試聴の第一印象は「指揮者とオーケストラの名を伏せたら、誰も日本の楽団と当てられないのではないか」と思わせる響きの芳醇さだ。「京響を最初に聴いた時、日本のオーケストラにしては珍しく音を〈縦〉ではなく〈横〉に合わせられ、小ぢんまりとまとまらないにもかかわらず、最強奏でも音色が荒れないのに感心しました。2024年に就任された松井孝治楽団長(京都市長)のご協力もあって、この“英雄の生涯”の時の演奏会(2025年3月14 & 15日の第698回定期)のリハーサルは本番と同じ会場の京都コンサートホールで3日間行うことができ、今までよりじっくりと音づくりをすることができました。弦の分奏もホールで行い、アンサンブルの組み方や合わせ方も細かく詰め、自分たちの音を〈どう響かせるか〉に工夫を凝らしました」

 「女性コンビらしいたおやかな演奏」と一括されることには抵抗があるようだ。「莉凡さんのソロは、どちらかというと男性的です。あえて言えば、すでに広く知られた“英雄の生涯”から色々と新しい面を引き出そうと、2人して工夫を重ねたのは確かです」

 沖澤と京響のディスクは今後も計画されているという。「基本はライヴです。京都コンサートホールが録音バランスからみても絶妙の音響を備えている実態は、今回の編集作業を通じても確認しました。ライヴの臨場感を生かしながら弦の音色を私が実際に体感した京響の音色にどう近づけて行くかなど、あれこれ勉強にもなりました」

 2025年9月19 & 20日の京都での第704回定期演奏会の後、沖澤と京響は日本国内ツアーを行った。巡演先は兵庫、東京、福井、長野、八戸、青森。プログラムは定期と同じく前半が19世紀フランスの女性作曲家ルイーズ・ファランクの“交響曲第3番”、後半がもう1人の京響ソロコンサートマスターで弦楽アンサンブル〈石田組〉の〈組長〉でもある石田泰尚がソロを兼ねるR=コルサコフの交響組曲“シェエラザード”で、名曲路線とは一線を画す。「珍しい作品や同時代の新作は東京でしか聴けない、という状況を今回のツアーから変えていきたい」と意気込む。最後の2都市は故郷の青森県にあり、沖澤は芸術総監督として2025年に〈青い海と森の音楽祭〉を同地で立ち上げた。

 京響との契約は2029年3月まで3年延長され今年度は定期演奏会が3回と2週間の国内ツアー、第九コンサート、〈こどものためのオーケストラ入門〉シリーズなどに出演する。さらに首席客演指揮者のポストにある〈セイジ・オザワ松本フェスティバル〉、日本国内や海外オーケストラへの客演、青森の音楽祭が入るが「あまり飛び回るのは好きではありません」とも話す。本拠は依然、ベルリン。今後は徐々にオペラの仕事も増やしていきたいとのこと。松本では「フィガロの結婚」(2022年)、「夏の夜の夢」(2025年)と2つのプロダクションを成功させた。京響でも2026年3月の「コジ・ファン・トゥッテ」の演奏会形式上演を控えている。「近現代作品、とりわけR・シュトラウスはレパートリーの中心に位置しますから、ゆくゆくはオペラ作品も京響でとり上げたいと考えています」

 


沖澤のどか(Nodoka Okisawa)
1987年、青森県生まれ。幼少期からピアノ、チェロ、オーボエを学ぶ。東京藝術大学で指揮を高関健、尾高忠明両氏に師事して修士号を取得。2019年には、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでクリスティアン・エーヴァルトとハンス・ディーター・バウム両氏のもと第二の修士号を取得した。ベルリン在住。2019年、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝、併せてオーケストラ賞及び聴衆賞を受賞。2018年東京国際音楽コンクール〈指揮〉でも優勝(及び特別賞、齋藤秀雄賞を受賞)している。2023年3月、公益財団法人ソニー音楽財団 第21回(2022年度)齋藤秀雄メモリアル基金賞 指揮部門受賞。2023年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任。

 


LIVE INFORMATION
京都市交響楽団 特別演奏会「第九コンサート」

2025年12月27日(土)・28日(日)京都コンサートホール 大ホール
開演:14:30

■出演
沖澤のどか(指揮)
京都市交響楽団
嘉目真木子(ソプラノ)
小泉詠子(メゾソプラノ)
小原啓楼(テナー)
山本悠尋(バリトン)
合唱:京響コーラス

https://www.kyoto-symphony.jp/