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音楽は迎えに来てくれるものだと思っている

――それと家主とヤコブさんのアルバムやEPは、〈なぜ入っているのかわからない謎の捨て曲〉ってないですよね。そういう主義なのでしょうか?

「自分がリスナーなので、いい捨て曲と悪い捨て曲の差って聴いているとわかっちゃうじゃないですか。それこそユニコーンには、いい捨て曲(?)というか、遊び曲が多いですよね。エピソードや文脈を知らない状態で聴いた時に理解できない曲は、ハイコンテクストだと思うんです。

音楽って迎えに来てくれるものだと思っているので、リスナーが何も知らないで聴いても、その曲が聴く人を迎えに行ける要素がないものは、自分の作品に入れたくない気持ちがあります。とはいえ、迎えに来てくれる捨て曲もあるので、まあ自分には遊びというか、センスがないのかなと」

――ヤコブさんは過去のインタビューでリスナーに対して「せめてエミット・ローズやアイドル・レースを好きであってほしい」といったことをおっしゃっていましたが、そういった考えは変わってきましたか?

「本質的に、ポップネスに対して感度のいいリスナーの人口はすごく減っていると思うんです。文化が多様化して、以前よりも音楽の重要性はすごく低くなっていると思うし、他の分野に流れていっているように感じます。そのどれもが、もっとわかりやすくて、チャラくてかっこいい、みたいなものが求められているような気がします。

ただ、自分のように音楽に〈音楽〉を求めて聴いている人は少なくとも一定数はいるはずなので、そこだけに刺さってくれればいいとは思うんですね。そういう人に刺されば、仮にエミット・ローズを知らなかったとしても、聴いたら好きになるんじゃないかと思います」

――そうですね。チャンスがあれば。

「そういう良心のある入り口になれたら嬉しいなという気持ちは、おこがましくもある気がします」

――客観的に見て、家主は〈必ずいい曲を書く〉〈駄作がない〉というイメージが出来上がっていると思うんです。〈よくて当然〉という状況に対してプレッシャーを感じることはありますか?

「いえ、それはないですね。自分が聴いて〈いい〉と思わない曲は出さないので。それさえクリアしていれば、いま言った一定数の人たちにはわかる曲だと思うんです。

ただ、ここまででだいぶ曲を書いてきたので、身の周りで起こる現象で曲はできなくなっている気はします。たとえば、“BIKE”という曲はもう書いちゃったので、バイクに乗っていてもバイクの曲は書けない。どう視点を切り替えて曲を作っていくかが問題ですね。

最近は詞先になってきていて、言葉があれば曲を書けるんですけど、言葉がないところから作っちゃうと、しょうもない曲ができちゃう。ちゃんとした言葉があってから曲を作るべきなのかな、という気持ちに変わってきました」

 

〈アート〉や〈淡いもの〉への複雑な思い

――ヤコブさんは多作ですが、イップスというか、まったく何も浮かばない時期はありますか?

「いまがそうですね」

――えっ、いまですか(笑)?

「曲はライフワーク的にずっと作っているんですけど、最近生活の変化があったりして、思うように作れないなと。作れなさすぎる状況が続けば、うずうずして作りたくなってくるだろうから、〈いまはそうじゃないんだ〉ぐらいの感じで捉えています。義務でもないですし、飽きたらやめると思うので大したことではないです。今年出すソロアルバムの作業が落ち着いたので、〈次に何を作ろう?〉とコンセプトを探している感じです」

――新しいソロアルバムはどんな作品になっているんですか?

田中ヤコブ 『にほひがそこに』 NEWFOLK(2025)

「家主っちゅうものが確立されてきた中で、自分はメロディやわかりやすい歌詞といった物質的な面というか、意味性を大事にしてきたと思います。最近、そのことに対して疑問を感じはじめているんです。ただ、意味から逃げて〈アート〉になってしまうことへの嫌悪感というか、恥ずかしさもあって。自分自身、アート的なものがわからない人間なので。ちゃんと味があるもの――カレーやラーメンみたいな芸術が好きなんですね。雰囲気があれば評価されちゃう傾向がある中、正直、そういう〈淡いもの〉へのシンパシーも少なからずあります。なので、自分で〈淡いもの〉を作ったらどうなるんだろう?みたいな作品ですね。

コンセプトとして見つけたのは〈におい〉です。街を歩いていて、〈幼稚園の時に嗅いだにおいがする〉とか、子どもの頃に嗅いだことがあるにおいに出会って記憶がフラッシュバックすることってありますよね。これはプルースト効果というものだそうですが。実体があるかどうかはわからない、目に見えないけど確実にあったと言えるものを纏っている――そういうテーマです。なので、家主の作品とは音像とかがだいぶ変わっていると思います」