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音楽理論はいらない

――なるほど。話は変わりますが、学生の頃は文系・理系のどちらでしたか?

「ゴリゴリの文系です。理系がダメすぎて、もう割り算の時点でできなかったですね」

――そうなんですね。僕がバンドをやっていた頃にぶつかった壁は、〈数学〉だったんです。音楽は文系のセンスでやれると思ったのに、実際に曲を作ったりアレンジしたりする時、〈これ、めちゃくちゃ数学じゃん。こんなはずじゃなかったのに……〉と思ったんですよ。ヤコブさんは、音楽の数学的な面はクリアできましたか?

「自分は文系の努力をして理系を克服したかもしれません。弾きまくって聴きまくって、欲しい知識や表現のために必要なものは練習と音感で身につけました。

音楽理論についてあとから説明されると、大体は感覚的に体得しているものだったりします。共通言語として知っておいた方がいいとは思うのですが、基本的には自分一人で作っているので特に必要ありません。理論云々と言う人もいますが、そういう類の人が自分よりいい作品を作っていたことも自分より上手かったこともないので、まだ〈理論はいらない〉って気持ちですね」

――格闘家とかの修行に近いですね(笑)。

「実際、高校3年間は修行のような期間でした。家庭環境的に音楽に没頭せざるをえない状況があったりして、その頃に弾きまくっていたので、耳コピはめちゃくちゃ早いです。音源を聴けば、どのポジションで弾いているかとかは大体わかります」

――そういう意味では非常にストイックなミュージシャンですよ。

「どうなんでしょう……。ストイックだけどオリンピックにはいけなかった、って感じですかね。老害です」

――ヤコブさんは、単なる音楽オタクだと誤解されている面があると思うんです。それはちょっと違っていて、ストイックに一つのことに固執して何べんでも繰り返すことを苦と思わないタイプの音楽家なんですね。

「そういうタイプではあるかもしれません。ギターソロを何十回も弾いたりしますし」

 

名のあるミュージシャンほど音楽好きでピュア

――スピッツやカーネーションといったベテランバンドと交流する機会が増えたと思いますが、その中で学んだことや気づいたことはありましたか?

「音楽をガチでやっている人は、それこそオタクっぽくて話しやすいと思いました。(草野)マサムネさんと話した時も、すぐチープ・トリックの話になりましたし(笑)。自分は音楽が好きなゆえに孤立してきましたが、みんなそんな感じというか。

偉ぶっている人はあまりいなくて、音楽を本当に好きな人同士だからわかる会話があると思いました。同世代のクリエイター崩れみたいな人は自分と目線が違うなと感じることが多いですし、むしろ名のあるミュージシャンの方が話しやすく感じました」

――有名な方ほどピュアだったりしますよね。

「音楽に関してものすごくピュアですね。ちょうど先日、元the pillowsの山中さわおさんとご飯に行ったんですけど、ものすごくピュアでした」

――ところで、カーネーションの直枝政広さんが、「ヘビーリスナーであるがゆえに色々なものを聴きすぎて訳がわからなくなって、音楽を聴くのをやめた時期がある」と言っていました。インプットをしすぎて混乱することはありますか?

「うーん、そういうことはあまりないですね。インプットしすぎると、逆にアニソンのようなすごく俗っぽいものを聴きたくなる時はあります。打ち込みは嫌いだと言いつつ、Perfumeやハロプロ、電波ソングのような音をむしゃくしゃした時に聴きたくなることはとてもありますね」

――ポップなものに対する嫌悪感はないんですよね。

「ないですね。また親父の話になりますが、親父はマニアックなものを聴きつつ、あやや(松浦亜弥)が好きで〈曲がすごい〉と言ったりしていたので」

――オープンマインドですね。お父さんに取材してみたいです(笑)。

「ダメ出しをしてくるのは親父なんです。〈この曲の2番のAメロは半分でよかったんじゃないか〉とか言ってくるんですよ。ちっちゃい頃から親父と一緒に音楽を聴いていると、〈俺だったらこうしていた〉とよく言っていて、そういうのがこびりついています」