
©K.Nakamura
クラシック音楽における〈カノン(正典)〉を深く掘り下げるシリーズ
ラスト・シーズンとなるジョナサン・ノットのブルックナー8番、マーラー9番は必聴!
ミューザ川崎シンフォニーホールと東京交響楽団の主催による〈名曲全集〉シリーズ。4月に始まり、翌2月まで計10回、休日の14時という足を運びやすい時間帯に行われる人気のシリーズ。ポピュラーな曲ばかりならぶいわゆる名曲コンサートとはちがい、〈名曲全集〉は、定期演奏会とも連動して、クラシック音楽における〈カノン(正典)〉を深く掘り下げるシリーズといえよう。
2025/26年は、モーツァルトから武満まで幅広い時代の曲が楽しめる。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲やドヴォルザークの“新世界”といっただれもが耳にしたことのある人気作から、いちどは聴いてみたいスメタナの“我が祖国”全曲やマーラーの交響曲第9番など、ディープな名作まで色とりどりだ。指揮者も内外の実力者が並ぶ。10回シリーズの会員になるのもよし、前期・後期の5公演ずつ聴いてもよし、興味をもった演目を1回券で聴くのももちろんよい。25歳以下は、当日券がある場合、1000円で聴くことができる。
まず4月公演は、東京交響楽団の音楽監督としてのラスト・シーズンとなるジョナサン・ノットが登場し、ブルックナーの交響曲のなかでもとりわけ壮大で崇高な第8番を聴かせる。ノットは東響とブルックナーのほとんどの交響曲を取り上げてきたが、それは「ブルックナーにふさわしい深みのあるサウンドが可能なオーケストラだから」と話す。長年コンビとして極めてきたブルックナーの旅を総括する演奏となるだろう。なお、今回は初稿版で演奏するとのこと。
5月は、下野竜也がスメタナの“我が祖国”全曲を指揮。どうしても“モルダウ”が単独で演奏されることが多いが、“ボヘミアの森と草原から”や“ターボル”など、チェコの自然や伝説、歴史を祖国愛たっぷりに描いた6つのタブローだ。昨年は兵庫のPACオーケストラや札幌交響楽団とも本作を演奏するなど、曲に強い思い入れがある下野が、丹念な棒で作品の細部まで表現してくれることだろう。
6月は、2年前に初めて東響に客演し、相性の良さを感じさせたミケーレ・マリオッティが登場する。現在、ローマ歌劇場の音楽監督をつとめるオペラのマエストロが、チャイコフスキーとプロコフィエフのそれぞれの「ロメオとジュリエット」をどのように物語るだろうか。また日本音楽財団より名器ストラディヴァリウス〈エングルマン〉を貸与されているカナダ生まれの若手ヴァイオリニスト、ティモシー・チューイの弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲にも期待。
7月は、桂冠指揮者のユベール・スダーンがフレンチ・プログラムを振る。ベルリオーズ、ビゼー、ラヴェルと、3人のオーケストレーションの名手の色鮮やかな作品が並ぶ。ラヴェルのピアノ協奏曲のソロは、表現に深みが増す上原彩子。ビゼーの“アルルの女”組曲では、南フランスの村の明るい陽光と情景を感じさせてくれるだろう。
前期の最後は、沼尻竜典指揮のオール・ドヴォルザーク。チェロ界の若きスター、上野通明が憂愁とドラマに満ちたチェロ協奏曲をどのように歌い上げるだろうか。そしてドヴォルザークが異国の地で故郷への思いを寄せながら書いた不朽の名作“新世界”。作曲時期の近いこの二作を一緒に聴くことで新たな気づきがあるにちがいない。
名曲全集の後期は、音楽史上もっとも革新的な作曲家二人のペアリングで始まる。ベートーヴェンの“田園”とストラヴィンスキーの“春の祭典”という二つのエポックメイキングな作品に、明晰な統率力で知られるフィンランドの女性指揮者スザンナ・マルッキが臨む。
11月は、再びノットが登場。武満徹の笙とオーケストラのための“セレモニアル”(独奏:宮田まゆみ)とマーラーの交響曲第9番のプログラムは、彼が2014年の就任演奏会で演奏したのと同じ演目。すなわち、旅の到達点であると同時に出発点であるというノット監督の思いが込められている。このコンビの成果を振り返るのにこれ以上ふさわしい曲目はないといえよう。
12月と1月は、ベートーヴェンが続く。12月は年末恒例の“第九”を、第一線で活躍するソリストたちと東響コーラスとお届けする。そして、1月はピアノ協奏曲第5番“皇帝”と交響曲第7番のプログラムで新年を華やかに彩る。ピアノ独奏の清水和音と指揮の大植英次が堂々とした雄大なベートーヴェン像を描く。
そしてシーズン最終回は、川瀬賢太郎と牛田智大というフレッシュな顔ぶれで、モーツァルトとメンデルスゾーンを組み合わせた極上のプログラム。ピアノ協奏曲“戴冠式”では牛田の研ぎ澄まされたピアニズムに注目、そして名古屋フィルの音楽監督として世代をリードする川瀬が快活なタクトでメンデルスゾーンの交響曲“イタリア”の魅力を存分に引き出すことだろう。
LIVE INFORMATION
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第206回
2025年4月6日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団 音楽監督)
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ブルックナー:交響曲 第8番 ハ短調 WAB108
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第207回
2025年5月17日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:下野竜也
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
スメタナ:連作交響詩「我が祖国」
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第208回
2025年6月14日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:ミケーレ・マリオッティ
ヴァイオリン:ティモシー・チューイ
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
チャイコフスキー:幻想的序曲「ロメオとジュリエット」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
プロコフィエフ:バレエ組曲「ロメオとジュリエット」から
モンタギュー家とキャピュレット家
少女ジュリエット
マドリガル
メヌエット
仮面
ロメオとジュリエット
タイボルトの死
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第209回
2025年7月5日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:ユベール・スダーン(東京交響楽団 桂冠指揮者)
ピアノ:上原彩子
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」op.9
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
ビゼー:「アルルの女」第1組曲、第2組曲
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第210回
2025年9月6日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:沼尻竜典
チェロ:上野通明
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 op.104
ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 op.95「新世界より」
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第211回
2025年10月12日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:スザンナ・マルッキ
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 op. 68「田園」
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第212回
2025年11月23日(日・祝)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団 音楽監督)
笙:宮田まゆみ
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
武満徹:セレモニアル
マーラー:交響曲 第9番 ニ長調
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第213回
2025年12月6日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:下野竜也
ソプラノ:三宅理恵
アルト:花房英里子
テノール:山本耕平
バス:妻屋秀和
合唱:東響コーラス
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 op.125 「合唱付き」
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第214回
2026年1月17日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:大植英次
ピアノ:清水和音
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 op.73 「皇帝」
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 op.92
ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第215回
2026年2月1日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:14:00
■出演
指揮:川瀬賢太郎
ピアノ:牛田智大
管弦楽:東京交響楽団
■曲目
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537「戴冠式」
メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 op.90 「イタリア」
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