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2人の世界的ギタリスト、“ゴルトベルク変奏曲”で魅せた究極の〈音の同化〉

 〈芸術の国〉フランスに生まれ、〈情熱の国〉スペインの血統を持つ若手ギタリストのティボー・ガルシアが、同じギタリストのアントワン・モリニエールと新作アルバム『Goldberg Variations / バッハ:2台ギターによるゴルトベルク変奏曲』を発表した。ピアノ作品である“ゴルトベルク”を2本のギターで演奏し、究極の〈音の同化〉を実現した。

THIBAUT GARCIA, ANTOINE MORINIÈRE 『バッハ:2台ギターによるゴルトベルク変奏曲』 ワーナー(2025)

 “ゴルトベルク変奏曲”といえば、バッハのピアノ作品の中でも最も有名な名曲中の名曲だ。「今回のアルバムの構想は13年前に生まれました。モリニエールは学生時代からの親友で、同じ年にパリ国立高等音楽院に入学しました。18歳か19歳の時、すでに“ゴルトベルク”を弾いてみたいと話していました。“ゴルトベルク”といえばグレン・グールド。この作品を弾くことは長年の夢でした」

 学校を卒業後、2人は瞬く間に世界トップクラスのギタリストへと成長したが、ともに“ゴルトベルク”を2人で弾くという夢は捨てていなかった。「5年前、僕たちはアーティスティックな立場になった身として自問自答し、ギター2本でできる鍵盤1台分の音楽は何か考えました。そこで出てきたのがゴルトベルク変奏曲です」

 2台ギターのための編曲作業は2人で完全分担し、1年かけて取り組んだ。「ゴルトベルクは3声、4声の構造なので、パズルを作るような形で実践的に編曲しました。聴く側がメロディーに聞こえるよう、小節1個1個をチェックしました」

 今作で2人が演奏しているギターは、同じ1本の木からつくられた。「2人の音を同化する必要があったためです。2本のギターが1つの楽器のように聞こえるよう、〈双子〉のギターをつくりました」

 フランスの修道院での〈修行〉も体験した。「バッハを弾くには宗教的な要素が必須です。作曲家の世界観を隅々まで探求して表現につなげたいという思いでした」

 音楽のために徹底的に何かをすることで、音楽の本質に到達できるようになった。「もし10年前に“ゴルトベルク”をやっていたら、上っ面ばかりで苦労していたと思います。以前パラグアイの国民的作曲家、バリオスの曲を収録したアルバムを作ったとき、手に入る限りのバリオスに関する本を読んで実際にパラグアイに行き、現地の楽器も試しました」

 バッハと、モリニエールと、そして自分自身と深く向き合って完成したギター2本版の“ゴルトベルク”。ティボー・ガルシアの新たな代表作になるに違いない。