1975年に響いたロックンロールの未来――最高傑作と称される『Born To Run』の50周年記念盤が登場。明日の見えない現在においてなお、仲間たちと走るボスの姿は色褪せることなく、生き抜くための道標になる!!
スプリングスティーン三昧の一年
2025年はまさに〈ブルース・スプリングスティーンの年〉だった。6月には未発表アルバム7作を収録したボックスセット『Tracks II: The Lost Albums』をリリース。10月には82年作に未発表音源などを大量に追加した拡張版『Nebraska ’82: Expanded Edition』を発表。さらに11月には、その『Nebraska』の制作背景を描いた伝記映画「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」が日本公開。同作のサントラもリリースされた。そしてスプリングスティーン本人も5月からワールド・ツアーを開始。初日の英国公演でトランプ政権を痛烈に批判して話題になったことも忘れ難い。
そんな一年において真打というべき作品が、12月24日にリリースされた『Born To Run (50th Anniversary Japan Edition)』だ。75年に発表されたサード・アルバム『Born To Run』の50周年を記念した日本独自企画盤で、世界初のSACDハイブリッド化を実現。さらに同年のライヴ音源を収録した3枚組である。このライヴが実に素晴らしい。12月12日のロングアイランド大学での公演がフルで収められているのだが、音質も良好で、歌も演奏もすこぶるノッている。それが如実に表れたのが、当初セットリストになかったアニマルズのカヴァー“It’s My Life”。急遽その場で披露したためメンバーたちは序盤こそ手探り気味だが、次第に一体感を増して力強いグルーヴを形成していく様に、つい胸が熱くなる。
また、『Born To Run』から披露された6曲はもちろん、過去5回しか演奏されていないシュレルズの“Sha-La-La”、“Devil With The Blue Dress On”といった先人たちの名曲をメドレーにした“Detroit Medley”など、温故知新を地で行くカヴァーも聴きどころだ。
最高傑作とも称される『Born To Run』だが、そのスタートは決して順風満帆ではなかった。前2作が売上の面で振るわず、レーベルから不信を買ったことに加え、バックを務めるEストリート・バンドから制作直前に2名が脱退。急遽、新メンバーとしてロイ・ビタンとマックス・ワインバーグを加えた。背水の陣で臨んだスプリングスティーンはジョン・ランダウに助力を請い、共同プロデューサーとして迎え入れる。彼は前年にスプリングスティーンのライヴを体験した際、〈僕はロックンロールの未来を見た。その名はブルース・スプリングスティーン〉という有名な一節を執筆した著名な評論家でもあり、これ以降、長きに渡ってスプリングスティーンの盟友になった。そして、難産の末に生まれた本作は、全米3位まで上昇する大ヒットを記録。現在でもなおロック史上に残る名盤として語り継がれている。
