©Peter Anderson

スタイル・カウンシルの名盤『Café Bleu』が豪華な6枚組で再臨!

THE STYLE COUNCIL 『Café Bleu (Super Deluxe Expanded Edition)』 Polydor/ユニバーサル(2026)

 自身のルーツを探求するカヴァー集『Find El Dorado』(2025年)に至るまで、変わり続ける音楽性を自身のキャリアによって証明してきたポール・ウェラー。そのチェンジング・マンが見せた最初にして最大の変化こそ、絶頂期に決断したザ・ジャムの解散と、革新的なポップ・グループとなるスタイル・カウンシル(以下TSC)の結成だろう。それは単なるバンドの組み直しではなく、自身の考えるモダンなスタイルの理想を追求するための意思表明だった。そんなTSCの初期の軌跡を確認できるのが、このたびコンパイルされた『Café Bleu (Super Deluxe Expanded Edition)』だ。これは傑作の誉れ高い84年のファースト・アルバム『Café Bleu』を6CDに拡張したスペシャル・エディションである。そこに網羅されたTSC初期の歩みを改めて辿ってみよう。

 

ジャム末期からの流れ

 当時リアルタイムでジャムの解散やTSC結成を受け止めた人の衝撃は想像もつかないが、後年の目線から眺めれば緩やかに変化の予兆がセットされていたこともよくわかる。そのひとつがポリドールの社内プロデューサー、ピーター・ウィルソンの存在だ。彼は81年の“Funeral Pyre”からジャムの共同プロデュースに加わり、明確にソウル志向を強めたNo.1シングル“Town Called Malice”や最後のアルバム『The Gift』(82年)ではオルガンの演奏も担当している。その頃からウェラーはウィルソンとデモを作るようになったそうで、鍵盤奏者と組むアイデアは早くからあったのかもしれない。82年11月に出たジャムのラスト・シングル“Beat Surrender”ではウィルソンがピアノを弾き、ウェラーの見い出した女性シンガーのトレイシー・ヤングがヴォーカルで参加。翌年にTSCで世に出る“A Solid Bond In Your Heart”のジャム時代のデモが残されているように、舞台裏での流れは実にシームレスだったのだ。83年にTSCは晴れやかなソウル・ポップの“Speak Like A Child”(全英4位)でデビューを果たすが、初期のTSCはそのままウィルソンが共同プロデュースを続投している。

 ウェラーの新しい相棒となった元デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ/マートン・パーカスのミック・タルボットは、マートン・ミックの名でジャム作品に参加した経験もあった鍵盤奏者。彼を選んだ理由について当時のウェラーは〈ロック神話とロック文化に対する嫌悪感を共有している〉と語っており、そのあたりはジャムへの反動から出た憎まれ口だとしても、モッドであり続けるためにロック・バンドの形態を離れた彼にとって、制約なくアイデアを追求するには打ってつけの座組だったのだろう。先述したデビュー・シングルのB面曲“Party Chambers”はジャム後期のノリにタルボットのシンセを合わせたような雰囲気だ。

 続く83年5月のセカンド・シングル“Money-Go-Round”(全英11位)は、DC・リーのコーラスも効いた小気味良いファンク・チューン。そのB面にはウェラー単独歌唱によるアコースティックな“Headstart For Happiness(Early Version)”と並んでオルガン主導のインスト“Mick’s Up”も収められていた。それらの楽曲ではオレンジ・ジュースのジーク・マニーカがドラムを叩き、曲ごとにホーン奏者も招いていたように、メンバーシップに縛られない緩やかなコレクティヴの形成も初期TSCの特徴だ。8月の『À Paris EP』からのリード曲“Long Hot Summer”(全英3位)は洗練されたアダルトなスロウで、後に正式メンバーとなるドラマーのスティーヴ・ホワイトが初参加。なお、本国UK以外では、それらシングル群をまとめたミニ・アルバム『Introducing The Style Council』が登場している。そこから83年11月のポップな“A Solid Bond In Your Heart”(全英11位)を経て、84年2月の代表曲“My Ever Changing Moods”は全英5位のヒットとなったほか、ウェラーのキャリアで初めて全米29位まで上昇した。今回のスペシャル・エディションでは、これらアルバム前段階の楽曲が〈Introducing Expanded〉としてDisc-1にまとめられている。

 

大胆すぎる構成

 そして、Disc-2が『Café Bleu』の本編だ。ソウル/ファンクへの直情的な憧れはデビュー年に消化できたのか、アルバムでのスタイルはまた別方向に広がっている。とにかく冒頭からの流れはいま聴いても興味深く、オープニングはタルボット作のピアノ曲“Mick’s Blessings”で、それに続くのはウェラー弾き語りによるボサノヴァ風の“The Whole Point Of No Return”。そこからピアノとホーンを主軸にしたラテン・ジャズ調の“Me Ship Came In!”、ウェラーのジャズ・ギター・ソロも聴ける“Blue Café”とインストが続き、さらに『À Paris EP』版ではウェラーが歌っていた“The Paris Match”はエヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンとベン・ワットに主役を委ねたヴァージョンで収録(先述の“The Whole Point Of No Return”はワットが歌う想定だった)。“My Ever Changing Moods”もシングルとは違ってピアノ伴奏のみの別テイクとなる。そして物騒なタイトルの“Dropping Bombs On The Whitehouse”はこれまたインストでホワイトのドラムが冴えるハード・バップ・ナンバー。以上のA面では、ウェラーがフロントから一歩引いてジャズ主体の洗練と成熟に腐心した印象だ。

 それに対してB面は、ディジー・ハイトなるMCが主役のプリミティヴなラップ・チューン“A Gospel”(プログラミングはピート・ウィルソンが担当)、ほぼワンフレーズで押す性急なシンセ・ファンク“Strength Of Your Nature”、と躍動感を増して迫る。後者からはライヴでカヴァーしていたファンカデリックへの憧れも顕著だ。その後はブルーアイド・ソウル的な風情のスロウ“You’re The Best Thing”、軽やかなカントリー・ソウル調の“Here’s One That Got Away”、タルボット〜リーと歌い繋ぎながらフル・バンドで再演した“Headstart For Happiness”が続き、ラストはMG’sっぽいインストの“Council Meetin’”。スタイルの振り幅もさることながら、全13曲のうちインストが5曲、ウェラーの歌唱は6曲のみという構成は、改めて大胆というほかない。なお、Disc-3には、アルバムから『Groovin’ EP』としてシングル・カットされた“You’re The Best Thing”(全英5位)の複数ヴァージョンとカップリングの“The Big Boss Groove”などがまとめられている。

 

©Peter Anderson

実を結んだ奮闘の記録

 そして目玉となるのが、初出のデモ音源や別テイク、未発表曲を18曲も詰め込んだDisc-4だろう。ジャム解散前にあたる82年8月録音の“Long Hot Summer (Pre TSC Demo)”をはじめ、ライヴ音源でのみ残されていた陽気な佳曲“Up For Grabs”のデモ、トレイシー・ソーンが歌う“The Paris Match”のロング・ヴァージョン、トレイシー(・ヤング)に提供した“Boy Hairdresser”のウェラー版……と秘蔵音源だらけで、それ以外にもアルバム各曲のデモや別ヴァージョンが満載されている。

 さらにライヴ音源を集めたDisc-5〜6もエキサイティングで、83年の5〜12月にBBCで録音/放送された計13曲に加え、84年3月14日のロンドン公演から12曲、同10日のチッペンハム公演から12曲が収録。先述の“Up For Grabs”をはじめ、ジミー・ヤングの“Times Are Tight”、インプレッションズ“Meeting Over Yonder”、チェアメン・オブ・ザ・ボード“Hanging On To A Memory”といったライヴ音源のみのカヴァー群も楽しく、コーラスやホーン隊も交えたバンドならではの賑やかさや爽快な勢いが感じられる。

 そのようにして当時のウェラーが自由に創作を進めた『Café Bleu』は見事に全英2位という成功を収め、TSCはUSツアーも敢行したほか、来日公演でも人気を博した。そこから85年の次作『Our Favourite Shop』に至るまでの時期が結果的には彼らのピークとなり、やがてスタイルを試行錯誤した末に89年の解散を迎えるわけだが、それゆえに若きアイデアが実を結んだ『Café Bleu』の価値はよりいっそう高まることになる。理想を抱いたウェラーの創造性が何度目かの頂点に達した時期の奮闘の記録を改めて掘り下げてみてほしい。

関連盤を紹介。
左から、ポール・ウェラーの2025年作『Find El Dorado』(Parlophone)、ジャムのベスト盤『Snap!』、スタイル・カウンシルのベスト盤『Long Hot Summers: The Story of the Style Council』(共にPolydor)、チェアメン・オブ・ザ・ボードの70年作『In Session』(Invictus)、インプレッションズのベスト盤『Definitive Impressions』(Kent)

BANGS & TALBOT 『Smokin’ Aces』 Acid Jazz(2026)

ウェラーの初作『Paul Weller』にも参加したアシッド・ジャズ人脈のクリス・バングスとタルボットが再合体した新作。グルーヴィーな鍵盤をキーにモダンなサウンドを聴かせる。モータウンのレア曲“T.L.C. Tender Lovin’ Care”のカヴァーも収録。

 

初期スタイル・カウンシルと『Café Bleu』の時代から繋がる縦横の作品たち

TRACIE 『Souls On Fire: The Recordings 1983-1986』 Cherry Red(2023)

ジャム“Beat Surrender”や“Speak Like A Child”で歌ったダービー出身のシンガー。レスポンドからの初作『Far From The Hurting Kind』(84年)と当時お蔵入りした85〜86年録音の『No Smoke Without Fire』はこちらにコンパイルされている。

 

ORANGE JUICE 『Rip It Up』 Polydor(1982)

ジャム〜TSCのレーベルメイトでもあったスコットランドのポスト・パンク・バンド。メンバーのジーク・マニーカはTSCの83年のシングル群でドラムを叩いている。解散後のジークはソロ作を残し、92年にウェラーのライヴ音源にも参加していた。

 

EVERYTHING BUT THE GIRL 『The Best Of Everything But The Girl』 Chrysalis(2025)

40年以上にわたって折々のスタイルで名品を聴かせるコンビ。チェリー・レッドでのデビュー・シングル“Night And Day”(82年)を気に入ったウェラーに誘われ、参加したTSCの“The Paris Match”でも主役として存在感を残している。

 

ANIMAL NIGHTLIFE 『Shangri-La』 Island(1985)

TSCのライヴやレコーディングで常連だったサックス奏者、ビリー・チャップマンが在籍していたロンドンのバンド(ディーC・リーも参加)。ジャズやファンクに根差したスタイリッシュなサウンドは、当時の横の繋がりを窺わせる。

 

THE BLOW MONKEYS 『Animal Magic』 RCA/BMG(1986)

TSC解散後のウェラーやタルボット、リーと縁を深めたドクター・ロバートが率いるバンド。こちらは英米で大ヒットした代表曲“Digging Your Scene”を含むソフィスティ・ポップの佳作で、TSCを離れたピーター・ウィルソンがプロデュースしていた。

 

FICTION FACTORY 『Throw The Warped Wheel Out』 Columbia(1984)

こちらもピーター・ウィルソンがTSCと同時期に手掛けていた名仕事で、スコットランドのニューウェイヴ・バンドによる初作。全英6位を記録した“(Feels Like) Heaven”を筆頭に、後にソフィスティ・ポップと括られるスタイルの音像が楽しめる。

 

DEE C. LEE 『Shrine』 Columbia(1986)

セントラル・ラインやワム!での活動を経て『Café Bleu』期からTSCのレギュラー参加者となり、ウェラーと結婚(後に離婚)して最終的には正式メンバーにもなったヴォーカリスト。この初ソロ作にはウェラーやカメール・ハインズが参加していた。

 

フリッパーズ・ギター 『CAMERA TALK』 ポリスター/felicity(1990)

スタイルを審議することは〈渋谷系〉の姿勢に直結するわけで、その影響は“バスルームで髪を切る100の方法”などにも明らか。90年代に小山田圭吾の主宰したTRATTORIAはクエスチョンズのリイシューやタルボット&ホワイトを送り出してもいる。

 

THE BRAND NEW HEAVIES 『The Brand New Heavies』 Acid Jazz(1992)

TSCのライヴ・メンバーであり、“The Big Boss Groove”のバックでも歌っていたジェイ・ウィリアムソンは、ジェイ・エラ・ルース名義でTBNHの初代ヴォーカルを務めてもいた。オリジナルの“Dream Come True”で歌っているのは彼女!

 

paris match 『Our Favourite Pop』 ビクター(2007)

グループ名からしてTSCへの敬意も窺わせる日本のユニットが、『Our Favourite Shop』のオマージュも絡めて発表したカヴァー集。ブロウ・モンキーズやTBNH、オマー、スライらの楽曲を取り上げた幅の取り方やセンスもTSC的だ。

 

PAUL WELLER, JULES BUCKLEY, BBC SYMPHONY ORCHESTRA 『An Orchestrated Songbook』 Polydor/ユニバーサル(2021)

全キャリアから選んだ曲をジュールス・バックリーの指揮するBBC交響楽団と披露したライヴ盤。TSC曲では“My Ever Changing Moods”と“You’re The Best Thing”を歌っていて、『Café Bleu』の重要性も光る。後者にはボーイ・ジョージ参加。