ルーツへの敬意を払いながら己の可能性を広げてきたモッドファーザーの誠実な深化――いつにも増してソウルフルな輝きを放つキャリア通算28枚目のアルバムがついに到着!
時間をかけて曲に向き合った。
シンプル極まりない表題を冠された『66』は、ルート66などにかかっているわけでもなく、リリース翌日に迎えたポール・ウェラーの年齢そのものである。58年5月25日生まれ。若気と苛立ちがモッズスーツを着て叫ぶかのようだったジャムとしてのデビューから、20代の大半をスタイル・カウンシルで躍動し、30代半ばでソロに転じてモッドファーザーとしての地位を確立して……という毎度の紹介はさておき。パンデミックの只中にある2020年に届いた『On Sunset』がバンド時代も含めてキャリア通算7枚目の全英チャートNo.1を獲得し、翌2021年にリリースした『Fat Pop (Volume 1)』も続けて通算8枚目の全英1位をマークする――アルバム2枚が連続で全英1位を獲得するのは彼にとっても初の出来事だった――という、ソロ・キャリアのなかでも何度目かの好調期とでも呼ぶべきここ数年の活躍ぶりを考えれば、それが60代の大ヴェテランの動きだったことに改めて驚かされるではないか。
その『On Sunset』はコロナ禍の前に完成するもツアーなどが行えなかった作品で、『Fat Pop (Volume 1)』はそうした自粛期間を活かして取り組んだアルバムであった。以降はジュールズ・バックリーとBBC交響楽団と共演したライヴ・アルバム『An Orchestrated Songbook』(2021年5月の録音)を発表し、2022年にはB面やレア曲などを集めた3枚組のコンピレーション『Will Of The People』をリリース。そこではリチャード・フィアレスやヤング・ファーザーズ、ストレートフェイス、ストーン・ファウンデーションとのコラボレーションを堪能することもできた。
そして今年の1~2月には6年ぶりとなる待望の来日公演を5都市6公演で開催し、来日記念盤として 『Fat Pop Extra』が日本でのみリリースされているのだが、そんな来日のタイミングに前後して発表されたのが、66歳の誕生日前日に次のスタジオ・アルバム『66』をリリースするというニュースだったのだ。
アルバムのレコーディングはサリー州にあるウェラー所有のブラック・バーン・スタジオで2021年から2024年にかけて進められ、およそ3年を要したというから、特殊な状況下で制作された前作『Fat Pop (Volume 1)』とは真逆のテンポ感で納得いくまでじっくり作り込む進行だったと言えよう。
演奏陣としてはオーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドック(ギター)や元ストライプスのジョシュ・マクローリー(ギター)、ムーンズのアンディ・クロフツ(ベース)とベン・ゴードリア(ドラムス)、スティーヴ・ピルグリムといった馴染みの顔ぶれが名を連ね、さらにはスポットでブロウ・モンキーズのドクター・ロバートやヴィブラフォン奏者のマックス・ビーズリーといった名前もラインナップ。ストリングス・アレンジはハンナ・ピールが担い、他にはサッグス(マッドネス)やセイ・シー・シー、シンガー・デビューを果たした愛娘リア・ウェラーの出番もあり、さらにはノエル・ギャラガーとボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)はソングライティングに貢献……という豪華にして無理のない多様な人脈との手合わせが含まれている。本人の弁はこうだ。
「今作では少なくとも20曲の中から選ぶことができた。たっぷり時間をかけて曲に向き合い、どれをアルバムに入れるべきか、曲が教えてくれたのはありがたいことだったよ」。