
ポール・ウェラーのルーツを辿る、黄金郷への美しくディープな旅路
ジャムでのデビューからもうすぐ50年、ソロで最初の全英No. 1に輝いた名作『Stanley Road』からはちょうど30年。その後も高い水準の作品を精力的に発表し続け、昨年の『66』に至るまで批評的にも商業的にも成功を収めているUKシーンのアイコン、ポール・ウェラー。もう何も証明する必要のない境地にいるモッドファーザーだが、最近もビューティ・ジャンクヤーズやオマーとコラボするなど積極的な活動を見せている彼が、このたび2015〜19年に契約していたパーロフォンに復帰してニュー・アルバム『Find El Dorado』を完成した。レーベル移籍の事情はさておき、今回のもっとも重要なポイントは、彼自身が愛聴する楽曲を敬意を込めて取り上げたカヴァー・アルバムだということである。
ウェラーはもともとバンド時代からいくつかの名カヴァーを通じて自身のルーツや音楽嗜好を垣間見せてきた人だし、自身の影響源となる楽曲を『Under The Influence』(2003年)にまとめたり、カヴァー・アルバムの形では過去に『Studio 150』(2004年)を残してもいる。そういえば、先日はソウルの愛聴曲をまとめた『Paul Weller Presents: That Sweet Sweet Music』も出していたから、『66』からの流れも踏まえてソウル寄りの内容を予想した人も多いかもしれない。ただ、今回はそれよりもさらに根源的な曲が選ばれているようで、彼の音楽観を形成した重要曲たちが新たな解釈によって並んでいる。
先行シングル“Lawdy Rolla”はフランスの無名リズム&ブルース・バンドであるゲリラズの69年曲を取り上げたもので、同じく先行曲の“Pinball”は、英国で著名な俳優ブライアン・プロザローによる74年のヒット。その振り幅だけでも、ウェラーの意図が単に知られざる楽曲のディグでもなく定番曲の再解釈でもないことは伝わるかもしれない。なお、今回の『Find El Dorado』もまた盟友スティーヴ・クラドック(オーシャン・カラー・シーン)ら身近な顔ぶれを迎え、ウェラー所有のブラック・バーン・スタジオ及びクラドックのクンダリーニ・スタジオでレコーディングされている。
オープニングを飾るのは、フォーク歌手のリッチー・ヘイヴンスがキャリア後期の2002年に発表した“Handouts In The Rain”。これは先述の『Under The Influence』でも選んでいた思い入れ深き名曲で、今回はデクラン・オルークと披露されている。また、83年の映画「The Best Man」のために書かれたイーモン・フリエル“El Dorado”ではノエル・ギャラガーがギターを、キアラン・カーリンがアイリッシュ・フルートを演奏。さらにクリスティ・ムーア“One Last Cold Kiss”(マウンテンがオリジナル)ではアメリア・コバーンを迎え、クライヴ・パーマー(インクレディブル・ストリング・バンド)が書いたハマッシュ・イムラックの71年曲“Clive’s Song”にはなんとロバート・プラントが客演するなど要所のコラボも聴きどころだ。
全体的にフォークやブルースのオリジナルが多く、ウェラーの解釈も端正な歌い口が似合うアコースティックなスタイルが中心。苦味走ったボビー・チャールズの“Small Town Talk”、メロディーが際立つビー・ジーズの“I Started A Joke”、強調されたストリングスが美しいホワイト・プレインズ“When You Are A King”、バンド時代から取り上げていたキンクスのデモ曲を歌った“Nobody’s Fool”など、どれも清々しい円熟味が全開だ。原曲の大半は60年代後半〜70年代初頭に出たウェラー少年の愛聴曲ながら、そこに馴染みのジェイク・フレッチャーが書いてクラドックが制作したPP・アーノルド“Daltry Street”(2019年)が違和感なく並んでいるのも興味深い。そのように自身の源泉から宝物のような楽曲たちを形にしてみせたポール・ウェラー。音楽の黄金郷とは、その人が愛聴してきた経験そのものなのだと改めて実感させられる。
左から、スティーヴ・クラドックの2022年作『A Soundtrack To An Imaginary Movie』(Kundalini)、デクラン・オルークの2021年作『Arrivals』(EastWest)、ロバート・プラント&アリソン・クラウスの2021年作『Raise The Roof』(Rounder)、ノエル・ギャラガーが在籍するオアシスのベスト盤『Time Flies... 1994-2009』(Legacy)、ポール・ウェラーの2024年作『66』(Polydor)、ポール・ウェラーが監修した2025年のコンピ『Paul Weller Presents: That Sweet Sweet Music』(Ace)、ポール・ウェラーが客演したオマーの2025年作『Brighter The Days』(BBE)
『Find El Dorado』収録曲の原曲が聴ける作品を一部紹介。
左から、ボビー・チャールズの72年作『Bobby Charles』(Bearsville)、フライング・ブリトー・ブラザーズの71年作『The Flying Burrito Bros』(A&M)、クリスティ・ムーアの編集盤『The Early Years 1969-1981』(Tara)、ホワイト・プレインズの編集盤『The Deram Records Singles Collection』(7T’s)、ブライアン・プロザローの74年作『Pinball』(Chrysalis)、ビー・ジーズの68年作『Idea』(Polydor)、ラル&マイク・ウォーターソンの72年作『Bright Phoebus』(Trailer/Domino)、PP・アーノルドの2019年作『New Adventures Of... P.P. Arnold』(Ear Music)