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初ソロ作『Paul Weller』から30年、音楽への情熱と探求心がまた新たなモダン・クラシックを生み出した! 音楽への情熱を忘れることなく逞しく前進を続けるモッドファーザーは20年代をどう生き抜く?

時代を超越したイメージ

 2010年代のポール・ウェラーはオリジナル・アルバムを5枚、映画のサウンドトラックを1枚、ライヴ・アルバムを2枚という驚異的なペースで音楽に打ち込んできた。50代から60代へと円熟を迎えた10年間だったが、まるで新人バンドのような精力的な活動ぶりで、オリジナル・アルバムの全英でのチャート・アクションも、5位に甘んじた1枚を除いてすべて1位か2位と77年のデビューから続く支持にも揺るぎはない。ウェラーの創作意欲をそこまで掻き立てるものとは何か? 今年5月に62歳となり、15作目となるアルバム『On Sunset』を完成させたウェラーに聞きづらいことをあえてぶつけてみた。歳を重ねて、音楽を作るうえで残された時間というものを意識しはじめたのではないのか、と。

PAUL WELLER 『On Sunset』 Polydor/ユニバーサル(2020)

 「もちろんそれはあるね。新型コロナウィルスが世界を覆ういま、すごくそのことを意識しているよ。一日一日を有意義に生き、存在していられるようでありたい、と思うようになったんだ。だからこそ過去のこと、将来のことを、あまり考えすぎないようにしたいんだよ。それよりはその日を楽しみたいし、現在に感謝したい。死(mortality)への意識が強くなったぶん、やれるうちは仕事をしていたい、クリエイトしたいという思いが強まったのかな。だって、それができなくなる日はいずれ俺にも訪れるわけだからね(笑)。何より、俺から音楽を取ったら何もないっていうくらい、俺は音楽が好きだ。歳を重ねても、まだこうして音楽を作っていられること、それがいかにありがたいことか、歳を取って、さらにわかるようになったよ。感謝の気持ちが増えたからこそ、できる限り作品を作りたいって思うんだろうな。この世からふっと消えていなくなっちゃう前に(笑)」。

 こうもあっさりと認められてしまうと寂しくもあり、複雑な心境になってしまうが、その衰えるばかりか勢いを増すモチベーションによって新作の充実がもたらされたことを考えると、これからもみずからの頂点をさらに高くしていくことが容易に想像できる。新作はまさに現時点でのピークを刻むものであり、ジャムとスタイル・カウンシルのキャリアを通しても屈指の傑作となった。

 18年発表の前作『True Meanings』はマグネティック・ノースのメンバーであり、エロール・アルカンのビヨンド・ザ・ウィザーズ・スリーヴでも大きな役割を果たしているハンナ・ピールを迎えて、彼女がコンダクトするオーケストラをフィーチャーしたフォーク・ロックを展開。そこでのコンポーザー主導によるバンド・サウンドの刷新は、19年リリースのライヴ盤『Other Aspects: Live At The Royal Festival Hall』をもって完結したが、新作の1曲目を飾る“Mirror Ball”は『True Meanings』が完成するあたりのタイミングで書かれたという。確かにAメロの穏やかなアコースティック・サウンドは『True Meanings』に通じるところがある。しかし、そこから一気にハウスやソウルを取り込んだハイブリッド感のあるバンド・サウンドに雪崩れ込んでいく展開はまったくの新境地だ。オーケストラを導入したスタイルを確立させたと同時に、その応用とも言うべき新たなアプローチにも手を伸ばしていたということになる。

 「この曲はシングルのカップリングか何かとして使うつもりでいたんだ。だけど、曲を聴かせた人たちから口々に、〈それじゃもったいなさすぎる〉と言われてね。俺自身も聴き込んでいくにつれ、〈なるほど、その通りだ〉と思うようになって、次の新しいアルバムの土台となる曲にすることに決めたんだ。どんなアルバムでもそういう曲が1、2曲はあるもので、“Mirror Ball”自体がいくつもの影響やスタイルを1曲の中に含んだ曲になっている。つまり、この曲からいろいろと発展することが示唆されていたんだ。すべてはここから転がりはじめたと言っていいだろう」。

 前作がオーソドックスだとすると、新作はモダンということに尽きる。引き続きハンナをゲストに迎えながら、“Mirror Ball”を端緒にして拡張された現在進行系のロックを提示していく。

 「“Mirror Ball”を書いた時に思い浮かべていたのは、さまざまな時代のいろいろな若者たちのことだった。彼らは、ダンスフロアで映えるようにとお洒落をして、ミラーボールの下では違う自分になろうという心づもりで、お気に入りのナイトクラブの入り口の列に並んでいた。例えばそれは、1920年代のダンスホールかもしれないし、ウィガン・カジノやトゥイスティッド・ウィールかもしれない。サイケデリックなレイヴかもしれないし、あるいはどこかのテクノ・クラブかもしれない。でも、いつであろうとどこであろうと同じことなんだよ。つまり、ダンスフロアにいれば、輝くスターに変われるんだ。俺自身、若い頃からクラブ通いしていた経験からそういった感覚をいまだに覚えているし、大好きな曲を聴けばいまもそういう気分になる。それは音楽が持っている変革の力の、とても美しい、時代を超越したイメージなんだ」。

 

ハートは現在にあり続ける

 先行シングルとなった“Earth Beat”と“Village”はまさにウェラーが語る時代を超越した美しさの例と言っていいだろう。米国出身で10代のR&Bシンガーのコールトレーンと、ボン・イヴェールのライヴにも参加しているインディー・フォーク・バンドのステーヴスを迎えて2020年のモッド・サウンドを提示してみせた前者と、前作のオーケストレーションを見事に昇華させた後者の2曲はまさにアルバムのハイライトとなる楽曲であり、“Mirror Ball”から派生した煌めきを放っている。そのたゆまぬ進化と深化を支えるのはオーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックを筆頭にアンディ・クロフツ、ベン・ゴードリエらお馴染みのバンド・メンバーたち。さらに元ストライプスのジョシュ・マクローリー、ル・シュペールオマールのジュリー・グロに加えて、ミック・タルボットとジャム最初期のメンバーであるスティーヴ・ブルックスも参加している。気心の知れた盟友であるミックやスティーヴと演奏した時はさまざまな思いが交錯したのではないだろうか。

 「いや、それはまったくない。その二人と一緒に演奏するとき、俺はその瞬間の二人と何かをしてるだけであって、過去のことは考えてない。二人にしても同じだと思う。ミュージシャンというのは演奏ができて続けられている限り、ハートは現在にあり続けるんだ。過去のことを考えていられるほど時間は有り余ってないからね。現在のことで精一杯。だからこそ、いまに存在してられるわけなんだ。ハモンド・オルガンはアンディやチャールズ・リースも弾くことができる。でも、ミック・タルボットだったんだ。彼のサウンド、彼のスタイル。それだけで理由としては十分じゃないかい?」。

 音楽と向き合う時間はもはや無限ではない。だからこそ過去を振り返ることもなく、まだ見ぬ未来へ思いを馳せることもない。ただひたすら目の前にある音楽と真剣に対峙するスタイルは、“In The City”から変わることはない。キャリア43年目に完成させた『On Sunset』は人生のすべてを音楽に捧げ続ける男の最新の傑作であり、通過点でもある。

 「音楽が持つパワーは人の心を高めたり、落ち着かせたり、もしくは何かを考えさせたり……。音楽にはいくつもの力があり、受け止め方も人によってさまざまだ。それを信じる気持ちがこの新作と現在の状況において、これまで以上に強まった気がするね。来年には日本に行ってライヴができることを、みんなに会えることを楽しみにしている。それまで元気で、無事でいてくれることを祈っているよ」。

 

関連盤を紹介。

 

『On Sunset』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。

 

新時代が来る前に……2010年代のポール・ウェラー

PAUL WELLER 『Wake Up The Nation』 Island(2010)

2010年代最初のアルバムとなったソロでの通算10作目。前作『22 Dreams』(08年)の好評を受けてかテンション高めなロックンロールが多く、元ジャムのブルース・フォクストンが28年ぶりに駆けつけたほか、マイブラのケヴィン・シールズなどゲスト陣も華やか。マーキュリー賞にノミネートもされた。

 

引き続きサイモン・ダインがプロデュースにあたった11作目。ノエル・ギャラガーとグレアム・コクソンが演奏で参加し、元ストーン・ローゼズのアジズ・イブラヒムも演奏と曲作りに関与。洗練された大人らしい若々しさをスマートに発揮し、いまのところ全英1位を獲得した最後のアルバムでもある。

 

PAUL WELLER 『Saturns Pattern』 Parlophone/ワーナー(2015)

前年のベストで区切りを付けてのパーロフォン移籍作。00年代前半に組んだジャン“スタン”カイバートをプロデュースに再起用して気分も一新。FSOL共作のサイケな幕開けから野心的だ。ストライプスのジョシュ・マクローリーが初参加し、スティーヴ・ブルックス(元ジャム)の参加も。

 

THE BLOW MONKEYS 『The Wild River』 Monks Road/Pヴァイン(2017)

本作に直接関係ないが……スタイル・カウンシルや90年代ウェラー作品ではお馴染み、ドクター・ロバート率いるブロウ・モンキーズの近作にはミック・タルボットがオルガン演奏でガッチリ参加! タルボットはウィルコ・ジョンソンやロジャー・ダルトリーのバック演奏などで活動中だ。

 

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS 『Who Built The Moon?』 Sour Mash/ソニー(2017)

95年の傑作『Stanley Road』とオアシスの“Champagne Supernova”に相互参加してから実に長い縁を保っている両者。ウェラー兄貴の作品にはコンスタントに駆けつけているノエルに対して逆の例はあまりないが、こちらのソロ・プロジェクト作に収録の“Holy Mountain”でウェラーはオルガンを演奏していた。

 

意外にもウェラーが手掛けた初のサントラ作品。『Saturns Pattern』の流れにあるような実験的なスコアと穏やかなフォーク風情のヴォーカル曲が同居した一枚だ。スティーヴ・クラドックがドラムで少し助力したほか、同年の自作『Hoodoo Zoo』にウェラーを招いた縁でスティーヴ・ブルックスはここにも参加。

 

PAUL WELLER 『A Kind Revolution』 Parlophone/ワーナー(2017)

前作の完成後にすぐ取り掛かったという通算13枚目。ハイブリッドなソウルフル・ロックから久しぶりのハウスまでアレンジは自由自在。ボーイ・ジョージが歌う“One Tear”もありそうでなかったコラボ。ロバート・ワイアットやPP・アーノルドといった縁あるヴェテランのコーラス参加も興味深い。

 

STONE FOUNDATION 『Everybody, Anyone』 100%/Pヴァイン(2018)

前作『Street Rituals』(17年)でもほぼ全曲にウェラーを招いていたスタイリッシュな英国ソウル・バンド。こちらの最新作ではウェラーに加えてミック・タルボットとスティーヴ・ホワイト、ドクター・ロバートまで参加し、数曲ではスタカン編成が揃い踏みしての演奏を聴かせてくれている!

 

PAUL WELLER 『True Meanings』 Parlophone(2018)

引き続きカイバートと組みつつ、ここ数作のなかではもっともフォーク度の高い内容になった14作目。ゾンビーズのロッド・アージェント、ルーシー・ローズ、ノエル・ギャラガーもハーモニウムなどで参加するなど、どこかメランコリックな風情が伝わる。説明不要な“Bowie”もここに収録。

 

P.P. ARNOLD 『The New Adventures Of... P.P. Arnold』 EarMusic(2019)

ウェラー少年も憧れたであろう60年代〈イミディエイトの歌姫〉が、実に51年ぶりにリリースした新録アルバム。スティーヴ・クラドックが全面プロデュースを手掛けている縁で、ウェラー師匠も曲提供や演奏/コーラスに参加。それ以外にもウェラーのB面曲“Shoot The Dove”カヴァーを披露している。

 

PAUL WELLER 『Other Aspects: Live At The Royal Festival Hall』 Parlophone(2019)

パーロフォンでの最終作となったライヴ盤は、オーケストラとロイヤル・フェスティヴァル・ホールで披露した特別なパフォーマンスに。キャリア集大成的な選曲でジャムやスタカン、初期ソロ曲もあるが、最新作の曲をメインにしているのも彼らしいところか。