タワーレコードの〈NO MUSIC, NO LIFE.〉サイトで連載中の〈ポップの羅針盤〉。ポップミュージックがはらむ〈予感〉について、社会の〈羅針盤〉になり得る可能性について、音楽評論家/ジャーナリストの柴那典さんがその時代性を読み解く連載です。最新の第24回からMikikiにも掲載していきます。今回のテーマは〈ポケモン feat. 初音ミク VOLTAGE Live!〉と「超かぐや姫!」。 *Mikiki編集部


 

それは単なるコラボではなかった。

 ポケモンと初音ミクだからこそ成立した特別なライブだった。3月20~22日にLaLa arena TOKYO-BAYで開催された〈ポケモン feat. 初音ミク VOLTAGE Live!〉(ポケミクライブ!)。そこで深く感動したのは、ポケモンと初音ミクが〈同じ世界線に存在している〉物語性だった。もちろん映像演出や3DCGの技術も大きかったとは思う。でも、単にLEDビジョンの中で隣り合っていたとしてもそうは感じとれない。違う歴史と成り立ちを持つ2つのIP、2つの世界をつないでいたのは〈大切なメロディ〉だった。

 〈ポケモン feat. 初音ミク〉は、ボカロPがポケモンのBGMやSEをサンプリングし、初音ミクをボーカルに起用して様々な楽曲を作る企画だ。DECO*27の“ボルテッカー”を皮切りに、これまで全27曲が発表されてきた。それを披露する場として開催されたのが〈ポケミクライブ!〉だ。

 だから曲調は様々でも楽曲には一貫性があった。さまざまなタイプのポケモンをフィーチャーした曲、そしてピノキオピー“ポケットのモンスター”などポケモンに現実の人生を重ね合わせたメッセージ性を持つ曲が歌われる。一つひとつの曲に、ポケモンと共に育った作り手のボカロPたちの感謝や思い入れが込められている。だから自然とストーリーが生まれる。

 なかでも印象的だったのが終盤で披露された“スパイラル・メロディーズ”という曲だった。この曲にはこんな歌詞がある。

だってさ
巡り逢えたんだよ! La la la
そんな奇跡を 歌おうよ
いにしえのうたも ハジメテノオトも La la la
〈Omoi“スパイラル・メロディーズ(feat. 初音ミク with メロエッタ)”より〉

 〈ハジメテノオト〉は初音ミク黎明期の代表曲のひとつ。そして〈いにしえのうた〉は幻のポケモン・メロエッタが郷愁に満ちた旋律を歌う専用技。この曲の冒頭にはそのメロディがサンプリングされている。それだけではない。ライブの開幕時にも、このメロディが流れていた。つまり、このメロディこそが、ポケモンとミク、2つの世界をつなぐキーとして示されていた。

 アンコールで披露された“クロスロード”もそういう曲だった。2026年3月9日に公開されたkz × TAKU INOUEによるこの曲では、多くのプレイヤーが慣れ親しんだポケモンシリーズのメインテーマが冒頭から大々的にサンプリングされている。

 初代「ポケットモンスター 赤・緑」から形を変え紡がれ続けてきた〈大切なメロディ〉が、時と次元を超えて、ライブでも最後のクライマックスの瞬間を彩っていた。

 「超かぐや姫!」にも、そういう特別な瞬間が描かれていた。

 2026年1月にNetflixで配信されてから異例のヒットとなり、劇場公開も盛況が続く「超かぐや姫!」。竹取物語をベースに仕立て上げたSF音楽アニメのストーリーは、学業とバイトに追われる多忙な女子高生・彩葉が、突如現れた謎の少女・かぐやと出会うところから始まる。彩葉にとって、仮想空間〈ツクヨミ〉の管理人兼人気ライバー・月見ヤチヨの推し活は、唯一の日々の癒やしだ。しかし、突如現れたかぐやの懇願により事態は一変。彩葉がプロデューサーとして曲を作り、かぐやが歌うというコンビで、〈ツクヨミ〉のトップライバーを目指すこととなる。

 ライバー文化やゲーム実況など現代のネットカルチャーを舞台にした「超かぐや姫!」。その物語の骨格はボーカロイドカルチャーにある。“メルト”や“ワールドイズマイン”など多くのボカロ曲が作中でカバーされている。ryo(supercell)が作詞作曲を担当したメインテーマ“Ex-Otogibanashi”を筆頭に、劇中のオリジナル曲も多くのボカロPが手掛けている。それだけでなく〈自分の分身を作り誰もが自由に創作活動を行う〉という〈ツクヨミ〉の舞台設定もまさにボーカロイドカルチャーの本質そのものだ。

 そして、劇中歌の中でも重要な2曲が、yuigotが手掛けた“Remember”と、kzが手掛けた“Reply”。全く違うこの2曲は、一箇所だけ同じ旋律を持っている。物語冒頭で彩葉のスマホから月見ヤチヨの歌う“Remember”が流れる。そこにはこんなフレーズがある。

大切なメロディは流れてるよ あなたのハートに
〈月見ヤチヨ(cv.早見沙織)“Remember”より〉

 ゲーミング電柱から現れた赤ん坊のかぐやをあやしながら、彩葉が子守唄がわりにこのフレーズを口ずさむ。その何気ないシーンにどんな意味が込められているのかは、最初に観た時には気付かない。でも、物語を追っていくと、終盤に流れる“Reply”に同じメロディが含まれていることに気付く。そうしてラストシーンを経てもう一度2周目を観た時に、大事なことに気付く仕組みになっている。そのメロディこそが彩葉とかぐやとヤチヨを結びつけたということがわかる。「超かぐや姫!」も、やはり〈大切なメロディ〉が時と次元を超える物語だ。

 

 そして、〈ポケミクライブ!〉と「超かぐや姫!」には、もうひとつ、大事な共通点がある。それは〈バーチャル空間が現実の人生を豊かにする〉というテーゼ。それが世界観の核心になっている。仮想世界と現実世界の境界線は溶けてきている。それらは互いに共鳴し、支え合っている。

 〈ポケミクライブ!〉で歌われた“ポケットのモンスター”や“たびだちのうた”からは、強固なメッセージが伝わる。ポケモンはIPである。ゲームであり、アニメであり、キャラクターである。でも、それ以上に、その世界に心を掴まれた多くの人にとっては、それぞれの人生という〈冒険の旅〉を歩む大事なパートナーである。そういうことが高らかに奏でられている。

 「超かぐや姫!」でもそうだ。クライマックスで〈本当の想い〉を見つけた彩葉にとっては、バーチャル空間は現実からの逃避先ではなく、人生の〈推進力〉になる。

 株式会社ポケモンの企業理念は〈ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること〉だ。そして初音ミクは〈インターネットに生まれた創作文化の象徴〉である。初音ミクを生んだクリプトン・フューチャー・メディア株式会社は〈メタクリエイター〉をミッションに掲げ、クリエイターの創作を支える技術やサービス、発表の場を作っている。

 〈現実世界と仮想世界の両方を豊かにする〉。二つの作品には通底するフィロソフィーがある。その確信が、あのライブ、あの物語での、胸を打つ瞬間を生んでいたように思う。

 


PROFILE: 柴 那典
1976年、神奈川県生まれ。音楽評論家/ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオ出演など幅広く活動する。著書に「平成のヒット曲」(新潮新書)、「ヒットの崩壊」(講談社現代新書)、「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」(太田出版)、共著に「ボカロソングガイド名曲100選」(星海社新書)、「渋谷音楽図鑑」(太田出版)がある。ブログ〈日々の音色とことば〉。
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