2006年4月3日に放送が始まったアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」。2025年には新曲“無敵的ハピネス!”“Chasing destiny”という新曲が発表され、未だ衰えない人気を誇っている。2026年に入ってからは、アニバーサリーを祝う動きが加速。そこで今回は〈涼宮ハルヒの音楽〉を改めて考えてみたい。アニメ自体が革命的だったのはもちろんのこと、作中で魅力的な音楽が重要な役割を果たしていた「涼宮ハルヒ」。そのオープニング・エンディングテーマソング、挿入曲、劇伴などについてライター/エディター土田真弓に解説してもらった。 *Mikiki編集部

 

〈踊ってみた〉の火付け役“ハレ晴レユカイ”

原作・谷川流、イラスト・いとうのいぢによるライトノベル「涼宮ハルヒの憂鬱」がTVアニメ化されてから今年で20周年。エキセントリックな言動で(人知れず、世界の危機にも繋がる)騒動を巻き起こす女子高生=涼宮ハルヒと、冷静なツッコミ役でもある劇中の語り部=キョンのボーイ・ミーツ・ガールな学園モノ……であると同時にいわゆるセカイ系にも属する同作は、いまや世界中にファンを抱える京都アニメーションが、飛躍的に知名度を高めるきっかけとなった作品だ。

作画の素晴らしさはもちろん、時系列をシャッフルしたストーリー構成(第1期:2006年)や、微妙に演出の異なる同じ物語を8話連続で放送した「エンドレスエイト」(第2期:2009年)といったやりたい放題の仕掛けなど、本アニメが名作として長く記憶に残り続けている理由はさまざまあるが、忘れてはならない要素のひとつに音楽がある。特に第1期のエンディングテーマ“ハレ晴レユカイ”は、仮にアニメ自体は未体験だとしても、耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。

平野綾, 茅原実里, 後藤邑子 『ハレ晴レユカイ』 ランティス(2006)

涼宮ハルヒ(CV:平野綾)、長門有希(CV:茅原実里)、朝比奈みくる(CV:後藤邑子)という〈SOS団〉(ハルヒが率いる学内の非公式団体)の女子トリオが歌う同曲は、作詞を畑亜貴、作曲を田代智一、編曲を安藤高弘が担当。チープなシンセと転がるようなリズム、3人の明るくキュートなボーカルフォーメーションに心が浮き立つポップソングは、SOS団の5人が楽曲に合わせて踊るエンディングのアニメーションも話題に。作画の難しさゆえ、当時はダンスを全面的にフィーチャーした映像が珍しかったこと、にもかかわらず、のちにDVDの特典としてフルサイズ版が公開されたこともあってか、いまで言う〈踊ってみた〉的な動き──記憶に新しい例ならCreepy Nutsによる「マッシュル-MASHLE-」第2期のオープニングテーマ“Bling-Bang-Bang-Born” (2024年)のような──がファンの間でニコニコ動画を中心に流行し、本作の爆発的なヒットの後押しとなった。

 

「ぼっち・ざ・ろっく!」に先駆けたバンドソング“God knows...”

他にも、衝撃的に調子っぱずれな歌唱に気弱ながも懸命な朝比奈ミクルのキャラクターが反映された第1期・第1話の挿入歌“恋のミクル伝説”や、煌めくウィンドチャイムに晴れやかなホーンセクション、麗しいストリングスが織り成すとびきりゴージャスな第1期のオープニングテーマ“冒険でしょでしょ?”(平野綾の2枚目のシングル)など、「涼宮ハルヒ」シリーズではキャストによる主題歌・挿入歌、キャラソンが多く制作されているが、“ハレ晴レユカイ”と双璧をなす人気曲として外すことのできないナンバーが、ハルヒの歌う“God knows...”。翌年に「らき☆すた」の“もってけ!セーラーふく”で互いにターニングポイントを迎える畑亜貴 × 神前暁(MONAKA)の初タッグ曲という意味でも重要なこの曲と“Lost my music”は、ハルヒが飛び入りで参加した文化祭のライブシーンにおける挿入歌だ。

ENOZ 『Imaginary ENOZ featuring HARUHI』 ランティス(2010)

元々はZONEをイメージして制作されたという“God knows...”は、(実は宇宙人のため、人外の能力を持つ)長門による途轍もなくテクニカルなギターフレーズが全編に散りばめられたロックチューン。感情をストレートに解き放つハルヒの歌唱と、西川進(ギター)、種子田健(ベース)、小田原豊(ドラムス)ら手練れのミュージシャンたちが担ったパワフルなバンド演奏とが相まって、性急さのなかに刹那的なエモーションが滲む名曲となっている。

ちなみに、この曲も“ハレ晴レユカイ”と同じく〈歌ってみた〉や〈演奏してみた〉といった体験型のコンテンツを通じて広い層に伝播。さらには、Poppin’Party、奥井雅美、ときのそら、島爺といった幅広いフィールドのクリエイターによるカバー曲もコンスタントにリリースされており、アニメ発のバンドソングが次第に軽音部でコピーされる定番曲へと成長し、〈音楽〉がアニメ作品の枠組みを超えて一世を風靡していった例としては、のちの「けいおん!」や「ぼっち・ざ・ろっく!」の先駆け的な存在と言えるだろう。

そして、これらの人気曲や数々のキャラクターソングは、演者(キャラクター)が出演するライブイベントやオーケストラコンサートでも実演。いまでは当たり前となったアニメ × リアルなライブという音楽エンターテイメントントにも、「ハルヒ」は早い段階からアプローチしていたのだった。

東京フィルハーモニー交響楽団 『涼宮ハルヒの弦奏』 ランティス(2009)